第70話 奇怪な影 2話
しばらく歩いていると見晴らしのいい公園に差し掛かる。辺りには誰も居なくブランコや滑り台などが物寂しくポツリと置かれているような寂しい風景だった。そこで光輝は足をピタリと止めた。
「この周辺が被害にあった中心点だ。念の為この公園を調べるぞ。一番怪しいのはやっぱり公衆トイレだな。行くぞ」
公衆トイレに向かう俺たち。そのトイレの外壁は茶色く薄汚れていて落書きもされ年季の入った感じだった。
近づくにつれ鼻から不快な異臭がしてきた。最初はトイレだからと致し方ないと思っていたが、そのトイレの入り口に立つとその異臭はトイレから漏れ出る匂いとは全くの別種だと脳裏でしっかりと認識する。
「ねえ、女子トイレから匂わない?この変な異臭」
「......まさかこの匂いは」
女子トイレに目を向ける俺たちは戸惑いながら重い足取りで女子トイレに入る。入った瞬間その別種と思える不快な匂いは鼻の粘膜を貫通する勢いで、充満していた。
すると光輝は匂いの集中していると思われる場所のトイレの戸を開けた。光輝はそのトイレの蓋を開け便器の中を覗き込む。
「まさかここで当たりを引くなんてな」
一体なんの事かと目を点にする俺。光輝の背後から覗いても死体らしき物はどこにもない。
「なんの事?」
「便器の中をよく見て見ろ」
そういうと光輝は便器に向け首を振り、俺は便器の中を覗き込む。すると便器の淵辺りに黒ずんだ血がこびり付いていた。おまけに底には流しきれていない細かな肉片の遺物があった。
「......もしかしたらだけど、これって」
「死体だ」
最悪な展開だった。周囲からの別種の匂いの正体は死臭だった。気付けないのも無理もない、血の臭いだけなら未だしも、人間の肉片にトイレの異臭まで合わされば嗅覚だけで断定できないだろう。俺は今までに感じた事のない悪寒が走る。余りの衝撃に便器から目が離せないでいた。
でも他にも別の匂いが混じってる気がするけど、これは......。
「正確に言えば消化しきれなかった死体だがな」
「えっ!消化ってどういう事!?」
「ここから発せられてる匂いはトイレの異臭や死臭だけじゃない、生物から排出される消化液や尿臭だ。つまり食われたって事だ。これだけ匂いが入り混じっているから直ぐには気付けなかったがな」
動揺する素振りすら見せない光輝の目は悔しさで震えていた。もしかしたら俺以上に人情深く誰よりも美優ちゃんを助けたかったのかもしれない。
「もしかして美優ちゃんは......食べられた!?」
「......ああ」
「でもこれが美優ちゃんだって可能性は!」
「よく見て見ろ。この血や肉片はここ最近の物だ。娘さんはもう10日も前に、これと類似の事件に巻き込まれている。あの子だけが別の事件に巻き込まれた可能性は極めて低い」
光輝は冷静に分析し淡々と説明する。俺はその公算に心の淵で絶望に見舞われる感覚がした。
「貴方たち......ここで何をしているのです?」
捜査に専念していたせいか、一人の女性の存在に話しかけられるまで気付けなかった。その女性はウェーブの黒髪に黒いスーツを着ておぼろげな瞳をしていた。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
奇怪な影はここで終わります。
引き続き、君の為の進行劇をよろしくお願いします。




