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君の為の進行劇  作者: ラツィオ
3/111

第3話 三カ月間の修行

 「ねえシルビー、俺の過去の事なんだけど」 


 俺は思い返す過去の苦痛に耐えきれず、思わず口にしてしまいそうになるが......


「一君、その話は君が強くなってからだ」


 しかしシルビーは俺の言葉を遮り、何故か真っ直ぐ俺を見つめてきた。


 「えっ、どうして」


 「う~ん、なんとなく僕の直観かな」


 あやふやな理由で場を濁そうとしたが、俺はそれでよかったと思った。今、言ってしまうと、前へ進めなくなってしまいそうだからだ


 「とにかく、明日、明日。一君の覚悟も決まったことだし、明日から特訓開始だ」


 「そうだよね。3カ月しか居られないんだし......でもそんな期間で強くなれるのかな?」


 「その辺の説明も明日するよ。今してしまうと、よく寝れないだろうし」


 えっ、どういう事!!


 俺の質問に悪魔的な笑みを含ませるシルビーは少し意地悪に見えた。


  ー次の日ー


 「さあ一君。今日から修行だよ」 


 朝食後、軽快な足取りで、先に外に出るシルビーに対し俺は欠伸をかきながら、続いて外に出た。 


 しかし視界に入った外の光景に、その欠伸も思わず息を呑むように飲み込んだ。それはと言うと......


 「何だよこれ......何で一夜でこんな」


 宿屋の周辺には昨日には無かった岩石が疎らに配置され、立派な樹木が何本も立っていた。森林に近いイメージだった。


 「実は深夜の内に僕が修行に必要な環境を作ろうと思って設置しといたんだ。後、宿屋裏も見てごらん。面白い物があるよ」


 俺はその言葉を聞いて直ぐに駆け足で裏に回った。


 「えっ、人!」


 そこで目にしたのは人は10人程、背後を向いていた。ドキドキしながら慌てて回り込んだ俺だった、しかし......


 「――これって!」


 それは、回り込んだ俺に何も反応しなかった。顔の前で手を振るなどしてみたが、それでも反応は無かった。 


 「それは、人に似せた『人工体』なんだ。主に格闘術がプログラムされたね。ちなみにそれは魔法じゃなくて、こっちでの科学の技術でさ。僕が深夜の内に買いに行ったんだ」


 えっ、えっ! これってつまりホムンクルス見たいなものじゃ。しかも市販で流てるの!!?


 若い男女の様々な顔に同じ道着を着せた人工体だった。


 「その様子じゃ、君のいた世界にはこういうの無さそうだね」

 

 後から着いて来たシルビーは後ろから爽やかに笑っているが、反面、俺はというと、この異常な状況に開いた口が塞がらずにいた。


 「それじゃ早速、修行を始めようか」


 シルビーは両手をパンッと叩き話を切り替える。


 「う、うん、もしかしてだけど、これと戦うの?」


 俺は近くにある人工体に恐る恐る指を向ける。


 「それはもう少し先かな。今、戦うと一君はワンパンでそくKOさ」


 マジかいな!てかそんな危ないのこっそり買って来たんかい!


 「まずは、今の一君に力がある自覚をしてもらうところからね」


 シルビーは近くにある小石を拾うと俺の所に近づき手渡してきた」


 「その小石を強く握ってごらん」


 「え、これを?」


 疑う俺の問いに笑顔で頷くシルビー。


 「......わかった」


 こんな事で俺の力がわかるって何だろう?


 俺は半信半疑でその小石を強く握った。


 バキン!!


 ......あれ、小石が砕けた!しかも角砂糖を握り潰すような感覚で!!


 余りにもの事に俺は呆けた顔をしていた。


 「これで分かっただろう。君には力があるって事が」


 「でも何でこんな事が俺に」


 疑惑の念しか浮かばない俺の顔にシルビーは上辺を向いた。


 「この世界では様々な能力者がいてね。そしてその力の根源である気や魔力などがあるんだ」


 はいっ! すでについていけません!


