第3話 救出
連続投稿4日目です。楽しんでいただければ幸いです。
第3話 救出
英雄たちはトラックに乗車して、フチンの町へ向かった。フチンについて兵士たちを降ろし、英雄は一人で王の救出に向かうことになった。「軍曹殿、国王たちの救出よろしくお願いたします。軍曹殿もご無事で帰還してください」兵士の中でリーダー格だったものに英雄は言われた。「わかった。頑張るよ。みんなもうまく潜伏してね」「任してください。もともとこのあたりに商売で来ていましたから、このあたりのことはよく知っています」兵士の一人が答えた。「そうか、それなら大丈夫だね。それでは行ってきます」英雄は兵士たちに言ってトラックを走らせた。
昼夜兼行でトラックを走らせ首都郊外の古い墓地にたどり着いた。たどり着いた時には夜になっており、明かり一つない真っ暗な墓地は非常に不気味な雰囲気を漂わせていた。
英雄は持ってきた反乱軍の軍服に着替え、トラックを隠した後、墓場に入っていった。
「スラさんのいう秘密の抜け穴は、確か中央の大きなお墓の横にあるといっていたな」英雄はライトをつけ、恐怖をごまかすように声を出していった。
中央の大きな墓はすぐに見つかった。何代目かの王の墓らしい。
横に回ってよく見ると、墓の横にその王の功績の書かれた石板が墓本体に埋め込まれるようにあった。「たしかこの石板を押しながら右にスライドさせればいいんだよな」すると、石板は引き戸のように開き、通路が出てきた。
英雄は通路を進んでいった。通路は真っ暗だったが、ところどころに蛍光塗料が塗られていて、それが道しるべになっていた。一時間ほど進んだあと、階段が見えてきた。階段を上がるとハッチが頭上にあった。そのハッチを少し開いて外の様子を観測したところ、そこは機械室のようなところだった。巨大な機械がそこには設置されており、木箱やドラム缶がいくつも置かれていた。人がいる様子はなかった。
英雄はハッチを開けて外に出た。秘密の通路の出入り口は木箱の蓋に偽装されていた。小窓があったのでそこから外を観察してみた。大きな建物が正面にあり、兵士が巡回している様子が見て取れた。ここは小屋のようだった。小屋から煙突のようなものが伸びて大きな建物につながっていた。その煙突は大きな機械につながっていた。どうもこの機械は暖房用のヒーターのようだった。
英雄は隙を見て、小屋から出た。そして建物のそばにある木に登り、建物の2階と3階の間にある通気口から中に侵入した。通気口はダイヤル錠がかけられていたが、鍵を開ける番号を忘れないようにだろう、ダイヤルの番号が通気口にペンキで書かれていたので簡単に外すことができた。
英雄はスラーシャから建物の構造を図に書いて説明してもらっていた。3階建ての建物で中央に2階まで吹き抜けになっている広い通路があり、建物の主柱となっている巨大な柱がその吹き抜けの通路の中央にあり、建物を貫いていた。その柱がこの建物をささえており、この柱が壊されたりすると、建物が倒壊する危険があるとのこと。
通気口の中に侵入すると、そこは天井裏になっていた。高さは1m50㎝ぐらいで、ヘッドライトを点けて進んでいった。天井裏は煙臭かった。進んでいくと上下に竪穴のようなものがあり、それが複数あることが分かった。穴をのぞき込むと1階の天井あたりまでつながっているようだった。見上げてみると、上は3階の天井までつながっていた。
これは、オンドルのように、先ほどの小屋にあったヒーターで火を焚き、暖かい空気を各階の天井に送りこんで、建物全体に暖かい空気を生き渡させることで暖房をするようになっていると、スラーシャ姫は言っていた。
英雄がさらに進むと壁に突き当たった。壁は左右に続いており、これ以上進むことは難しそうだった。英雄は、おそらく中央にある吹き抜けの通路の壁に突き当たったのだろう、と思った。さっきの竪穴から3階に上がろうと思って引き返そうとしたとき、兵士たちの話し声が聞こえた。とりあえず英雄は兵士たちの話し声に耳を澄ませた。
兵士たちは廊下を巡回しているようだった。
「王たちはどうしている?」声が聞こえた。「王たちは1階奥の寝室に閉じ込めています。王妃と皇太子もいっしょです」部下の兵士の声が聞こえた
「逃げ出す気配はあるか」「いえ、あきらめているのか先ほど確認したところ、本を読んでいました」「油断するなよ、ヘイス族が反乱を起こして、その討伐のためにかなりの兵力が割かれてしまい、ここもかなり手薄になっているからな」上官らしき声が言った。
「了解いたしました」兵士の声がして、足音が遠ざかっていった。
王たちは一階の奥にいるらしいことが分かった。英雄は竪穴の壁をよじ登り、3階天井部分を通って屋敷の奥に進んだ。
