第5話 雑談
お読みいただいた皆様ありがとうございます。これで終わりになるのですが、とりあえずこの後に考えていた設定を文章化しました。いままでの本編には直接関係しておりません。
スラーシャの思い
スラーシャは勝手に日本に行ってしまったヒデオを怒っていた。
「何の断りもなく日本に行ってしまうなんて、許せない。でも婿に来るのだからご両親の許しを得なくてはならないのは、当然のことだから許してあげるけど」ぶつぶつと言いながら結婚の準備を進めていた。
スラーシャ自身、あの反乱事件があるまで父上の選んだ男性と結婚することになると思っていた。実際、あの時開かれていた族長会議で未来の夫を紹介されるはずだった。
ところが突然の反乱、議会内に流れ込んでくる反乱軍、たまたま離れた部屋にいたスラーシャは、使用人から反乱のことを聞き逃げようとした。逃げる途中、反乱軍の兵士と出くわしそうになり、とっさに窓の外に身を隠そうとしたら足を滑らして落ちてしまい、気を失ってしまった。
次に気が付いたのはベッドの中だった。外国人の男性が心配そうにスラーシャの顔をのぞき込んでいた。一瞬貞操の危機を感じたが、話をしてみると感じのいい男性で、何の関係もないのに、スラーシャのため命を懸けて助けるといわれた。
名前を聞くとをクトウヒデオという日本人だそうだ。
彼は、ターユエの歴史でもまれな大英雄だった。
彼はそのあと、類まれなる知恵で無事首都を脱出し、さわやかな弁舌でヘイス族を説得し父上の奪回に協力させ、なんと単身で王宮に忍び込み父上や母上、兄上たちを助けだし、知恵を持って反乱軍を壊滅させ、再び父上に王位を戻した。
スラーシャは彼と行動を共にするうちに、ヒデオにどんどん惹かれていった。
感謝の念から尊敬に代わり、そして恋慕の感情へと変わっていった。
父上が王位に復位した後、スラーシャは彼の功績に報い、私の婿にしてくださいとお願いした。兄上は難色を示していたが父上と母上は喜んで了承してくれた。
ヒデオには、ヘイス族に向かうときに責任を取るといわれたし、父上たちを救い出しに行くときに、はしたないことだがキスまでしてしまった。また、父上たちを救い出してからスラーシャと再会した時、最高の褒章であるスラーシャ自身を与えることを言ってあった。
「ヒデオのご両親にもいずれ挨拶に行かなくではいけませんね」スラーシャは少し顔を赤らめていった。そのとき、スラーシャはハッと気が付いた。「私日本語ができません…」
「ヒデオに細かい話は通訳してもらうとして、せめて最初の挨拶ぐらいは日本語でできなくては恥ずかしいですわ。なんとかしなくては」
挨拶に行くまでに日本語を勉強しようとスラーシャは固く誓った。
王と王子の会話
「父上、いくら国の英雄だからと言って外国人にスラーシャを与えてよろしいのでしょうか。もっと使い道があるのではないでしょうか」王子は王に言った。
「これには理由がある。今回の反乱事件で王の権威はかなり低下してしまった。また、今回復位に協力した五部族には何らかの褒章を与えなくてはならないだろう」
「確かに、五部族の協力で復位できましたが、それがなぜ王の権威が低下したといえるのでしょうか」王子は聞いた。
「反乱の後、各部族はヘイス族のように独自の武力を整備する方向に動いている。さらに国軍は主力だったホンス族出身者はディガル将軍の反乱失敗で武装解除され、ホンス族の元へ返されている。外の五部族の部族の軍人は各部族の元に帰り、部族軍の核となってしまった。よって、我々が使える国軍は解体状態になっており、事実上王家には武力が存在しない」王は続けた。
「さらに五部族への褒章だが、与える領土もなく金もない。あるのは名誉ぐらいだが、各部族が満足するだけの名誉を与えなくてはならない。そうしなければ不満を持った部族が反乱を起こす可能性がある。少なくとも独立、場合によっては王の廃位をたくらむかしれない」
「しかし、王の指示で反乱軍に打ち勝ったではないですか。権威は高まれど低下したとは言えないのではないでしょうか」王子は反論した。
「一度反乱を起こされてしまったから、皆にこういう方法もあるのだと周知されてしまったのだよ。ティガル将軍は失敗したが、我々ならば成功すると考える部族がないとは言えないだろう。国民も一度反乱を成功寸前まで許してしまった王家に対して尊敬の念が薄れてきていることが調査で分かっている。もし再び反乱が起きれば今度は果たして王家の側に皆がたってくれるかどうか分からない」王は言った。
「反乱を起こさせないようすべての部族を武装解除したらいかがでしょうか」それでもと王子はいった。
「それをどうやってするのだ。我々の元には国軍はない。それに今回の最大功労であるヘイス族の武装解除をどうやってやるのだ。ヘイス族の最長老はかなりの切れ者だ。下手をすれば今度はヘイス族が我々に襲い掛かってくるぞ」王は言った。
「母上の実家のヘイス族が反乱を起こすことはないでしょう」王子は苦しそうに言った。
「私の母はホンス族の出身だが、反乱を起こされたぞ」王はあきれるように言った。
「お前もよく覚えておけ。婚姻に伴う懐柔は王家の主要な手段だが、それだけでなんとかなるものではないのだぞ」王は諭すように言った。
「それではどのようにするのですか」王子は言った。そして王はすこし弱弱しい笑顔で言った。「といっても、王家がとれるのは婚姻に伴う懐柔しかない。お前はヘイス族以外の四部族から嫁をとれ」
