表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄の冒険旅行譚  作者: 信礼智義
1/6

第一話 研究旅行

初めての投稿です。短編ですが楽しんでいただければありがたいです。

九頭英雄(くとうひでお)は中央アジアにあるターイエ王国に来ていた。彼は、大学で中央アジアの歴史、特にこのターイエ王国の歴史を学んでいた。この国はロシアと中国の文化の影響をうけながら、独自の文化をはぐくんでいた。この独自の文化に魅せられて、彼は歴史や風俗を研究する傍ら、言葉を学びほぼネイティブ並みにしゃべれるようになっていた。そして夢であったターイエにやってきたのだった。

かれはスークと呼ばれる市場に来ていた。

「珍しいものがいろいろあるな」彼は市場をきょろきょろ見回しながら独り言を言った。彼の眼には、珍しい色の布織物や見たことのない商品、食べ物は羊肉に香辛料をまぶしたものを串焼きにしたものや独特の香りを放つ羊肉のスープなど様々なものが映っていた。それらを自分のパスポートを申請しに行ったときに、そばにあった旅行グッズの販売店で見つけて何冊か衝動買いしてしまったパスポート型メモ帳にメモしていった。

突然市場の店がパタパタと閉まり始めた。えっまだ日も高いのに、どういうわけだと思い、近くの露天商のおじさんに「まだ日も高いのにお店を占めるのですか」と聞いた。すると露天商のおじさんは「クーデターが起きたんだよ。この国の軍の将軍が軍隊を動かして王宮と、今日開かれていた部族会議の会議場を襲撃したんだと。巻き込まれないよう逃げなきゃな」

「えっクーデターですか、でもよくそんなことが起きたことがわかりましたね」英雄は思わず聞いてみた。「俺たち商人は情報が命だからな。何かあれば、すぐに仲間内で話が飛ぶのよ。ところでお前さん、旅行者かい。すぐに帰ったほうがいい。だけど表通りは軍隊が行きかっているから裏道通って、ホテルに帰りな」おじさんは店を片付けながらそう言って立ち去って行った。

彼は言われた通り裏道を回って帰ろうと、細い路地を歩いて行った。大きな建物の裏道を通っているとき、空から「キャー」という叫び声とともに女の子が降ってきた。彼は驚いたが、考える前に体が飛び出し、両手と体を使ってなんとか女の子をキャッチした。しかし、その女の子は気を失っていた。

髪がブラウンのとてもかわいい女の子で、独特の民族衣装を着ていた。

彼は当惑した。どうして女の子が降ってきたのだろう。飛び降りたのだろうけど、何かに追われていたのだろうか。とりあえず、このまま放置していく分けにはいかないよな、この子の事情を聴いてからどうすべきか考えるかと思い、女の子を抱きかかえながらホテルに戻った。

ホテルの部屋には、ベッドとソファー、テレビが置いてあるほか、備え付けの机の上にパソコンと小型プリンターが置いてあった。これは、レポートを作成するためにわざわざ日本から持ち込んだものだった。英雄(ひでお)はとりあえず、女子をベッドに寝かせた。


女の子が目を覚ました。最初はベッドの中でまどろんでいるようだったが、突然ハッとして飛び起き、壁に背をつけて言った。「あなたは誰ですか。一体ここはどこですか」

「すみません。驚かしてしまったようですね。私はこの国に旅行にきた者で、名を九頭英雄(くとうひでお)と申します。道を歩いていたらあなたが突然降ってきて、抱き留めたら気絶してしまって、それでとりあえず私が泊っているホテルに連れてきました」彼はなるべく丁寧で落ち着いた声で女の子に言った。

女の子はまだ警戒している様子だったので、「家までお送りしたいのですが、今この町ではクーデターが起きているようなので、もうしばらくここにとどまっていたほうがよいでしょう。ホテルに頼めば家に連絡を入れてくれると思いますので、連絡先をお教えいただけますでしょうか」と彼は優しく丁寧に口調で言った。