吹き抜けの3階部分の廊下を過ぎたあたりで、1階の天井まで下りて、王たちが軟禁されている部屋を探した。奥のほうの部屋の天井に耳を当てて聞き耳を立てたところ、ページをめくるような音と小声で話す音が聞こえた。天井に穴をあけてこっそりのぞくと、中年の男性が本を読んでおり、女性と若い青年が小声で話をしていた。
しばらく様子を見ていると、「失礼します」ときちんと制服を着た真面目そうな兵士が入ってきた。
「3人おりますね。確認できました」兵士はそう言って、出ていこうとした。
「1時間ごとに来られたのでは落ち着かない。そろそろ寝るのだが、しばらく控えてくれないか」王は言った。「いえ、これは任務ですので、ご協力いただきます」兵士はにべもなくそう言った。
「せめて、寝ている間は3時間ごとぐらいにしてくれ」「だめです。任務ですから」そう言って、兵士は部屋から出ていった。
王はため息をついた。ということは1時間の間、逃げるチャンスがあるということだ。
英雄は下に降りるハッチを探したところ、すぐそばにあった。ハッチを少しだけ開けて様子を見るとそこは廊下だった。そこからゆっくり降りて、王のいる部屋に向かった。王のいる部屋の出入り口には先ほどの兵士と違ってだらしない感じの兵士が1名警戒に当たっていた。暇なのだろう、銃を壁に立てかけて、床に座り込んで、眠そうにこっくりこっくりしていた。
英雄は偽装のため、反乱軍の軍服を着ていたので、ゆっくりそばに近寄り「貴様何をしているのか」と言った。すると兵士は跳ね起きて「はっ申し訳ありません」と慌てたように言った。かなり気が動転しているようだった。
「王たちを逃げにくくするため二階に移送するよう命令が出た。このことは黙っていてやるから顔を洗って来い」と英雄が言うと「はい、ありがとうございます」と兵士は走ってどこかへ行ってしまった。相当慌てたのだろう。銃を立てかけたままだった。
英雄はその銃を持って部屋の中に入ると、王は「まだ5分もたっていないじゃないか」と嫌な顔をしていった。「申し訳ありません。ヘイス族のものです。スラーシャ様に依頼されて王様たちを助けに参りました」英雄が言うと3人はびっくりして声も出ない様子だった。王様にスラーシャ姫からの手紙を渡した。
王はその手紙を読むと、王妃と皇太子にも手紙を回した。
「君はヘイス族の人間ではなさそうだか」王は確認するように言った。
「私は日本陸軍ヘイズ派遣隊軍曹九頭英雄です」英雄は鈴木少尉の設定に従って説明した。
「スラーシャ姫の要望により、我々はヘイス族とともに決起しました。ヘイス族が敵の目を引き付けているうちに王はここを脱出して全土に向かって決起の呼びかけをしていただきたい。この戦いに勝つにはこれが最良の方法です」英雄はそう説得した。
王はしばらく考えていたが、「わかった。脱出しよう」といった。
まず三人とも動きやすい服に着替えてもらい、その間に武器弾薬の確認を行った。今手持ちの兵器は手りゅう弾8個、TNT爆弾1つ、発煙筒が2本、あとさっき兵士が置いて行った銃が一丁だ。銃は56式歩槍だった。20連のショートマガジンが装てんされており、暴発しないようにだろう、安全装置がかかっていた。「AK47と同じような銃だな。AK47は訓練したし、これなら何とか使えるかな」と英雄は思った。みなの用意が終わったので、そろってドアから出た。まだ兵士は帰ってきていなかった。「玄関はさすがに敵が固めているでしょうから、とりあえず2階に上がって、奥の窓から木を伝って下に降りましょう。」王たち3人はうなずいた。
王たち3人には手を頭のところに挙げていてもらい、英雄はそれを護送するように銃を構えて一番後ろについた。途中何人かの兵士とすれ違ったが、英雄の軍服には軍曹の階級章をつけていたので、英雄に敬礼して通りすぎていった。
なんとかやり過ごせそうだと思い、最寄りの階段を上がろうとしたところで、将校らしき人物と出会ってしまった。「貴様、王たちをどこに連れていく」「はっ、命令で2階の大部屋に移動させるように言われました」英雄は答えた。「そんな話は聞いていない。いま指令官に確認する」そう言って、無線機を取り出した。そのときその将校はふと気が付いたように、「おまえ、ホンス族じゃないな。何でここにいる」といった。
ここまでか、英雄はそう思い、その将校に体当たりし、持っていた銃で股の真ん中を思いっきり叩いたら、その将校は無線機を落として気絶してしまった。