 「まあまあ、ちゃんと分かりやすく説明するからさ」


 もはや秘儀と化した俺のハトマメ鉄砲の顔に相変わらず察しのいいシルビーであった。


 「じゃあ続きを話すよ。昨日、僕が見せたこういう召喚は、魔力から来てるものなんだ。そして一君のように物理を得意とする力の根源は気なんだ。て言っても口で説明しただけじゃ分からないから、次のステップに進みながらレクチャーするね」


 「う、うん、分かった」 


 少し戸惑いながらも何とか思考が付いて行けてる俺は軽く頷き自分の拳へと視線を向けていた。


 「それじゃ、広い所に移動しよう」


 そういうとシルビーは辺りに岩石が少ない場所にまで俺を誘導する。

  

 「ここらへんで良いかな」


 宿屋から少し離れたところでシルビーが足を止めた。


 「それで、ここで何をするの」


 「今からやるのは、『力』の系統をしるのとそのコントロールだよ。一君まずは僕をよく見てごらん」


 えっ、なんで?


 笑顔でそう言うシルビーはその場でゆったりと佇まう。


 半信半疑で俺はよく目を凝らしシルビー全体を眺め見た。


 「あれ、なんかシルビーに青い靄が纏わりついてるような」


 シルビーの全身から小さく漏れ出たような青い煙のようなものが纏わりついていた。 


 「もっと集中して見てごらん。体をリラックスさせながら」


 なんか難しく聞こえるけど、やってみるか。


 俺は余分な力を抜き、目だけを集中して見た。すると......


 小さく青い靄は、徐々に強く放出していった。そしてそれは、シルビーの体が二人分になるまで強く広がっていた。 


 「あっ、シルビーから青い光が!!」  


 「一君、そのまま自分を見てみるんだ」


 声を張るシルビーの指示に俺は頷き自分の両手に目を向けてみると......


 「俺の体から白い光が!」


 漏れ出たような小さい白い光が俺の体から放たれていた。


 「どうやら見えるみたいだね」


 「うん、なんかこう弱くはあるんだけど俺の体から白い光が放出してる」


 「それで合ってるよ、そしてその白い光が気と呼ばれるもので。僕の青い光は魔力なんだ。そのうち目を瞑っても感覚や気配で分かるようになるよ」


 「そうなんだ。でもなんで俺にこんな力が、生前じゃこんな事なかったのに」


 「一君、ちょっとこれを見てごらん。」


 首を傾げる俺にシルビーは指を鳴らすと両手サイズの普通の鏡が現れた。


 「鏡なんて何に?」


 いいからいいからと手招くシルビーに近づき俺は疑問に思いながらも、その鏡を覗き込んでみると、俺の顔が別人じゃないかってぐらい、変わっていた。釣り目の二重に整った鼻と口、髪もショートヘアまさにイケメンだった。 


 秘儀、ハト豆鉄砲顔! ......てっ、イケメンが台無しやん。


 「どうだい、一君これで理解できたかな?」


 「もしかして体が作り変えられたからとか?」


 「半分正解かな。実際は生前の体をベースにランダムな種族になるケースが多いんだけどね。でも魂が引きづかれている事は共通してるんだけどね」


 理解が追い付かない俺は、自分の身体をベタベタ触りながら、引き締まったマッチョな体に喜び打ち震えていた。


 「まあその内、今の自分にも慣れてくよ」


 「うん、でも何だか夢みたいだ」


 「現実だよ。ほら」


 「いて」 


 そう言うとシルビーは笑顔で俺の頬を軽くつねってきた。女性にやればで落とすであろう、イケメンテクだった。


 「それじゃ修行を再開しようか。次はその力をコントロールして、一君の身体能力の向上と必殺技を身に着けて行こう」


 えっ! なんか凄いワードが色々でてきたんだけど!