女の子は少し警戒を解いた様子でこう言った。「連絡はやめてください。お世話になりました。今すぐここを出ていきます。私のことは忘れてください」そう言って彼女は部屋から出ていこうとした。

「ちょっと待ってください。町は危険です。せっかく高いところから飛び降りて助かったのに今町に出て怪我でもしたらどうするのですか」彼は言った。

「詳しい理由は言えませんが、私がここにいるとあなたに迷惑をかけてしまいます」

「迷惑なんて思いませんよ。これも何かの縁です。私にできることなら手助けしますよ。家に連絡されるとまずい理由を聞かせてもらっていいですか」

女の子は躊躇していた。が、意思を固めた様子で彼に言った。

「私の名前はスラーシャ・ターイエと申します。この国の第一王女です。クーデターにより部族会議の会場で父と母、兄が捕らえられました。私は敵の目を盗んで逃げたのですが、足を滑らし落ちたところをあなたに救われました。私はこれから母方の出身部族であるヘイス族のところに行き、家族を助け出すために力を貸してもらえるようお願いしなくてはなりません」

少し間が開いて、お姫様はこう言った。「ごめんなさい。突然こんなことを言われてもしょうがないですよね。やはり私一人で何とかします。いろいろありがとうございました」

「ちょっと待ってください。最後にいくつか教えてください。この町を出る算段はあるのですか。町を出た後、ヘイス族のところに行く方法はあるのですか。ヘイス族はお姫様に必ず協力してくれるのですか」私は言った。お姫様は黙ってしまった。

彼は思った。これはある意味チャンスじゃないかと。日本で普通に生きている限り一生絶対に縁がないと思っていた大冒険のチャンスだ。我ながら子供みたいな発想だし、命の危険も多分にある。普通ならこんなことにかかわらないほうがいいのはわかっている。でもこれを逃したらこんな冒険のチャンスは一生ないだろう。

彼は好奇心旺盛で冒険にあこがれる性格であった。子供のころは冒険と称して、いろいろなことをした。知らない道を進んでいって迷子になったり、古い物置小屋に入り込んで怪我をして、そのたびに両親に怒られていた。それでも彼は将来はいろいろな国に行って、大冒険をする夢を持っていた。

そんな彼も大人になり、大学生としてこれからの自分の進路を考える中で、自分が普通の人間であり、何ら特別な存在でないことを自覚していった。このまま社会に出て、普通の大人になるのが、一番いい人生なんだと思うようになった。

今回の旅行は彼が完全に大人になってしまう前の最後の冒険のつもりだった。

「スラーシャ・ターイエ様、もしよろしければ手助けさせていただけませんでしょうか。微力ながらお手伝いさせていただきたいと思います」

お姫様はびっくりしたように言った。「なぜ、私を助けてくださるのでしょうか。縁もゆかりもない私を」

彼はどう答えようか迷った。まさか、大冒険にあこがれていたとは言えない。

「私は日本人だからです」苦し紛れにそういった。意味不明な発言であった。彼は言ってからもう少し考えればよかったと激しく後悔した。

「あなたはサムライの国、日本の人なのですね。わかりました。私を助けていただけますか」

「喜んで。お姫様」彼はなんとかごまかせたと思った。

「スラとお呼びください。ヒデオ様」

「それではスラさんと呼ばせていただきます。あと私の名前に様は不要です」

「それではヒデオよろしくお願いします」スラは微笑んだ。


九頭英雄(くとうひでお)は考えた。必要なクエストはとりあえず3つだ。一つ目は町を脱出すること、2つ目はヘイス族の元までたどり着くこと。3つ目はヘイス族の協力を取り付けることだ。

一つ目のクエストをクリアしなくてはならない。ホテルの従業員にそれとなく状況を聞くと、クーデター自体は銃撃戦もなく、町も落ち着いているが、町の出口には検問が引かれ、誰かを探しているようだとのことだ。

確実にスラさんを探している。スラさんを町から出すためにはスラさんがお姫様ということがばれないように偽装する必要がある。まず服を洋服に変えた。この国は民族服を着ている人がほとんどだが洋服も売っており、それで何着か購入した。髪は黒い髪染めを買って、黒く染めた。スラさんは青い目をしていたので、カラーコンタクトを買った。