何事だ、と兵士たちが集まってきたので、発煙筒を一本敵に対して放り投げた。敵が煙に巻かれているうちに「王様たち、計画を変更します。展望室まで逃げてください。展望室の窓を破って、屋根沿いに逃亡します」そう指示をすると、王たちは「了解した」といって、階段を駆け上った。
そのあとから英雄も階段を昇って行ったが、英雄は追手が追ってこられないよう階段を手りゅう弾で吹っ飛ばした。二階にも敵兵がいたが、何事があったのか判断できてないようで、右往左往していた。三階まで駆け上がると二階の階段も手りゅう弾で吹っ飛ばし、三階の大廊下へ走った。
その時敵兵が叫んでいるのが聞こえた。「国王たちが逃亡したぞ。三階に逃げ込んでいる。直ちに建物の三階に集合し、王たちを捉えよ」
4人は大廊下にたどり着いた。大廊下は一・二階の吹き抜けの真上に位置しており、展望室への階段はこの大廊下の真ん中にあった。まだ敵兵の姿はなかったが、英雄は敵が追ってこられないよう2個づつ手りゅう弾を使って大廊下の左端と右端に大穴を開け、さらに発煙筒を焚いた。
その時、敵兵たちが別の階段から登ってきたのか、こちらに向けて銃撃してきた。煙のおかげで誰にも弾は命中しなかったが、敵は梯子を持ち出してきて、穴に橋を架けようとしていた。こちらも銃撃をしたが、所詮は付け焼刃の訓練で習っただけで、敵には全く当たらなかった。すぐに弾は尽きてしまった。このままでは捕まってしまう。どうしたらいいだろうか。
必死に周りを見回すと展望室に上がる階段のそばに太い柱があった。スラさんから聞いていたこの建物の主柱ではなかろうかと英雄は思いついた。これを爆破したら建物自体が崩れる可能性がある、我々もかなり危険になるが、もうこれしかない、英雄は最終手段で主柱にTNT爆弾を設置、時限装置をかけ、20秒後に爆発するようにセットした。
「主柱に爆弾を仕掛けた。早く逃げないと巻き込まれて死んでしまうぞ」と叫んだ。「爆弾だと。まずくないか」「どうせはったりに決まっている」などの敵兵の声を背に受けながら、英雄と王たちは展望室への階段を駆け上がり、展望室の窓ガラスを近くにあった椅子でぶち破って、屋根の外に出た。その時、爆発音が聞こえた。建物がギシギシいい、真ん中から崩れ始めた。
3階では敵兵たちが「マジでやりやがった」「建物が崩れる前に逃げるぞ」「グズグズするな!」「死にたくねえよ」とパニック状態で叫んでいた。
4人は急いで屋根に沿って走り、ヒーターがある秘密通路のある小屋が見えるところまで来た。大きな木が屋根のそばまで生えていた。まず王と皇太子を促し、飛びつかせた。二人とも無事に木にとりつくことができた。
「王妃様も飛んでください」と英雄は言ったが、王妃は「無理です」と言って、飛ぶことができなかった。建物の崩壊は進んでおり、このまま王妃だけ置いていくわけにはいかない。王妃をお姫様抱っこすると、口を閉じたままにしておいてくださいね、と言い聞かせて、王たちに今から王妃様を投げますので受け取ってくださいと言い、助走をつけて王妃を放り投げた。
王妃様は叫びそうになるのをこらえるように口に手を当てて木のある所まで飛んで行った。王と皇太子が無事に王妃をキャッチした。
英雄の足元も崩れ始めていた。崩れ行く足場からなんとか飛んで、英雄は木にしがみついた。
その時には英雄の立っていた場所は崩れ去っていた。本当に間一髪だ。
木から降りて、4人はなんとか秘密通路のある小屋まで来た。屋敷の中は発煙筒の煙と建物崩壊による埃でもうもうとしており、兵士たちは逃げ出すのに必死のようで、4人には関心を向けていなかった。
王たちを抜け穴から逃してから、英雄は残った手りゅう弾を小屋の柱に投げつけると抜け穴に飛び込んだ。同時に爆発音がして、何かが崩れるようなガラガラドシャーンという音がした。
英雄はこれでしばらく時間が稼げるな、と思い抜け穴を進み、王様たちを追った。
4人は抜け穴を通って墓地に戻ると、止めてあったトラックに乗り、フチンの町に向かった。
そこで、兵士たちと合流した。兵士たちは「軍曹殿よくご無事で」と言って喜んでくれた。王たちの姿をみると、みな首を垂れて敬意を示した。
英雄は言った。「これよりフチンの町の放送施設を占拠し、王に決起の放送をしてもらう。みな準備はいいか?」「了解です。今から放送施設の占拠に向かいます」
我々はフチンの町にトラックで侵入した。特に検問もなく、警備の兵もいなかった。人手が足りなくてそれどころではないのだろう。
英雄たちは放送局についた。放送局に侵入すると、最初放送局のスタッフたちはびっくりしていたが、事情を話すとすぐに協力してくれた。
王と王妃、皇太子が放送台に立ち、これまでの経緯とみな無事であること、そして国中に決起の呼びかけを行った。
お読みいただけた方に感謝です。