第94話 一夜の波乱の行方は?
一変してから更に一変する周囲の空気は重くなる一方だった。レイナとメルヘンは互いにバチバチと火花をぶつけ合うように睨み合う。
俺はそんな二人を見て唖然としていた。
「この人はハジメといい、貴方が探しているドンと言う人物はここには存在しません。ですので今すぐお帰りください」
メルヘンに炯眼を飛ばすレイナは泰然としていた。
「何よあんた?言っておくけど女の出る幕じゃないわ。今すぐそこをどきな。さもねえと」
おねえ口調から、野太い声に切り替わるメルヘンは今にでも飛び掛かりそうな空気を放っていた。
「そうですか。お帰り願えないのなら致し方ありませんね」
レイナはそう言うと杖を魔法で取り出しメルヘンにその先端を向ける。すると......。
ダダダダダダダダッッッ!
俺とレイナが俺の部屋から通った先から何かが走ってこちらに向かってくる音が聞こえる。
俺たち3人が何事かとその音の方に目線を向けたその時――
「オラーーーーー!!」
ドカッ!!
「ぐはっ!!」
なんとこちらに向かい飛び込んできたのはドンだった。そしてメルヘンに目掛け渾身のドロップキックを顔面に食らわせた。
そこから10メートル先まで蹴り飛ばされ一階にまで落ちていき、仰向けに寝転んだ。
「......あの野蛮さ......まさか......あいつが......ド......ン......」
メルヘンは昇天する様な面持ちでそう言い切るとガクッと全身の力が抜け落ちたように気絶する。
まあ、さっきのドンのメールと今のドンの行動を重ねたら誰だって同一人物だって分かるよな。
俺の前でクルリと一回転しスタッと着地するドン。
「それにしてもドン。いくら何でもやりすぎなんじゃないか?」
俺はメルヘンを憐憫の眼差しを向けた。それにしてもよくあいつがメルヘンだってわかったな。ドンの新たな能力とか?
「仕方ないだろ。俺の勘があいつをぶっ飛ばせて言ってたんだからさ」
本能のままに動いただけかい!!て言うかドンは女なんだよな!!?
あっけらかんとするドンに俺は肩から崩れ落ちそうになる。しかし隣にいるレイナは何故かクスクスと微笑していた。
「フフフッ。ドンは本当に奔放ですね。少し羨ましいです」
するとドンはキョトンとした顔をした。
「ああ、これが俺の本懐だからな!」
「ぷっ、アハハハハッ!!なんだよそれ!」
ドンの無邪気な笑顔に俺たちは高笑いを上げた。ドンの純粋さはこの場の空気を笑顔に一変してくれたのだった。
こうして俺たちの長い一夜が開けたのだ。そして時は流れイザベラがヒーリング会社に到着する10分前、夕方の5時50分には執事とメイドの支度を終え、ホールの前で出迎えの準備をしていた。




