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ひふる

「どう?」

「ここです……確かに」


 携帯を手に取った。まじまじと見つめる。夢に見たときは人がいなかったし、なんならはっきり見えなかったけど、確かに()()だった。絶対を確信させるような、そう思わせる何かが写真にはあった。


「良かった。インターネットで調べても中々出てこないしさ、最初はないのかな、なんて思った」


 カラカラと笑いながら久遠さんは言う。


「でも、調べているうちに出てきて。昔の特集? だったかな。今はもうないみたいだね。店があった村も」

「もうないんですか?」

「うん。跡地としてあることはある。あるけど、誰も住んでないって感じかな。だいぶ前にね、全員引っ越したみたいで」

「全員? そんなことありえるんですか?」


 質問ばかりしていることに気づいて、はっと口を噤む。久遠さんはニコニコしたままだ。


「どうなのかな。俺の専門ではないから分からないけど、あることにはあるんじゃないかな。引っ越すだけの"何か"があればね」

「何か……それがつまり夢の真相ってことですか」

「簡単に言えばね。前に山田くんが言ったでしょ。夢を見させたり、怪奇現象を起こしたりする目的ってなんだろうって。俺は、何かが起こったことを知らせたいのかなって思った」


 久遠さんがあおいだグラスの氷がカランと鳴る。憎らしいくらいに余裕のある久遠さんは淡々と語った。


「人の夢に侵入して、あぁ変な夢見たなぁって記憶に残らせる。それで何十人何百人、下手したら何千人もそんな夢見るとさ、1人くらいが疑問に思って調べだしそうでしょ。可能性のある人に何度も夢を見させて、怪奇現象まで起こして、それで誰かに気づいて欲しかったのかなって」

「もしその何かで、被害にあった人がいたらってことですか……」

「人かは分からないけどねぇ。とにかく困ったか、怨念を抱いているか、分からないけどそんな何かが知らせようとしてるのかなって」


 久遠さんの説明は確かに納得がいった。というか、他に理由も考えられない。村の風習だか事件だかなんだか知らないけど、真相に辿り着いたときに、全てが分かるのかもしれない。


「これからその、村の近くに行って聞き込みとか……」

「周りの人たちは何か知ってるかもしれないもんね」


 あまり久遠さんに頼りきりではいけないと意見も出してみる。久遠さんは案外あっさり頷いた。


「俺、もうそろそろ夏休みなんで学校が終わったら……」

「あれ、早くない?」

「俺の通ってる学校、夏休みだけなぜか他の学校より1、2週間くらい早いんです。だから……来週くらいかな。始まるんで」

「なるほどね。分かった。色々問題もあると思うけど、行ってみようか。夏休みに」

「俺わりと暇なんで、送りますね。スケジュール」

「うん。助かる」


 やっと前進しだした話にホクホクしていると、少し伸びた麺が目に入った。慌てて啜ると、久遠さんも同じように割り箸を割っている。

 今までずっと話が断片的にしか進まなかったし、もっと言えば、俺は主体的に動いてなかったし。訳分からない怪奇現象にばかり戸惑っていた気がする。やっと役に立てそうだし、この恐怖体験を楽しめる余裕が出てきている。

 すっかり久遠さんを信用しつつ、豚骨ラーメンを口いっぱいに頬張った。


「あっ、そういえばさ」


 思い出したように久遠さんが話し出す。


「もう何か変なこと起こったりしてないの?」


 考えていたことをそのまま言われて、肩を揺らした。むせそうになって咳き込む。久遠さんは背中を摩ってくれた。


「今のところは何も……」

「ふぅん。よく分からないね」

「はい……」


 最近は本当に何も無かった。安西の家に行ったとき、お祓いされたのかもしれない。身体の調子もいいし、夢も見ない。本格的に動き出したからかもしれない。


「ずっと見られてるのかな」

「えっ?」

「いや、ずっと見られてるのかなって。俺たちがちょっとずつ真実に近づいてるから、何もしないのかなって」


 どうやら同じことを考えていたようだ。表情の読めないニコニコ久遠さんを見つめながらふと気づいた。安西のことを話すべきなのだろうか。憑かれていると言われたこと、そしてそれが取れたこと。

 久遠さんを見上げると、見れば見るほど、信用していいのかそうではないのか分からない笑み。いわゆるアルカイックスマイルというのに近いのかもしれない。一日中そんな笑みを浮かべ続けられたら逆に気が滅入りそうなものだけど。


「どうなんでしょうね。変だなって思うことは、日常無限にありますし……たまたま何度もそれが起こっただけかもしれないし。それこそ『思い込み』みたいな」

「思い込みかぁ。思い込みは怖いよお」


 見た目には反して説教臭い久遠さんの『思い込み』話を聞きつつ箸を進める。久遠さんはどうやら話に夢中になっているようで、食べるのを止めるべきか迷ったが、豚骨はギトギトになると切ないし。


「あとあれだなぁ、小学校の頃にさ、転入生が学校に来たことがあったんだけどそいつが働いた悪事を他のクラスメイトのせいだって言い張ったことがあって。みんなその転入生の言うことが正しいって思い込んで。だってさすがに転校してきた学校ですぐにそんなことすると思わないじゃん? 今でもトラウマなんだけどさ、その押し付けられた子が中学に上がって自殺しちゃったんだよね」


 どこかで聞いたような話に、思わず慌てて水を飲む。今日の久遠さんはいつになく饒舌だ。よく見ると頬が少し赤らんでいるような気もする。じっと見つめたら気づく程度、もしくはそれこそ『思い込み』かもしれないけど、酔っているのかもしれない。


「どうなったんですか? その後」

「遺書に、僕の地獄はここからだってその事件について書かれていて。卒業間近の出来事だったから、みんなして最後までもう毎日お通夜みたいな感じで。そのあとは知らないな。小中高一貫校だったんだけど、転入生は高校に上がって学校に来なくなったし、自ら怪我しようとする人なんていなかったし」

「そう、なんですか……」


 転校生が悪事を人に被せる――すぐにうさぎ事件が頭に浮かんだ。

 俺も転入生のその後は知らない。彼とは学校が別れたから。人脈の広い道也に聞いたら分かるかもしれないけど。


「なんだか怖いですね」


 思わず呟くと、久遠さんはただあざとく首を傾げた。

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