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君の為の進行劇  作者: ラツィオ
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第97話 大胆な作戦決行の合図

 

 大広間に着くと湯江はなんの躊躇(ためら)いも無くゆっくりとドアを開ける。そこには昨日と似た料理が並べられていた。それ以外にも蕩けるようなチーズフォンデュや濃厚なビーフシチューや20年物のワインが追加されていた。


 大広間全体に広がる馥郁(ふくいく)な香りは昨日の美味を脳裏で爆発的に連想させる。ドンに至っては口からダラダラと涎を垂らしていた。


 テーブルはあれだけ広いのに席は二席しかなかった。どうやら、食事をするのは湯江とイザベラだけらしい。


 そして湯江が先に席に着くと『どうぞ』と言いイザベラを席に誘導する。イザベラが席に着くとイザベラの部下たちはイザベラの背後に立ち腕を後ろで組んで立っていた。


 ドンとキャンシーとダイスはその部下たちの背後に立ち、俺とレイナとシルビーは席に着いた湯江の背後に立つ。


 そして静かに会食が始まった。俺はバレないかどうかが心配だったが他のみんなも堂々としていたので俺も気弱にいかずにすんでいた。


 「では、改めまして、今回は我々漆黒の覇者との取引に応じてもらい深く感謝いたします」


 イザベラが深くお辞儀をする。


 「そんなにかしこまらなくても大丈夫です。我々サイコスピリチュアルとしてもそろそろ勢力を拡大させるには漆黒の覇者である貴方たちの力が必要ですからね」


 丁寧に返答する湯江。


 「そうですね。我々のような闇の住人は互いに手を取り合い共存する事こそが利を得やすいと言うものですからね」


 なぜか心にもない事を口にしているような感じに俺の心ではイザベラの言葉に違和感しか感じなかった。湯江も態度には出さないが同じことを思っているのかもしれない。


 「ですね。では早速取引の話に入りましょう。今回こちらが提供するのは、硫酸100万リットル。火薬50トン。危険指定生物の百切りカマキリ500匹に、同じく危険指定生物の捕食人生のアナコンダマッスル100匹、そしてチワワ一匹ですね」

 

 どこから突っ込んでいいんだ。あんな物騒な物の中になんでチワワ?お願いだから一緒の場所に乗せないでね。


 「ええ、そちらで間違いありませ。こちらも約束の1000億をお支払いします」


 淡々と交渉が進んでいく中、俺たちは作戦決行の合図を待った。


 そしてドンが何やら身体をモジモジしだした。どうやら湯江とイザベラの交渉にただ立っているだけの仕事に飽きて来たんだろう。


 更に加えドンは暇つぶしに正面にいる俺たちの前で変顔をし始めた。左右の頬を上下に伸ばしたり摘まんで伸ばして見たりなどして俺たちを笑わせに来た。それを見た湯江を含めた俺たち4人は『ぶふっっ!』と思わず吹いてしまった。


 「いかがいたしました?」


 不審に思ったイザベラは俺たちの顔を鋭い目で覗き込む。


 「い、いえ、なんでもないです」

 「そうですか。それより貴方たちとはどこかでお会いしましたか?」


 湯江は一瞬慌てはしたものの、なんとか姿勢を立て直した。しかしさっきの不審な言動にイザベラに別の疑惑の眼差しを向けられた。


 普通ならここでまずいと思うのだが俺たちは違った。実は......。


 「今ですバイ!!」


 そう実は、イザベラに少しでも疑われたのなら、奇襲すると言うのが作戦決行の合図だった。イザベラ達の背後を取った時点で既にその準備は整っていたのだ。湯江いわく、『思い通りに事が運ばなければ暴力を駆使し、その先を掴み取れ。それこそが人間の(さが)』と言うのがサイコスピリチュアルの信念らしい。


 やっぱりサイコスピリチュアルは敵に回したくないな。


 そんな事を思っている内に、イザベラの背後にいたドンたちは湯江の合図で黒いスーツの男10人に奇襲を仕掛けた。キャンシーは放電が浴びせ、その怯んだすきに、ダイスが重力の黒い塊を放ち、黒いスーツ10人をその重力の塊に引力で強制的に引き寄せ重力の塊に張り付けさせた。


 まるで粘土に紙切れでもくっつけたかのように簡単にくっついた。


 重力の塊にへばり付きながら、まる焦げになりプスプスと黒い煙を身体から上げていた10人の黒いスーツの男たちは巨大な黒いダンゴ虫状態となっていた。


 浮遊するダンゴ虫状態の部下を見たイザベラは酷く狼狽していた。

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