第5話 新王と四人の賢者
ゲートを通った俺たち、そこで目にしたのは辺り一面に花が咲き、その間に道が出来ていた。
「うわあ、いい匂い、間の道以外、花しかない」
俺は鼻から目一杯、充満した花の匂いを嗅ぐ。
「一君、上を見てごらん」
シルビーは前方の位置から斜め上を指さし俺は首を傾げその指の示す先を見た。するとその上空に巨大な庭付きの宮殿が浮上していた。ただでさえでかい宮殿をさらに覆い隠すほどの庭、俺は顎を上に突き出しながら口をあんぐり開けていた。
「シルビーさんこれはどうい事でっしゃろ」
「何だい今のは、アハハハハッ!」
思わず方言を崩壊させる俺にシルビーは腹を抱えて笑う。
「ごめんごめん、まあ困惑するのも無理ないよ。なんせ今までほとんど何もない所で三カ月もいたんだからね」
集点が定まらない俺を横目に淡々と話すシルビー。
「今まで何をしておったシルビー・グラウン」
不意に脳に響く神神しい声に俺はハッと驚く。
「まさか、貴方が出迎えてくれるとは思いませんでしたよ。......新王」
シルビーのその言葉の直後にパッと光の粒子が集まるかのように表れたのは、新王だった。王冠を被り髭が生えた長身なご老人、皇后しいロープに身を覆い、いかにも王様と言う感じのスタイルだった。、
「シルビーの次に会う人が王様なんて。......ははは」
新王の威厳に肩から崩れ落ちる気持ちに耐えた俺は口から漏らすように笑っていた。
「言われてみれば確かに一君が僕、以外に合う人が新王様って凄い偶然だよね」
相変わらずのマイペースなシルビーにさすがの新王の眉間にも皺が寄り始める。
「貴様はどれだけ軽率なのだ、あれからどれだけの月日が経ったと思うておる」
「と、言いますと?」
なんの事だろうと俺とシルビーは共に首を傾げる。
「このたわけ! 貴様がその者を匿い育て上げると言ってから100年の月日が経っておるわ!」
「......えっ、100年!!!」
「......えっ、100年!!!」
俺とシルビーはその場でずっこけるようなリアクションになった。
「ちょっとお待ちください新王! 私は確かに三カ月の期間を測ったはずですが。 何かの間違いでは!」
慌てながら新王に身を乗り出すシルビー。
「ならば来るがよい。その証拠、いや、経過を見せよう」
そう言うと新王は深くため息をつき、背後を向きだした。すると新王の前に光の階段のようなものがピアノの鍵盤をなぞる様に下から浮上している宮殿に目掛け現れた。
「うわあー すげえ」
神秘的な光景に思わず口にする俺に新王は振り向き微笑した。俺はと言うとそれには気付かなかった。
「ゆくぞ」
新王の一言に俺とシルビーは背をピンと伸ばし前を歩く新王に続いた。
「それにしてもシルビーなんで俺をこんな場違いな所に連れてきたの?」
新王の前を歩きながら横にいるシルビーにぼそりと問いかける。
「ここで一君の養成を新王に頼んだんだ。そしてその報告をしにここに来たってわけ」
「そうなんだ。それにしても俺なんかの為に宇宙の王様に許可をもらいに来るとか、大げさすぎない」
俺とシルビーの会話に新王が足を止め、こちらを振り向く。
「もしや、シルビーから聞いておらんのか事の重大さを」
「えっ、重大?」
なんの事かと俺は首を傾げるが、シルビーは何かを思い出したかのように自分に呆れたような外面を表していた。
「やれやれ、全く。その者、名はなんと言う」
えーー! こんな所で自己紹介!? 人の影も分からない所まで登ってるんだけどーー!