 「そんな事も出来ちゃえるの、今の俺!」

                                                                                                   

 「そうだね、分かりやすく簡易的に説明しちゃうと、人間は生まれ持った体があるだろう。そしていずれは、箸などの使い方も覚えボールの蹴り方も身に着けていく。要は体があるから扱えるものがあるし、僕や一君みたいに魔力や気があるから、その使い方も覚えていける。だから心配や不安がることも無いんだよ。極々普通だと言う事さ」 


 なんとなくだけど意味は伝わるかも。俺にも扱えたらだけど。


 「じゃあ一君に納得しもらえるように気のコントロールからやっていこうか、僕の手をよく見ててよ」


 そう言うとシルビーは放出していた力を弱め片手にだけ魔力を集め、そこにだけ光を強く放っていた。


 凄い! ほんとに俺にもやれるの!? 


 「こうやってボールを握るような感覚で気を集中してごらん」


 気体に胸を膨らませた俺は強く頷き、言われるがまま片手に気を集中した。


 ......ボッ!!


 シルビーに比べると気が放出するまでの時間や、出方が爆発的だったりと斑はあったが、なんとか出来た。


 「や、やった! 俺にも出来た!!」


 しかしその瞬間、片手に放出していた気がグニャグニャと揺れ動き、そして――バン!! と水風船のように破裂した。


 「わっ!」


 「一君、体に気を馴染ませ、コントロールするまでには平常心でいる事が大事なんだ!さあ、もう一度」


 「うん、分かった」


 俺は深く深呼吸をし、気持ちを落ち着かせ、片手に気を集中した。


 シュッ!


 すると今度は、シルビー程では無いとはいえ、導火線に着火するようにスムーズに気を放出できた。


 「よし、平常心、平常心」


 高ぶる感情を押さえつけようと自分に優しく言い聞かせた。


 「うん、うん、上出来、上出来!」


 「やったよシルビー!......て、あれ」


 喜ぶ俺は急にくる目眩に足元がふらついた。


 「――おっと」


 前に倒れ込もうとする俺をシルビーは一瞬で距離を詰め、その場で受け止めた。


 「あれ、シルビー」


 「馴れない力をいきなり使いこなそうとしたりしたしね。、無理もないよ。少し休憩しよう」


 俺に微笑むシルビーはそのまま肩を貸し、指先を鳴らしベンチを召喚した。


 「さあ、ここに座っって。それにしてもごめんよ。ほんとは体力トレーニングから始めたかったんだけど、一君が気の使い方に熱心だったからね。僕も熱くなっちゃって、そうなると順序を飛ばすのは僕の悪い癖だ。」


 腰かけた俺に照れ笑いするシルビー。不思議と俺も笑顔で返していた。なんか落ち着くんだよなあ、シルビーといると。


 「大丈夫だよ一君、ここからは効率よくやっていくから」


 そう言って指を鳴らし召喚させたのが、何故か竹刀だった。


 へえ、異世界で竹刀なんてあるんだ。と、呑気に構えてる俺。

                        

 「ちなみにこれは、最近、商品化された、......竹木タケボクなんだ」

         

 「――違う! それ竹刀シナイだから!! と言うか俺の知ってるアナログが何でここじゃ商品化されたばっかなの!?」


 何故か自信満々に言うシルビーに思わずツッコむ俺......発案者シルビーじゃないよね?