ホテルに帰り、もう一つ重要な作業をした。その作業の間にスラさんの知っている情報を教えてもらった。今回クーデターを起こしたのは、陸軍4万人のうち、ディガル将軍率いるホンス族中心の部隊だそうで数は1万から2万の間ぐらいのとのこと。ほかの部族出身者の部隊は武装解除され、兵舎に軟禁されているらしい。逃げて隠れているとき、兵士たちが噂しているのを聞いたそうだ。

ということは、兵力的に首都であるこの町を抑えるのが精いっぱいで、他の地域にはほとんど手が伸びていない可能性が高い。

さらにちょうど部族会議の開かれているときだったので、部族の代表が捕まって軟禁されているらしいということが分かった。

朝出発することにして、スラーシャはベッドで英雄(ひでお)はソファーで寝ることにした。緊張しているのかスラーシャはなかなか寝付けないようだった。

「大丈夫です。うまくいきますよ」と英雄(ひでお)は声をかけた。スラーシャは身じろぎしたが、何も答えなかった。しかし、しばらくたつと彼女の寝息が聞こえてきた。


九頭英雄(くとうひでお)とスラーシャはタクシーを貸し切って、別の町に向かうことにした。日本人の夫婦で新婚旅行の目的でこの国に観光に来たという設定にした。町はすでに平静を取り戻しており、市場も始まっていた。人々の行きかいも復活し、あちこちに立つ兵士がいるほかは全く普通どうりという感じであった。

町から出る大きな街道沿いで、軍による検問が行われていた。スラさんには髪を染めて、カラーコンタクトをしてもらった。検問所は込み合っていた。ついに我々の番が来た。二人の兵士がやってきた。一人の兵士が「身分証明書を見せろ」と言ってきた。

英雄(ひでお)はわからないふりをし、「キャンニュースピークイングリッシュ」と言ったら兵士が困った顔をして、運転手に話しかけた。「こいつら外国人か?」「ああ、日本人の夫婦だそうだ。旅行に来たそうだ」すると兵士は彼に向かって「パスポート、パスポート」といった。

スラーシャは英雄(ひでお)の顔を見た。当然スラーシャは日本のパスポートは持っていない。

スラーシャの心臓は今にも飛び出さんばかりであった。

しかし英雄(ひでお)は何食わぬ顔をして二人分のパスポートを出した。スラーシャはびっくりした。兵士たちはパスポートの写真や押してあるビザを見た。

「ずいぶん印影が薄いな」一人の兵士が言った。「でも一応写っているし、間違いないだろう」もう一人の兵士が言った。「この女の顔、スラーシャ姫に似ていないか?」「いわれてみるとそうだな。でも髪の色も目の色も違うぞ」「確かにそうだな」

運転手に「いっていいぞ」といった。彼らは無事に町を脱出することに成功した。


スラーシャはどういうこと?と聞きたそうな顔で、英雄(ひでお)の顔を見た。後で説明すると小声で答えた。

彼はどうやったのか、実はパスポートを偽造したのだ。

スラさんの写真をスマホで撮って、たまたまレポートを書くつもりで持ってきていた小型のカラープリンターで、写真をプリントアウトした。当然目と髪は黒に色を変えた。さらに持っていたパスポート型メモ帳にスラさんの写真を張って、パスポートの同じ文面を印刷した。

それから自分のパスポートの日本の出国印とターイエのビザと入国した時の印を蒸気で湿らせて、それを文具屋で見つけた蝋原紙にこすりつけた。色は薄いけれどもはっきりと写った。

これをパスポート型メモ帳にこすりつければ白紙の部分に写すことができた。

これで偽造パスポートの出来上がり。まあ、プロが見れば偽造だとすぐにわかる代物だが、日本のパスポートなど見たこともないこの国の兵士ならごまかせるだろう、と思った。


別の町に到着してからこの話をしたら、「なんで教えてくれなかったのですか」と胸をぼこぼこと叩かれた。


気に入っていただけましたら評価等お願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