俺たちは人が小石に見える位置にまで上り詰めていた。
「えーと、東条 一って言います」
「では一よ、お主が転生者と言う事は聞いておるな」
「えっ、あ、はい」
新王は目線をシルビーに向けるとシルビーは額に汗を滲ませ小刻みに何度も頷く。
「よいか、転生者と言うのはこの世に流れ着いた異界の者というだけではなく。その強大な力と悪因にある。故に100年前までに起きていた経済、文明、社会に多大な障害を与え、人類は疲弊していったのだ」
「えっと、悪因に関しては理解できるんですけど、強大な力と言うのは?」
俺はふと疑問に思った事を口にする。
新王は眉間に皺を寄せシルビーを威圧する。
「あのですね新王。あの小惑星では僕と一君しか居なかった物でして、他人と比較しようにも説明する機会がなく、あはははは......」
「もうよい」
苦笑いで弁明するシルビーに新王は目をそらす。
「もしかして俺にもその強大な力があるって事ですか?」
「そういう事だ」
俺の問いに新王は深く頷く。
ここに来てからの経由を振り返れば生前の俺と今とでは余りにも異なる存在だと思い返させられる。つまり納得したのだ。
「そんな事より新王、早く行きましょうよ。僕こう見えて高所恐怖症なんですよ」
「初耳だわ、たわけ!」
可愛らしく声を出すシルビーに新王は一喝した。再び上りだす俺達、そして宮殿へとたどり着いく。辺りにある庭を見回してみるが風の音しか聞こえない無人だった。
「こんなに広い場所なのに誰もいないんだね」
「ここに住んでいる者は余を含め二人だけだ」
「えっ! 二人!!」
思わず声を跳ね上げた俺は、辺りをもう一度、見回してみる。半径50キロの敷地である庭とその中央に位置する宮殿は30階建てのビル程の大きさだった。
「新王には娘さんがいてね、その子と二人暮らしなんだ。まあいくら何でも不釣り合いな住まいとは僕も思うけど」
「仕方なかろう。貴様もその理由は知っておろうに」
二人の意味深な会話に俺はキョトンとした表情を浮かべるが深く追求しない方がいいと思い、その場で口は出さずにいた。
「さあ、着いたぞ」
なんとも立派な門が構えていた。そしてそこに着くと自動にゴゴゴゴっと開き始め、俺たちはその先の極太い柱が並ぶホールへとたどり着き、先程より小さめの門が静かに開き始める。俺は中を見て驚いた。豪華な階段にシャンデリア、でかい窓、いかにも宮殿と言うイメージの内装だった。
「では、参るぞ」
そう言うと新王は杖を魔法で具現化し、杖の下先をコツンと叩く、すると魔法陣が下にブワーと描かれ、俺たちは息をする間もなくワープした。
「えっ、ここは!」
辺りを見渡すと真っ暗な空間、そしてその中央には青白い光に包まれた巨大に描かれた魔法陣。俺たちはそれとは別の新王の魔法によってワープしていたのだ。
「ここは、宇宙全土を外観から監視するための眼房の間だ。この下に刻まれているのはルーンと呼ばれている魔法陣よ」
「そ、それで新王、100年の月日が経っているというのは?」
慌ただしく聞くシルビーに新王やれやれと言った表情で杖の下先をコツンとルーンにつく。すると、刻まれたルーンがブーワーと白く光り、部屋の下、一面に外の世界が映し出された。
「見よシルビー。貴様の知っている文明と今を比較してみよ」
「こ、これは、僕の知っていた荒れた世界と違う。まさかここまで発展しているとは」
見た事もない種族や人間がテントで出来た繁華街みたいな町を賑わらせている。しっかりとした建物が建築されているなど町は活気だっていた。
驚きの表情で満ちているシルビー。俺は映し出されている外の世界に目がくぎ付けだった。
「理解したかシルビーよ」
「......ええ」
ぼそりと言うシルビー。
「すいません。俺のせいなんです!シルビーは俺を助けてくれて、強くしてもらって、俺のために時間を費やしてくれて、だから、だから」
「我は、怒っているわけではない、ただ......」
擦り切れるような声でシルビーを庇おうとする俺だが新王はシルビーに近づくと頬を指先で抓っていた。
「いたたたたた」
シルビーはわたわたした表情を無理やり作らされた顔になっていた。意外とアットホームな空気に俺は苦笑いしていた。