 それから10分後に修行は再開され、俺は体力トレーニングに精を出しそれからさらに3時間が経過していた。


 「さあ一君、そのままもう10周、目指そう!」


 俺は二人分の大きさの岩石を背に乗せ、樹木を横に避け岩石を飛び越えながら小惑星を20周、周回していた。


 「はあっ、はあっ、はあっ、」


 超人の域を超えていた一の肉体は常人では成しえない体力トレーニングもこなせるようになっていた。

 シルビーは竹木の剣先を地に着け両手は柄頭に乗せながら俺を暖かく見守っている。どうやらあの竹木は雰囲気の為の飾りらしい。


 ー1時間後ー


 「いやあーよく頑張ったよ。僕の読みどうりギリギリこなせるトレーニングだったね。これは毎日やっていこう。その都度、重りも調整していくからね」


 「はあー、はあー、まっ、マジで!」


 仰向けに大の字で息を切らせ寝転がる俺に微笑みかけるシルビー。


 「あれ、そう言えば竹木は?」


 呼吸が正常になってきたタイミングに合わせ、不とシルビーへの些細な違和感に触れてみた。


 「あれはただ立っているときに腰への負担を軽くするためかな。一君にだけ走らせて僕だけが座っていると言うのもなんだからね」


 シルビーは指に顎を添えながらキラリとした表情で堂々と言って見せた。


 竹木(竹刀)の使い方って人それぞれなんだな。


 「まずは今日こなしたメニュー、気のコントロールと体力トレーニング、そして武術も挟んで1カ月、続けて行こう。そこからは能力、つまり必殺技だね」


 「なんで1カ月まで待たなきゃいけないの?」


 俺は素朴な疑問を聞いてみた。


 「そうだね。その辺も説明しようか。まずは能力を身につけるとしても主体として使う魔力と気が必要なのは分かるよね?」


 「うん、それは魔法とか必殺技とか聞かれた時になんとなく思ったよ」


 「ああ、それでいいんだ。ただ、魔力と気を主体とした能力の種類、つまり攻撃方法の違いによって一君は身体能力や武術などが必須条件なんだ」


 えっ、どいう事?


 俺は首を傾げた。


 「つまり、魔力による能力は主に性質や物体を生み出す事やそれを使った遠距離攻撃などがメインなんだ。気の持ち主より魔力を扱うものは身体能力に恵まれない反面、魔力は膨大なものなんだ。そして気を扱う者は身体能力が高く物理的な攻撃がメインとなる」


 「て事は、俺は気をメインとして戦うから接近戦に強くならなきゃいけないって事?」


 「そう言う事さ。ついでに言うと一君の場合すでに身体能力も高いし、才能もある。だから本来100年以上必要とする体力トレーニングはもう終えているような物なんだ」


 俺はその言葉を聞いて体を震わせるほど感動した。


 「でも、さっき気を少しコントロールしただけで、すぐ倒れたんだけど」


 「あれは消耗とかで倒れたんじゃなく、初めての事だから体がびっくりしただけなんだ」

      

 「へえー、そうなんだ」


 俺は片手を空に上げ 手を広げて見た。


 「さあ、休憩もそろそろ終わりにして次は武術だ」


 「えっ、もう!」


 「大丈夫、大丈夫、今の一君なら僕が考えたメニューをちゃんとこなせるよ」


 迷いもなく向けてくるシルビーの眼差し、それは俺にやる気を与えてくれた。


 「わかった。でも武術って言っても......何から?」


 「さっきの格闘技がプログラムされた人工体があっただろう。あれと戦うんだ」


 「――でも、さっき、今の俺じゃワンパンでやられるって」


 俺はギョっとした。


 「どうやら気付いてないみたいだね。一君、今度はこの岩石を殴ってごらん」


 そう言いながらシルビーは指を鳴らし10メートルは超える岩石を召喚した。


 「えっ、これを!?」


 「いいから、いいから」


 動揺する俺にシルビーは笑顔で促す。


 「......よし!」


 覚悟を決めた俺は脇に拳を回し全力で叩きつけた。


 ドカーーン!!


 爆発音でも鳴ったかのような効果音と共に10メートルを超える岩石は粉々に砕け散った。


 殴った当の本人である俺はと言うとポカーンと口を開けていた。


 「最初に小石を握らせた一君じゃ、良くて3メートルの岩石は壊せるけど、ここまでには至らなかっただろうね」


 「――もしかして、さっきのトレーニングが!」


 「ご名答」


 信じられない気持ちが俺に膨れ上がる。


 「信じられないかい。でも実際、こうやって現実となったんだ。それに今の一君は成長期なようなものだ。ゼロから始めて経験値が多く入るのは当然だよ」


 これは価値観の違いなんだろうか。俺のいた世界とこっちじゃ違うんだ。......多分


 「なんとなくだけど分かったよ。」


 「よし、じゃあ気を取り直して次は武術だ」


 今の現状をなんとなく理解した俺は、昔との違いに不思議と喜んでいた。


 「軽くストレッチでもやってて待ってくれないか。えーと、これがここで......」


 俺達は軽い足取りで着くなり、シルビーは人工体のセットアップをすると言い出し、人工体に何かシールのような物を一体、一体、別々な部位に張り付けていた。


 なんか嫌な予感がする。


 俺は気になりすぎてストレッチが出来ずにいた。


 シールを張り付け終えたシルビーは笑顔で戻ってきた。


 「さては一君、楽しみすぎてストレッチに集中できなかったね」


   違う!!


