第106話 ゼファイアへの共感
時が止まったかのようだった。ゼファイアの胸の内は俺の脳裏で生前の忌まわしい過去が泉の様に溢れかえってくる。
「俺も......虐めにあっていた」
「何?」
心から振り絞るような俺の声に耳をピクンと跳ねらせるように反応したゼファイア。
「虐めだよ。お前がそこまでの行動を起こす程かは自分では判断出来ないけど、俺も虐めにあっていたんだ。ただ一つお前の言う事に一利あるとすれば、確かに誰も本気で俺を救ってくれる奴なんていなかった」
俯瞰しながら悲し気に満ちた声で俺もゼファイアに不思議と吐露していた。
「そうか、お前もか......ならなんで他者を救おうとした?異世界人トーナメントの時もお前は他者を救おうとしてたのは何故だ?」
炯眼で俺に真意を問うゼファイア。まるで自分と他人が同じ境遇化でいながらも自分にはない何かに怪訝を抱いた反応で。
「そうだな。......強いて言えば思いつかなかったからかな。俺の頭が悪いからそんな事も考えつかなかったかもしれないし」
改めて考えてみると俺は周りに対して何かを求めた事がない。いつも父親と母親の機嫌を損ねないように、迷惑をかけないようにと、行動してきた。時には我慢できずに外出禁止にも関わらず外に飛び出したこともあったけど。
しかしゼファイアの言葉を聞いて改めて考えてみると自分でも不思議と思うくらい他人の助けを期待した事がなかった。
「余裕がなかったんだろうな」
「えっ?」
「分かるんだよ俺には......。他人の痛みが......」
俺の苦しみを自分に置き換えたかのように理解してくれたゼファイア。
「......他人の痛みは分かるはずなのに、自分を止められない程お前は追い詰められてたんだな」
他人の痛みを知っていたゼファイアが世界を蹂躙しようとした事に対し、俺は怒りでもなく悲しむでもなかった。何故か共感出来てしまう所があったのだ。
それは他者からの暴力により歪められた心が反逆や憎の火種になると言ってもいい。その暴力から解放されたと分かれば、今までの他者に対してその火種は瞬く間に業火の如く燃え上がり、今まで見捨てられ、傷つけて来た、人間たち。つまり悪と言う人間を焼き殺そうと、死神や悪魔に成り果ててしまう奴も入ると言う可能性。
俺はその可能性をゼファイアとの会話の中で垣間見てしまった。自分もそう成り果ててしまったのかもしれないと。
「それにしてもやっぱりお前は凄いよ」
「はっ!?何がだ?」
俺の言葉にハトが豆鉄砲を食らったかのような面持ちのゼファイア。
「俺なら怖くて仕返しなんて出来ないよ。他人への痛みが自分にも受けているように思えるしさ。それに相手を傷つけた思いに、いずれ自分の心が狩られそうになると思うと俺には出来ない」
俯瞰しながら悲し気な言葉を俺は口にする。
「フッ、フハハハハハハハハッッ!!」
するとゼファイアは腹を抱える様に大笑いすると、ゆっくりと立ち上がった。
「まったく。お前が笑わしてくれたおかげで痛みがどっかに飛んで行っちまったよ。お前じゃなかったら嘲笑って唾棄していたところだ」
「なっ、なんだよそれ!?」
頬を緩ませながらどこか遠くを見つめているゼファイアに俺は自分で馬鹿な事でも言ったのかとやや赤面していた。
ただ、ゼファイアが笑い終えると、どこからか、コツコツとこちらに向かってくる足跡が聞こえて来た。
「......ゼファイア様」
背後からぼそりと呟く声に振り向くと、そこには衣服がボロボロになっていたイザベラと10人の部下たちが疲弊しながら立っていた。




