第110話 宴の中での思い出
まるで何年もの月日が経ったかのように感じた。
俺が生まれ、この異世界に転生し、新たな出会いや別れは、俺に確かな成長を実感させてくれた。
己の欲を満たすために他者を揶揄し、手を泥沼に染め上げる者も入れば、過去の苦情から抜け出せず、その根源は自分以外の人間と決めつけ、新たに手に入れた力ですべての人間を蹂躙しようとする者もいた。
今回の事で、人が人を傷つけないと言うのは難しいと言うよりも不可能ではないかと俺は悟った。
何故なら人間が生きると言う事は、欲と傷が隣り合わせでいるからだ。
誰も傷つけない純粋な欲など存在しないし、暗く俯き傷つく者がいるからこそ憎しみや痛みは消えない。
俺たちがこの問題を解決するにはこの二つの心に晴天のような温かい光を浴びせるなどするしかない。そんな方法があったとしたら人は人でなくなるかもしれないが。
ただゼファイアはその二つに対し、力で屈服させるという選択を取った。憎しみが強かったからこそあいつは、ああなったんだろう。
そう......仕返しってやつだ。
でも、ゼファイアたちは、新たな船出に出た。
そして今のあいつらは憎しみだけじゃない、小さな日差しをあてれた気がしたからこそ、あいつらの新たな船出の道には小さな星の光で照らされているのだと......。
◇◇
時は進み、その日の夜の20時。
全ての戦いを終えた俺たちはその功績を称えられ、神王から、神王の宮殿に招待されていた。
浮遊する宮殿を支えるフワフワの雲。その外で長いテーブルや椅子を何台も並べ豪華な料理と美味い酒とジュースが並べられていた。
そこには俺たちの関係者なども招待されていた。
愉快に笑いながら食べるゴンザレスに、タル事抱え豪快にグビグビと酒を飲むドンの親父、ライアス。
顔を真っ赤にしゲラゲラ哄笑するライアスはドンの肩に腕を回せられ身動きが取れなくなっていた。うっとうしがるドンはライアスの顔面を何度も殴りさっさと離せと怒鳴り散らしていた。
レイナの前では神王は歓喜のあまり号泣し、レイナは困った顔で苦笑していた。
どの世界でも娘を持つ父親は一癖も二癖もあるのかもしれない。
キャンシーとダイスは笑顔でジュースを飲み交わし、互いの功労を労っていた。
湯江は何故か間違ってお酒を飲んでしまい赤面しながら酒の入ったコップを片手にはしゃぎながら光輝の肩にまたがっていた。光輝は『落ちるから危ない!』と言いつつ、上で不安定に揺らぐ湯江をなんとか支えていた。
俺はと言うと少し落ち着いた場所で一人でいたいと思い、宮殿を下りた。
充満する花の濃密な香りと優しい風に当たりながら、俺は腰を落ち着ける為に座り、そっと目を瞑り今までの思い出に浸っていた。
すると背後からコツコツと足音が聞こえて来た。思わず俺は振り向いた。
「やあ、一君。どうしたんだい?こんなところで一人で黄昏て」
そこにいたのはシルビーだった。シルビーはそう言いながら俺の横に静かに座る。
「べ、別に黄昏てなんてないよ!」
俺は図星をつかれ、思わず声を裏返してしまう。
「ハハハハハハ!まあそう言う事にしておくよ」
少し意地悪に笑うシルビー。
「シルビーこそ、こんな所に何しに来たの?」
俺はシルビーがここに来たことに対し率直に聞いてみた。
「まあ、食休みも兼ねて一君に聞きたい事があってね」
「俺に?」
なんのことかと俺は首を傾げる。
「......一君の家族はどんな人たちだったんだい?」
唐突に俺の家族に対しての質問に思わず額を小突かれた感じに俺は驚く。
「......そうだね、俺の父親と母親は俺に対して無下に扱う人たちだったよ。とにかくなんの才能もないどころか不出来な俺は両親にとって重荷でしかなかったんだ」
過去の思い出を話す俺は嫌顔でも、生前の自分が受けて来た仕打ちが脳裏を過る。思わず顔の表情には悲哀な心が映し出されていた。
「ごめんね。嫌なことを思い出させて」
シルビーは悲し気な瞳で謝罪した。
「いや、良いんだよ。今は楽しいし、それに弟だけは俺に対して優しくしてくれたから、全部が最悪だったわけじゃないんだ」
俺は気持ちを切り替え生前の弟の顔を思い浮かべながら夜空に浮かぶ眩い星を眺めた。




