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君の為の進行劇  作者: ラツィオ
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第1話 悲しき始まり


 「おい、しっかりしろ! おい!!」


 豪雨が鳴り響く中、脳を激しく揺さぶる声が聞こえる。


 でもその声が誰の者かは分からない。


 他に感じる物があるとすれば、腹部に何か所も異様な痛みがあるのと、そこから生暖かい物が流れ出てくるぐらいだった。


 しかし、その痛みも薄れてゆく意識の中で消えていく。


 ......


 「おーい、......大丈夫かい? おーい」


 どれぐらい時がたったのか、分からない自分に、次に聞こえた『その声』は、先程の鬼気迫る声とは違い、陽気だった。

 

 腹部の痛みも、いつの間にか消えていた。


 「うっ、ん、うーん」


 俺の意識もハッキリしてくるのを感じ、徐々に重く塞がれていた瞼を開き始めていた。


 「おや? フフッ、ようやく目覚めてくれたね」


 そこで目にしたのは、片膝を地につけ、俺を覗き込むように見つめているのは、黒いローブに身を包み、細身の長身で肩まで髪が伸び、二重瞼のクリっとした瞳をした男だった。


 「......ここは?」

  

 「ここは、異空間でもあり、僕が作り出した小惑星と言ったところかな」 

 

 眼を擦りながらぼやけた表情で問いかけた俺に、世界が一変するような事を言い出した男。


 口をポカンと開く俺は思考が一瞬、止まった。


 「あー ごめんごめん 話を飛躍させすぎたね。順を追って説明するよ」


 俺の表情を見て、男は少し焦りながら会話の流れを戻そうとする。


 「でもその前に自己紹介から始めないかい」


 そう言うと、男は微笑みながらスッと立ち上がった。そして......


 「初めまして。僕はシルビー、 シルビー・グラウン」


 ジェントルマンのような挨拶で深々とお辞儀をしてきた。


 外国の人かとシルビーの顔を覗き込むように見る。


 「僕の顔に何か付いてるかい?」


 「――いや、違うんだ。誰かなあって思って」


 慌てて答える俺にシルビーは暖かく微笑んでくれた。


 「良いんだよ。 気にしないで、さあ 次は君だ」


 その笑顔に少し気が楽になった俺は軽く深呼吸をした。

     

 「俺は、東条一トウジョウハジメて言うんだ」


 なんとか名前を言えた俺はホッとした表情になれた。


 「東条 一 か、いい名前だね。 一なんて、ナンバーワンになれる名前じゃないか」


 ――えっ


 その言葉に俺の身体は、ビクン、と跳ね上がった。


 直後、不意に襲い掛かるようなフラッシュバックが一の眼前に流れ出てくる。


 ......


 ...


 「まったくお前は、なんでそうも出来損ないなんだ」

          

 「ほんとよ。 何が一よ。あんたなんてゴミじゃない。名前に意味を付けるぐらいなら、ゴミとかカスとかそういうニュアンスにすればよかったわよ」


 「逆もまた真なりてか、アハハハッ! そうすればよかったな」 


 「キャハハハ!」


 男女の入り混じる声、それは一の父と母のものだった。


 上から蔑むように見下ろし罵倒し高笑う両親を前に、一は、どけ座をして泣き聞いていた。


 ごめんなさい。ごめんなさい。と壊れたかのように謝りながら。


 そして次なるビジョンに切り替わる。


 「おらっ! クソ一! こっちだ!」


 「さっさとあるけよ! クズノロマ!!」


  下校中、そこには高校一年生の一が五人の同級生に罵倒されながら人目のつかない野川へと引きずられていく光景だった。


 「やめて! やめてよ!!」


 嫌がる一の声すらも楽しむかのように不敵な笑みを浮かべる同級生達。


 「ここらへんで良いだろう。 おい! そのゴミを放せ」


 人目のつかない野川の橋の下に着くと、そう吐き捨てるように言う虐めのリーダに思えるその男は、高校一年生でありながら180センチを超えていた。


 小柄の一はその男に成すすべもなく首締めをされた。


 「ウッ、 アッア、 アァッ、  ア......」


 枯れるような嗚咽を出す一の声は虚しくも誰の耳にも触れず、涙腺がにじみ出る目蓋は徐々に途切れ、その寸前まで笑みを浮かべ罵倒する四人の悪魔を悔しそうに見る事しか出来ずにいた。


 日が沈み、肌寒くなっていた一の意識は朦朧としながら覚めていく。


 「ゲホッ、ゲホッ! いてっ、なっ、......なんだよ......これ」


 咳きこむ一の両腕はバキバキに折られ、全裸にされ、体中にはいたる所に痣が出来ていた。 


 辺りを見渡しても誰もいない、衣服だけが視界に入ったが流れる川の石に引っかかり揺れ動いているだけだった。まるで今の一をあざ笑うかのように。


 悲しさだけが込み上がる一。


 取りに行くにも腕は激痛で使い物にならず、どうする事も出来ずにいた。 


 「うっ! うわーーーーん!! うっ、うっうぅ」


 ただ、ただ、泣くことしか出来ずにいた一、その声でたまたま散歩をしていた男性がきずき、慌てる思いを堪え、一の元へ急ぎ駆けつけた。


 「おいっ しっかりしろ、 おい! 大丈夫か!!」


 ......


 ...


 「このままではまずい!」


 一の流れるビジョンの間、シルビーの片手が白目へと変化する一の額に向け優しくポワッ、と光る。


 「はあっ、はあっ、はあっ!  あっ、あれ、俺は?」


 息を吹き返すように目を覚ました一。


 その顔を見たシルビーはホッと胸を撫で下ろした。


 「......俺の最後が......あんな」


 シルビーが不思議な光を当てる直前まで流れてた記憶の断片に怯え、俺は口から嗚咽を漏らす。


 「大丈夫かい一君、君のトラウマを呼び起こす気はなかったとはいへ、君を傷つけてしまった。すまない」


 俺の肩を優しく支えながらシルビーは俺の身を案じてくれる。


 「う、うん、大丈夫。......それより、今のは」


 「精神を安定させるちょっとした魔法だよ。 大丈夫、体に害はないから」


 シルビーはウインクでそう答えると、暖かい風が俺の肌へと伝わる。


 「いいかい一君、僕は君の名前に意味を求めない。どうあろうと君は君なんだ。そしてそれを決めるのも君なんだ」


 俺の肩に力を込めるシルビー、その瞳からは熱い眼差しが向けられる。


 先程の俺の反応を見て俺の過去を察し、気にかけてくれたようだった。 


 キョトンとした俺に、ニッコリ微笑むシルビー。


 「だから......強くなってみないかい」


 突然のシルビーの言葉に俺はハッと驚く。


 しかしその言葉を聞くと俺の体に葛藤がまとわりつくように感じた。 


 「......なれるかな、俺......強く」


 俺は歯を食いしばるように答える。


 「僕が全力でサポートするよ。君を絶対に強くさせる!」

 

 過去に一度もなかった言葉。気にかけ、励まし、導いてくれるその言葉に、不思議と熱い思いが腹の奥底から吹きだした気がした。


 「俺......なりたい......強くなりたい!」


 意を決したかのような強い眼差しをシルビーに向ける俺。 


 「なら、ここからが君の物語の大二幕だ!」 


 奮い立たたせながらでた俺のその言葉にシルビーは手を差し伸べ、俺はそれを強く握った。

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