「四つの部族からですか?」王子はびっくりしていった。
「そうだ。なにせ我々の慣習法では嫁は4人までと決められているからな。さらに四つの部族から来た嫁には序列はつけない」王は続けた。「そうすれば誰の子供が王位を継ぐか未定であり、各部族も自分の部族の血を受けた者が王になる可能性があると思えば、反乱を起こす可能性が低くなるだろう。とりあえずの時間稼ぎだが、今は時間が必要だ」王は疲れたように言った。
「ヘイス族はどうされるので。最大の功労部族ですが」王子は聞いた。
「ヘイス族は軍の主導権を握り、さらに王妃はヘイス族の出身だ。これ以上の権力を与えることは王家にとって危険である。しかし、このままというわけにはいかない。そこで使うのが、スラーシャだ。クトウヒデオと結婚させることで、奴を王家の一員に加え、ヘイス族とホンス族の娘も一緒に婚姻させる」王は言った。
「ヒデオにヘイス族とホンス族をですか?」
「ヘイス族の最長老は日本人で、ヒデオのことを大変気に入って、部下として重用しているらしい。また、ヘイス族は今回の王家の復権で活躍したヒデオにとても親近感と尊敬の念を抱いているらしい。ヘイス族は王族の一員となったヒデオに娘を嫁がせることで納得してもらえる可能性が高い。また、今回地位が低下したホンス族にもある程度復権の足掛かりは与えてやらないと、また反乱を起こしかねないからな。しかし、皇太子と婚姻させるには反乱の罪は重い。それでヒデオに嫁がせるわけだ。ヒデオは英雄として国民から人気もあり、また、スラーシャを嫁がせることで王家の一員となったので、婚姻するには、悪くない相手となるわけだ。ヒデオは王家の婚姻の道具とするのにちょうどいい男だ」王は言った。
「わかりました。父上のご指示に従います」「うむ、今後はこの方針で行く」王はそう言って、微笑んで続けて言った。
「ヒデオは市井では結構な人気らしい。王家としてはそれを利用し、権力を強固にする必要がある。それにあいつはなかなか知恵も勇気もあるようだ。お前のサポート役として使えるだろう。まあ、仲良くやりなさい」
「わかりました」王子も微笑んでいった。
名誉元帥の思惑
「いよいよ時が動いたな」鈴木少尉は独り言を言った。彼は元情報将校で、旧満州で対ソ連の諜報活動に従事した男だった。語学にも堪能で、中国語、モンゴル語のほか極東ロシアでの少数民族の言葉も話せ、現地人に化けてソ連領内に侵入したこともある。
ソ連が旧満州に攻め込んできた日、彼はたまたま国境付近に駐屯する部隊にお使いに来ていた。部隊はソ連軍の攻撃でほぼ壊滅してしまったため、彼は情報将校だとばれないようその部隊の生き残りの将校に化けてソ連軍の捕虜となった。なぜなら情報将校とわかったら、間違いなく処刑されるからだ。
そして中央アジアの収容所に送られたが、隙を見て脱走し、国境の山を越える途中行き倒れたところをヘイス族に助けられた。
彼は語学が得意だったので、すぐにターイエ語を覚えた。そして、ヘイス族の信用を得るため、いろいろ気を配った。彼は中野にあった諜報の学校で学び、いろいろな技術や知識があったので、それをヘイス族のために役立てた。その結果、族長に気に入られ、族長の娘の一人を妻に与えられた。
彼は大日本帝国が戦争に負けたことを知った時、絶望のあまり自決しようとした。しかし、思いとどまった。日本がなくなったとしても大和民族は生き残る。ならばこの地に志を同じくする大和民族を呼び込み、大日本帝国を再建することも可能ではないか、そのためにもここで生き延びてこの地に帝国再建の礎を築くことは私に与えられた使命だと考えた。ターイエをこの手に収めなくてはならない。そのためには力とチャンスが必要だ。そして鈴木少尉は時を待った。この目的のため、決して死んではならないと心に誓った。
彼は歯を食いしばって生き延びた。そして信用を積み重ね、ついには長老の一人となった。ソ連が崩壊した時、ヘイス族の連中を連れてひそかに兵器を強奪したのもその目的のためだ。しかし、ターイエを乗っ取るには、力が足りなかった。
彼はひたすら時を待った。100歳を過ぎ、あきらめかけた時、九頭英雄がヘイス族の地にスラーシャ姫を連れてやってきた。
チャンスが来たと思った。そして、九頭は思った以上の働きをしてくれた。この国では、奴は英雄だ。そしてスラーシャ姫を娶ることで王族の一員となる。
「国王には少し策を授けてやったらそのまま乗ってきたからな」ヘイス族とホンス族を九頭に嫁がせる案は鈴木少尉が王に進言した案だ。
ヘイス族は問題ない。アプリを嫁がせればいいだけだし、お気に入りの可愛いひ孫は幸せにしてやりたい。まあ、ヘイス族は一族の血を受け入れた九頭を支持することになるのは間違いない。
さらにターイエ最大の部族にして、いままで軍を掌握してきたホンス族と姻戚を結ぶことはこの国を乗っ取るのに大いに役に立つだろう。
この地に大日本帝国を再建し、アジアの覇者になる。鈴木少尉の夢想は果てしなく広がった。
「まだまだ死ねぬな。痛快痛快」鈴木少尉は心の中でつぶやいた
初めての投稿でしたが、幾人もの人にお読みいただきとても感激いたしました。これを機会にまた、投稿を続けていきたいと思います。本当にありがとうございました。