「この間抜け顔のミスに少々、呆れているだけよ。まったく異世界を創るにしても、現実との時間軸を乱すとは、貴様は昔から少々、抜けているところがあったが、今回は安保としか言いようがないわ」
そういうとシルビーを抓っていた片手をパッと放す。
「やはりそういう事でしたか」
シルビーは抓られた頬を摩っていると、後ろの扉からバンッと勢いよく扉が開く。
「お父様!」
その先にはプラチナブロンドのロングヘアー、パッチリとした二重、ツンとした高い鼻の可憐な女の子、そして巨乳だった。
「おお、レイナよ! どうしたのだ血相を変えて?」
「どうしたもありません! 外に強大な気と魔力が、突然この部屋まで、飛んで......てあれ、そこにいるのは、シルビー様?」
覗き込むようにこてらに近づく謎の美少女。
「お久しぶりですね。レイナ様」
「まあ、やはりシルビー様ですねお久しぶりでございます。100年ぶりですね。すいません。いくら月日が経っていたとはいえ、シルビー様の魔力を忘れてしまうとは」
「仕方ありませんよ。当時のレイナ様は、まだ10歳ほどでしたから」
突然の事に俺は思考が困惑する。なんせ目の前の女の子が110歳と言っているような物なのに、とてつもなくかわいい女の子だったり、それを考えると新王も100年以上、生きていて少し年長者に見える程度だった。俺はこの二人が不老不死なのかと脳よぎらせていた。
「おっと、ごめんね一君。紹介するよ。この方はレイナ・ロンド様。新王のお子様なんだ」
「もう、シルビー様。私はもうお子様と言う年ではないですよ」
頬を膨らませるレイナに新王は、少し俯いていた。
「それと、そこの殿方は一体......強大な気を持っていますが」
「レイナよ紹介しよう。この者は東条 一。この宇宙で第二の生を受けた異世界人よ」
そこで何故かレイナの表情は徐々に険しくなっていく。
「ッツ!」
レイナは一変して俺を親の仇のような目で睨みつけ勢いよく扉から出ていった。
「えっ、どうして? もしかしてしなくても......俺が原因?」
場の空気も一変して重く圧し掛かる。俺は二人に当惑した表情を交互に向ける。
「すまぬな。本当はあの場でお主が異世界人である事は伏せるべきだっのだが、あの子に嘘は効かんのでな」
「つまり、どういう事?」
新王の意味深な発言に俺は当惑した表情のままだった。
「私から説明いたしましょうか?」
「......嫌、父である余が話すのが道理であろう。少し話が長くなるが良いか?」
「......はい」
新王は俺に向けて問うと、少しの沈黙の後に俺は頷く。
「数百年前までこの世界はあらゆる厄災で満ち溢れておった。衣食住もままならぬ民たちに、深刻化する経済。それらを脅かす筆頭にいたのが異世界人たる者たちよ。先程も話したが大半の異世界人たちは強大な力を持ってこの世界に転生する。そしてその未知の知識や悪意が我々には脅威だったのだ。この星も例外ではなかった。昔は大臣や傭兵、民たちなどで賑わっておったが、やつらに狙われてな、我が妻、エレナがレイナの目の前で異世界人に殺されたのだ。
「......ひどい」
部屋に充満する重い空気の中でぼそりと言う俺に新王は続けて話す。
「ああ、本当に酷い有り様だった。妻の死に、余は近くにすらいてやれなかった。しかしシルビーがお主を匿うと言った100年前の事だ、ある救世主が現れた。この宇宙であらゆる奉仕活動にあたり、疲弊したこの宇宙をたちまちに回復させていったのだ。そしてその者は異世界人なのだ。その者の所在は未だ掴めずにいてな、今では生きる伝説となっている」
「あの新王。話の最中に申し訳ないのですが、私はその辺は、初耳なんですけど」
オロオロした声のシルビーは額にまで汗をかいていた。
「当然であろう。貴様は100年もの間、帰還していなかったのだからな。おまけにダイスに教えを請いに一度、帰還した物の、現状もろくに確認もせず早々とこの者の所に戻り追って」
「ハハハッ......面目ないです」
困惑するシルビーを横にそれ以上に困惑する俺。
「あの、ダイスって?」
「その様子だとシルビーが四賢者の一人と言う事も知らぬな」
シルビーが賢者!! 賢者ってゲームの中とかじゃ大魔法が使える上級職みたいな人!!
