第五戦 ストーカーとの戦い!
めっちゃ難産しました。この話だけ文字数多いし。いつもより長めですがお楽しみください。
なんで誰も信じてくれないのよ!そんなに私がストーカーに狙われるのはおかしいわけ!
まあ、正直私もおかしいとは思うけど。
コンビニの深夜バイトで一人って怖いよ。でも店長が困ってたしなあ。奥さんに陣痛が来たっていうからしょうがないよね。店長はすまながっていたけど、これで引き止めたら人間として終わっている。それに奥さんに出産のサポートは任せてくださいって宣言してあるし。大丈夫!5時までやり過ごせば朝番の人が来てくれるから。あと1時間!
なぜかこの店スタッフが続かないんだよなあ。私が最長。募集の申し込みは多いのに。特に女の子の。いつの間にか辞めちゃうんだけど、まさか店長セクハラとかしてないよね。それはないか。あんな素敵な奥さんいるんだし。すっごい美人だけど気取ったところは無いし。私みたいな、ちんちくりんにも優しくしてくれるし。店長どうやって捕まえたんだろう。
結婚いいなあ。というか彼氏欲しい。この間お店に来た店長の友人、カッコよかったなあ。幼馴染だって言ってたっけ。背が高かったよね。190cmぐらい!?筋肉質だったし。確か柔道でインターハイ出てるって言ってたな。それに優しかったよ~。趣味は動画サイトで大好きな犬を見ることですって言ってもバカにしなかったし。みんな地味な趣味だっていうのよね。どんだけ犬好きだって。
そういえばご友人、昔飼ってたハチにイメージ似てたな。大きくて優しくてそして強くて。本当に秋田犬と特徴そっくり。こんなちんちくりんもちゃんと女の子として扱ってくれた紳士だし。幼かった私を守ってくれていたハチを思い出す。
「深夜のコンビニのバイトって怖くない?変な奴に目をつけられたりとか!?」
ストーカーの話も唯一ちゃんと聞いてくれた。隣で聞いてた店長は笑いをかみ殺していたのに。それでも雇い主か!雇用主は従業員の安全に気を配る義務があるんだぞ!
「心配だから俺も店にちょくちょく顔を出すよ」って。
あんな頼りになる人が恋人になってくれたらなあ。でも私みたいなチビは相手にしてもらえないよね。並ぶと大人と子供だし。私の気持ちに気づいた店長がニヤニヤしながら間を取り持とうかって言ってたけど。それよりスタッフのストーカー対策しろよ!そっちの方が緊急性は高いぞ!!
どうしよう。ご友人さんの事を考えていたらストーカー事を思い出しちゃった。
最初にあのセリフと聞いたときは怖かった。2度目の来店の時に。バックヤードに店長がいなかったら悲鳴を上げていたよ。あれから来るたびに同じこと言ってくるんだよね。レジの時に周囲に聞こえないように声をひそめて。
どうして私に目を付けたのかな。普通に接客しただけなのに。もしかして他のコンビニで外国人だからって嫌な目にあったりしたのかな。
これでもこちらはコンビニバイト歴3年目。青い目の白人さんが来たくらいじゃ動揺しません。
あのストーカーも私の接客に最初びっくりしてたな。そんなに普通に対応されることが少なかったんだろうか。いまどきは外国人に見える日本人だって珍しくないのに。そういや店長もよく海外の人に間違えられるって言ってたな。一応ハーフみたいだしね。中身はコテコテのお笑い好きなのに。
自動ドアが開いた。いらっしゃいませと声をかけようとして固まる。
ストーカーだ!!店内をゆっくりと見渡して私が一人だとわかったのか、懐から何か取り出した。
うそっあれナイフ!!
「どうして逃げたんだ。俺はこんなに君のことが好きだったのに。もう逃がさないよ」
どっどうしよう。身体が動かない。自動ドアが再び開いた。私は思わず叫んでいた。
「はっハチ!!助けて!!」
店内に入ってきた男はあっという間にストーカーの後ろ手を取ると、両手で拘束し地面にねじ伏せた。
店長のご友人さんだ。何故かジャージ姿にぼさぼさ髪で。そういえば柔道でインターハイ出てるって言ってたっけ。
でもどうしてこの時間にお店に!?
