第93話 忘れていたあのお方
そう、なぜなら先程レイナの文面には私とお付き合いを前提にお会いしないかと言うものだったからだ。その期待を胸に扉を出てからと言うものの、俺の胸は弾けそうに鼓動が高鳴っていた。華奢で滑らかな手で力強く握ってくるレイナを後ろに、俺はレイナの告白を期待していたのだ。
通路を小走りで歩いていくと、広いホールに差し掛かる。豪邸の様な二つの階段が両サイドにあり、その階段を上っていき、上に着くと、レイナは握っていた手を放した。
「あのですねハジメ。先程メールで私が書いた事なんですけど......」
モジモジしながら、か細い声を力いっぱいひねり出そうとするレイナ。
「うぅぅ!うん!」
明らかに動揺しまくる俺はなんとか姿勢だけは崩さまいと全身に力を込める。
「私は......その......ハジメの事が......」
レイナのか細い声に俺の身体にはかつてない程の緊張で支配される。
レイナが重要と思える言葉を発する前に大きく息を吸い込む。
「すっ――」
そして正にその瞬間だった。
バアンッッ!!
「オラーーー!!来てやったぞクソドン!!!テメーーーちゃんと身体は洗ったんだろうなあアアアーーーゴラアァァーーーー!!!」
勢いよくドアを蹴あぶる音がホール全体に鳴り響くと、けたたましい野太い猛獣の様な声でヒーリング会社に現れた男が鬼の様な気色で姿を現す。短髪で目元には赤いアイシャドーと口紅が塗られ2メートル近い筋骨隆々な大柄な男だった。ファッションがタンクトップで短パンだったため、そのギャップに嫌でも目が釘付けになる。
えっ!?あれって、もしかしたら......。
俺はもしや先程のドンのメール相手のメルヘンかと脳裏を過った。困惑する俺とレイナに気付いたその男はその炯眼を俺たちに向け、ズカズカと歩き出す。こちらに向かってくる男は階段を上がり俺たちの前に仁王立ちする。
「あんたら、ここにドンて奴がいるはずなんだが、知ってるか?」
どす黒い妖気なような物を放つその男は未だに鬼の様な相好をしていた。
「えっと、もしかしたら......メルヘンさんですか?」
近くで見れば見る程、化粧で塗られたごつい顔からはムンクの様な悲鳴を上げているように見えるし、何より強烈な柑橘系の匂いが鼻腔を嫌でも抜ける。
俺はその異様なプレッシャーに耐えきれず、唇をフルフル震わせ思わず思った事を口にする。
「知ってんだな。だったら話は早え。今すぐ引きずってでも連れてこい。でなきゃ、今すぐお前の身ぐるみはいで俺のあそこと合体させるぞコラアァ!!」
メルヘンは、怒りの沸点が見えない程、激怒していた。その怒りの溶岩が溢れ出てるせいか、完全に俺にまで迸りがきていた。
そんな理不尽な怒りの矛先を向けられた俺は、その気迫に飲み込まれ、どうしたらいいのかと酷く困惑する。
「そうか、そんなに仲間を庇いたきゃ望み通り、てめえをひん剥いて、今すぐドッキングしてやるよ!!一発やんねえとこっちは収まらねえんだよ!!!」
ぎゃあああああぁぁ!!!!!
俺に迫る筋骨隆々な男の手。しかし......。
「やめなさい!!」
レイナが俺の前に出て、鋭い声でメルヘンを静止させる。
「なんだてめえは!!女に興味はねえんだ!!どかねえと、そこいらの性欲まみれの飢えた男どもの餌にしてやろうか!!!」
メルヘンの剣幕にピクリとも動じないレイナは音も無く心の淵から怒りのマグマを呼び起こしていた。