驚愕する俺を前に、新王は、横にいるシルビーに『またかこいつ』という憐れみな目を向けていた。
「すいません新王。どうにも順序を飛ばす癖が私にはありまして......」
「全く、よいか一よ。この世界には余の次に権能を持った配下が4人おる。そしてその者たちは賢者と呼ばれ、この世で認知されておるのだ。ちなみにお主に技を伝授させようとシルビーが会いに向かった者も四賢者の一人、ダイスという物だ。そうであろう。シルビーよ」
「さすがは新王。私が出向いた理由もお分かりで」
新王とあたふたするシルビーの間で上司と部下の関係性が見えるような会話であった。そんな二人の前で俺の脳裏にはある事がずっと引っかかっていた。
「あの新王様、さっきあの子には嘘が通じないと言うのはどういうことなんです?」
「それはだな、あの子には相手の嘘を見抜く、読心術のような物が備わっておる、だが読心術と言っても、真実か嘘か相手を攻め立てた時にYESかNOの二択の一択がレイナにテレパシーのような感覚で伝わると言うのだ。それにしてもお主よ、なぜ先程のレイナに忌避されたことに怒らぬのだ」
新王は俺の目を真っ直ぐに見つめてきた。
「実は生前での俺は虐められていて人に忌避されていたのが、日常だったんです。だから慣れてるんです。でも弟だけは、俺の事は気にかけてくれてました」
俺は遠くを見つめるように儚げな声で新王に答えた。
「......そうであったか」
少し間を置いて新王は声を絞り出すように答えた。
ブオン!
不意に鳴りだす妙な効果音と共に下から抜け落ち俺の身体がフワッと浮く感覚が全身に伝わる。そして何故か俺は上空から降下していた。
「うわああああーーーー!!!」
俺は悲鳴と共に上空から落ちていく。
「新王、ここっ、これは!」
「しまった! あそこには試しにと思い転移魔法を張ったルーンが!!」
「何故そんな所に!! あっ、あなたは!? お待ちを!!」
新王とシルビーは互いにパニックに陥っていた。そこで一人の人物が俺が抜け落ちた転移魔法の中に飛び込んだのをシルビーが引き留めようとした。
「なんで!どうしてこんな!!」
俺は上空を降下する中で思考が乱舞するような状態で、何か手段はないかと先が見えな高さから必死に思考を働かせるが、身体全体が抜け落ちる感覚にパニックに陥っていた。
くそ! 何か方法はないか!!
そんな事を考えているときだった。不と、上空から何やら女性の叫び声が聞こえてきた。
「きゃあああああああ!!」
何かと思い上を見てみると、見掛けたことがある人影が、
「レイナ姫!!」
思わぬ人物に俺は声を張り上げた。そしてレイナ姫も俺に気付き風圧に耐えながらも徐々にこちらに近づいてくる。
「――さあ、私の手を!!」
「――あっ、はい!!」
レイナ姫の突き出すような手に俺も手を伸ばす。そして指先が触れては離れてを繰り返しながらも、なんとか掴んだ相互の手。レイナ姫には何か方法がと、俺は期待の眼差しをレイナ姫に向ける。
「どっ、どうしましょう!?」
えーーーー! まさかの無策!!
ここにきてレイナ姫のまさかの天然キャラに俺は絶句した。しかしそんな時間は長くは続かないことは下を見れば、うっすらと見える地面にペシャンコだと言う事は一目瞭然だった。
(なんとかしないと、じゃなきゃこの人も)
俺は必死に考えた。そして不と重力が頭に浮かんだ。落下は目と鼻の先だった。そこで俺は無我夢中でレイナ姫を片手で抱きかかえ、もう一方の片手に気を練り込む。
「ハッ!」
落下の直前に重力の塊を地面に撃ち込み、一瞬、巨大な風圧を作り上げ俺たちの身体はフワッと浮く、そしてすぐに引力に引き寄せられそうになる前に重力を消した。
「きゃっ!」
可愛い悲鳴を上げるレイナ姫を、俺はお姫様抱っこをして地面に着地した。