「警察に電話して!!」
彼の声にわれに返り、慌てて電話の受話器を取った。
「アイツから電話があったんだ。嫁が陣痛きたからすぐに病院に連れてかなきゃいけないけど、その間は君一人にしてしまうって。ストーカーの話も君から聞いていたし嫌な予感がして、慌てて車を走らせて……」
それでジャージ姿で髪には寝癖がついているんだ。きっと寝ているところを店長の電話で起こされたに違いない。
お巡りさんがストーカーをパトカーに乗せている。私はずっと涙が止まらない。怖かった。もうだめかと思った。助けてくれた彼はずっと私の頭を撫でてくれていた。私の気を紛らわすためか、ずっと喋ってくれている。
「君を襲おうとした男は有名なモデルなんだよ。雑誌とかでよく特集されている。動画サイトでも人気があってね。君に言っていたという【どうして逃げたんだ。俺はこんなに君のことが好きだったのに。もう逃がさないよ】っていうセリフ。一番再生回数が多かった動画の有名なセリフでね。理想の彼に言われたいセリフ№1って」
それで私がストーカーの特徴を話した途端に友達たちも店長も笑ってたんだ。私の妄想だって。
「あの。どうしてストーカーの話を信じてくれたんですか?」
他の人は笑うだけだったのに。特に店長!!
くしゃっと彼は笑った。ううっそういう表情が本当にハチそっくり。胸のドキドキが恐怖からか彼がカッコよいからかわかんなくなってきた。これが有名な吊り橋効果!?
「きみが【店長】より俺に興味を持つような変わり者だから」
へっ店長!?どうしてこの話の流れで!?
「その顔は何にもわかってないね。あのモデルにストーカーされてるって妄想するぐらい彼のファンだったら、まずは俺の友達に目をつけるでしょう。あのモデルほどじゃなけどアイツもハーフで目立つ美形だから。昔から女の子たちに騒がれて大変だったよ。お店のバイトを募集しても女の子だとアプローチかけられちゃって。結局辞めてもらわないといけないって」
見た目はどうか知らないが、中身はお笑い好きでいい歳してふざけてばっかりいる残念な人だぞ。奥さんに同情してしまう。
「アイツが話してたんだ。バイトに変わった子がいる、俺に全く興味がない女の子。自分の嫁に嫉妬しない若い子初めてだって。【奥さん美人ですね!店長どうやってアプローチして捕まえたんですか?】って質問された話を大笑いしながら聞かせてくれたよ。俺が口説かれた可能性を微塵も考えていないって。まあ実際、アイツが先に彼女に惚れて押しまくってたから、君の予測であってたんだけど」
そっそんな!?私は変わり者だと思われてたんだ。確かに店長も背が高いし目立つと思っていたけど、好みじゃ無いだけで変人扱いってあんまりなんじゃ……
「それで俺に興味が無いならお前がタイプなんじゃないかってお店に呼んでくれたんだよ。あれでも気を使ってくれていたんだ。アイツの隣にいると俺を相手にするような奇特な人はいないから」
店長……気づかいはありがたいですが、私にも事前に情報をください。勝手に紹介されていたなんて知らなかった。
「それで動揺しているところにつけこむみたいだけど、俺と交際してくれませんか?」
へっ
「アイツの意図もネタ晴らししちゃって、これから普通に接するするのも難しいし。【自分に興味を持って貰ったから落ちるなんてお手軽すぎる】って笑われたけど、本当にアイツじゃなくて俺を見てくれる女の子って初めてで。その……アイツから君の気持ちも聞いてるし」
店長~!!これは奥さんに報告案件だ!!出産祝いを届けるときに、密告してこってり叱ってもらおう。
そうだ!返事!!
「わっ私でよければぜひ……」
「ありがとう。嬉しいよ。それで晴れて恋人になったところで質問をひとつ。君が俺を見て言った【ハチ!】ってなに?」
あっ忘れてた。どうしよう、言っても怒られないかなあ。昔飼っていた犬にあなたがそっくりなんですって。
事情聴取を終えた警察官をもう一人が質問していた。
「なんであの有名なモデルが、ストーカーなんかしたんだ?こう言っては何だが、平凡の女の子だよな。小柄で可愛いかったけど」
「小学生の頃に飼っていたムスターに似てたらしいですよ。大事にしてたけどケージから逃げちゃって。相当ショックだったみたいですね。彼女のことを生まれ変わりだって言ってました。仕事でファンや関係者と色々あって、軽い人間不信になってたみたいですね」
「ペットと同じカテゴリーか……。そういやあのモデルは猫みたいだって言われてたみたいだな。気まぐれで近寄りがたいと。女の子は助けてくれた彼を昔飼っていた犬に似ているって言ってたようだね。犬派に猫は興味ないか……」
「犬と猫とハムスターですか……ペットショップの店員さんもお世話が大変でしょうね」
「まあでも、動物の恋の季節は決まってるからな……」
恋愛ごとと縁が遠くなってからずいぶん経つ定年に近い初老の警察官2人。思わず顔を見合わせ深く深くため息をついた。
最期までお読みいただきありがとうございます。
基本は長いお話書けないんで、今までで最長かもしれないです。長編を書ける人を心の底から尊敬します。
誤字脱字報告を頂けると助かります。
ポイントも頂けると嬉しいです。
感想もいただけるとひれ伏します。
5話で区切りが良いので以降は不定期更新とします。
連載自体はまだ続けます。
このシリーズ書いてて楽しいです。
それでは次作でお会いできるのを楽しみにしております。