 俺の気持ちをボケたように読んで言うシルビー。


 「それじゃあ一君、あの人工体達の真ん中に立って」


 「真ん中に......わかった」


 嫌な予感がますます深まる俺だが、シルビーの一君なら出来ると言う言葉を信じ、重い足取りで人工体達の中央へ向かった


 「今から10秒後にその人工体達が襲ってくるから、全員たおしてくれ」


 「――えっ!何それ!!」


 説明が短いうえに、ムリゲ―にも聞こえたトレーニングをやらせられる事になった。


 「そんな急に言われても......て、あれ?」


 戸惑いながらも人工体達をよく見てみると、先程シルビーが貼っていたシールが消えていた。もちろんどこに貼ってあったかも覚えていない。


 「さあ、そろそろだ!」


 声を張るシルビーに俺は思わずぎこちない構えをする。


 そして、一斉に人工体達が動き出した。俺に無表情の目線を向け。まるでターゲットを決めたかのように一斉に襲い掛かってきた。


 「うっ、うわーー!!」


 しかし俺は逃げる事で頭がいっぱいだった。生前のトラウマが脳を揺れ動かしていた。


 「大丈夫だ一君!今の君は昔とは違う!後は気持ちの問題だ!!」


 初めて声を荒げるシルビーに俺は思わず凝視する目線を向ける。


 なぜだろう。シルビーの言葉は不思議と俺の気持ちを前に向かせる。その最中、人工体の一体の拳が俺の顔に当たるコンマ3秒前だった、俺の気持ちと瞳はいつのまにかその人工体に向けていた。


 「くっ!」 (――見えた!?)


 俺の顔に当たるギリギリで人工体の拳をかわした 


 常人の域を超える人工体の拳が不思議と見切れた俺にはそれを考えさせる間もなく間髪いれずに人工体達の拳や蹴りが俺を襲う。


 ヒュン、ヒュン、ヒュン 


 そしてその攻撃も次々と見切り風を切るように、かわしまくる。


 「避けるだけじゃなく、攻撃もしないと倒せないよ」 


 「そう言えば倒すんだったっけ」 


 横からのシルビーの助言に俺は呟きながら思わず身構へ、前から来た人工体よりも早く拳を打ち込んだ。


 ドカッ!


 人の感触と変わらない人工体は10メートル以上、前に吹っ飛んだ。


 思わず絶句する俺に休む暇はなく、次に蹴りが俺の横顔に迫ってきた。すぐに前腕で受け止めすかさず顔面に拳を突き出した。


 ドカッ!


 よし! いける!!


 似たような応酬が五分ほど続いた頃に俺は違和感を感じた。最初に殴り飛ばした人工体が無傷で俺にまた攻撃を仕掛けてきたのだ。


 さすがに10メートルも殴り飛ばされて無傷と言うのはおかしい。何かカラクリがあるんじゃないかと疑い、その人工体に拳のラッシュ攻撃をした。


 ドカドカドカドカドカドカ!!!


 殴り終えた人工体はそのばで大の字で倒れたので、いったん距離を取り観察を試みて見る。すると直ぐに立ち上がり俺に襲い掛かる。


 「そろそろ、気付いたかな」


 不敵な笑みを浮かべるシルビー。 


 俺はまたシルビーが助言してくれる物かと思い、シルビーに目線を向けるが今度は何も言わず、俺をただ不敵な笑みで見つめる。


 自分で考えろと言うより、楽しんでませんあの人!


 仕方ないと思い、分析するためにも俺は後ろに振り向き全力で走った。


 人工体達も一斉に俺の跡を走ってついてくる。


 岩石や樹木を避けながら何とか思考をフルで回転させた。


 ――何か弱点がない限り倒せないのか。まさか金的じゃ......そんなわけないか女性のモデルもいるし、じゃあ一体......


