第56話 母なる大地に 4話
目の前に居もしない存在に場の空気が肌に針を刺すように張り詰め冷や汗を流させる。認識できない敵が狂気に満ち溢れていく感覚が俺の心臓の鼓動を激しくさせていく。
《ですが夫は最後には町の住民を許すと言っていました。しかし私が許せなかった。必ず奴らに報いを受けさせるため夫が開発した機害を盗み私が手を加えたのです。そしてようやく私の悲願は成就しようとしている。ブラスタに残る最後の町を消せば》
「しかしそれが出来ない。何故ならあの町には奇勝石があるから」
シルビーがピュアイゾン言葉の先を読み口をはさむ。
《ええそうです。あと少しだと言うのにあの忌々しい石が私の意思を拒む。夫の思いを無下にしたからにはここで立ち止まるわけには行かない。私には私の意地がある。だから......こそ......うっ、う......》
途中で言葉の歯切れが悪くなったピュアイゾンは何故か嗚咽を漏らしていた。そしてその奇勝石が誰が作り出した者かも少しづつだが脳裏にその人物像が浮かび上がる。
「......もしかして......マーベルが奇勝石を?」
《そうです。生前の夫は私に何か目論見があると察しあの奇勝石を残したのです。そして夫は病と疲労で倒れこの世を去った。だから私は本当はどうするべきなのか......今でも......迷いながら......くっ」
どうやらピュアイゾンにはまだ迷いがあるらしい。この世界を掌握する事にピュアイゾンの復讐とマーベルの思いが重なり矛盾した答えを出し続けているのだと。
「もう十分だと思うぞ。残りの町は一つなんだろ。だったらもう十分だろ。俺は正直言うとこんな争い馬鹿げてると思う。だからこそお互いの痛み分けならもう十分すんだろ。いい加減、旦那さんの思いを汲んでやってピュアイゾンも休みなよ。こんな事でこの星が滅びるなんて様、俺は見たくない。なんにだって希望は必要だ。あの町は人類が己の意思で歩く為に必要な希望だ。それまで奪ったらあの世にいるマーベルも悲しむと思うよ」
俺は思いの丈をピュアイゾンに語った。そうでもしないとピュアイゾンが可哀そうに思えたからだ。
《......わかりました。ただ一つ条件ではなくお願いなのですが、マーベルが私にくれたこの指輪を奇勝石の近くに置いてくれませんか?》
ピュアイゾンがそういうと一体の機人兵がこちらに向かってくる。武装を解除し両手で何かを大事そうに持っている様子だ。そして機人兵が俺たちの元に到着すると両手から指輪を差し出した。ダイヤが埋め込まれそこからは眩い光沢が放っていた。
「......分かった。必ず置いてくるよ」
《ありがとうございます》
俺はその指輪を軽く握りしめピュアイゾンと硬い約束を誓った。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
母なる大地にはここまでです。
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