 無表情で俺を追う人工体達に目線を向けると、不とシルビーがシールのような物を張っていた事を思い出す。結局あれって何だったんだ。


 俺は何も策がないまま足を止めその場で身構えた。そこで一体の人工体に目を向けるとシルビーが貼ったシールがどこにも無い事に気付く。そして他の人工体達にもなぞるように目線を向けていくがそれでもどこにも貼られてはいなかった。


 どういう事なんだ体の後ろか......違う、シルビーは一枚、一枚を一体ずつバラバラの部位に貼っていた。


 (何かカラクリがあるとしたら気と魔力かも)


 心の隅で漠然とした思いが浮かび上がる、俺はそれを明確にするためもう一度、戦うことを決意する。意識を集中し始める俺。すると攻撃を仕掛けてきた人工体達から白い光が放たれていた事に気付く。そしてその一体ずつに一枚のみ別々の部位から青く小さい光がポワッと浮かび上がっていた。


 「もしかしたら、あの青いの魔力か、もしかしたらあれが弱点かも!」


 ひとつの結論に至った俺は襲い掛かってきた人工体の青い光の部位に目掛け拳を繰り出す。


 ビキッ!!


 何かが割れるような音と共にその人工体は膝から崩れ落ち、プシューと音が鳴り機能が停止した。


 「よしっ!!」


 攻略法を見つけた俺は喜びの余りガッツポーズをする。しかしその隙を見逃さなかった人工体の一体が俺の後頭部に蹴りを繰り出す。


 ブン! 


 「あぶなっ!」


 間一髪でしゃがんで避けた俺は透かさず後ろからローアングルの蹴りを入れ、顎にヒットさせた後、人工体の弱点を殴る。


 ドカッ!ビキッ!!


 そんな攻防が続く内に人工体達の数は徐々に減っていき、残りは一体となった。


 「これで、ラストだ!!」


 ビキッ!


 あっけなく倒した最後の一体を前に俺は崩れ落ちるように腰を地に落とす。


 「はあっ、はあっ、......終わった」。


 「おめでとう一君、よくやったね!」 


 息を切らす俺に歩み寄るシルビーは笑顔で手を差し伸べる。


 「うん、なんとかやったよ」


 俺はシルビーの手をガッチリ握る。


 「君なら必ず出来ると思ったよ」


 「ねえシルビー、途中でアドバイスが無かったのは俺に気付かせるためあの弱点」


 俺は横たわっている人工体達に指をさす。


 「とっ、トウゼンジャナイカ」


 なんでカタカナ口調、やっぱり楽しんでたな。


 「そっ、そう言えば何であれが弱点かわかるかい」


 慌てて会話を切り返すシルビーに俺は少し呆れた。


 「えっと、青い光が放ってたからそこが弱点化と思って」


 「なるほどね、直観みたいな物だったのかな?でもそれで合ってるよ。正確に言うとあの人工体達は気をベースで構築されたFighterファイター bodyバディーでね。ただしそれだげじゃ起動しなくてね。それでこれの出番だったというわけさ。


 シルビーはポケットから人工体に貼っていたシールを取り出す。


 「あっそれ、シルビーが貼ってたやつ!」 


 「これには、『目の前の敵を攻撃しろ』とインプットした魔力が込められていてね。張った数秒後にアウトプットするんだ。ただし、生きている生物には効果がなく、無生物にしか反応はしないんだ。ちなみにこれは『マジックシール』と言ってね。市販でも売ってるよ」


 異世界って滅茶苦茶なシステムだよな。 

                  、

 「それじゃあ今日はここまでにしよう。今日こなしたメニューを三か月間、毎日つづけるからね」


 「えっ、毎日!」


 しんどく思える三カ月、おまけにシルビーの事だから他のメニューが追加されるんじゃないかと思うと不安にもなる。でも楽しむ俺がいたのもまた事実であった」


 ーいっか月後ー  


 「さあ一君、今日から待ちに待った必殺技を覚えてく日だよ」


 「そ、そこまで楽しみにしてないよ」


 にやける俺。


 「ちなみに一君はどんな必殺技を身に着けたいんだい」


 「そうだなあ、拳で戦うんだし、パワーを付ける必殺技がいいなあ」


 漠然な質問に俺は素直に答える。


 「ずいぶんシンプルなんだね、てっきり、火とか水とかを使いたいとか言うと思ったんだけど」


 「えっ、そんな事も出来るの、気で!」


 俺は心を弾ませながら無邪気に聞く。 


 「もちろん、ただし魔力と気の違いでもう一つ重要なのが同じ量の魔力と気の持ち主で、同じ技を使い、同じ量を消費しても魔力もちの方が消費量が少ないんだ。要は魔力は必殺技に特化してると言ってもいいね。まあ必殺技と言っても魔法みたいな物だけど」


 「なるほど、じゃあどうしよっかなあ」


 俺は頷くと腕を組みニマニマしながら頭にイメージを膨らませる。


 「まあ、じっくり考えなよ。それと今は出来るだけ一つに絞ろうかここに居られるのは短期間だけだし、一つに集中して特化した技の方が実戦では使い勝手がいいしね」


 「――俺、重力がいい!」


 「――はやっ」


 コンマ数秒でイメージを完成させた俺にシルビーは驚愕していた。


 「それにしてもなんで重力なんだい?」


 「......それは」


 俺は目線を岩石に向ける。


 「まさか重い物を背負って修行してたから、そっちにイメージが傾いちゃったとか」


 シルビーは少し戸惑いながら俺に聞いた。


 「どうだろう、ただ体の沈む感じがヒントになったんだと思う」


 「なるほどね。でもその発想は面白いね。うん、いいと思うよ」


 シルビーは好奇心で満ちた表情を浮かべていた。


 「俺に出来るかな?」


 「大丈夫だよ。僕の知り合いで重力を扱う人がいてね。その人に取得方法を聞いてみるからちょっと待っててね」


 えっ、シルビーが直接教えてくれるんじゃなくて、そういうパターンなの!?


 そういうとシルビーは何の前触れもなくフッと消えた。そして30分程してからパッと現れた。


 「お待たせ!」


 「おっ、おかえり。思ったより早かったね」


 俺は少し驚きながらシルビーを迎えた。


 「それがさ、教えてもらうのには五分も掛からなかったんだ。どっちかと言うと交渉の方かな」


 「交渉?」


 「実はその人少し癖のある人でね。教えるのに一億よこせだなんて言ってくるもんだから、まいったよ」


 「一億!!!!」 


 目が飛び出しそうな俺を前に髪をワシャワシャかくシルビーは少し疲れているように見えた。


 「俺は......どうしたら......」


 「大丈夫だよ。それに言ったと思うけど、僕はこう見えてそこそこの地位だから、一億ぐらい、どうって事ないんだよ」 


 身をプルプル震わせる俺にシルビーは優しく微笑む。  


 「さあ、それじゃあ始めようか。一君、まずは気を最大までに放出してくれ」


 「うん、わかった」


 俺は歯を食いしばり全開までに気を高めた。身体の4倍の大きさの白い光が放出される。


 「それをそのまま維持しててくれ」


 そう言うとシルビーはポケットから、黒いビー玉のような物を取り出した。


 なんだあれ?


 「今から重力を発生させて一君にぶつけるから、全力で受け止めてくれ」


 ......はい?


 「それじゃ行くよ!」


 「ちょっと、まってえええーーーー!!」


 俺の乱雑状態の思考にもお構いなしに黒いビー玉を俺に目掛けシルビーは笑顔でポイっと投げつけた。


 ブゥオアアアア!!


 黒いビー玉は一瞬にして俺の五倍以上にまで膨れ上がり、黒と白の乱回転をした球体になった。


 シルビーは俺になら出来るって信じてるから笑顔なんだよね!そうなんだよね!!


 ボケツッコミのようなのりで、俺は慌てて両手を突き出した構えを取る。

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