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好きっ子ポーラちゃん

「アミル、ポーラちゃんよ」


 お父さんが一人で盛り上がって熱弁を振るっているところにお母さんの声。


「ちょっと行ってくるね」


 私よりも熱くなっているお父さんは神父様に任せて、私は席を外す。

 まあ、誰が来たかはおおよそ分かっているんだけれど。

 正直なところ、おじさん二人と話すよりかは楽しいかもしれない。

 すると玄関で待っていたのは、やっぱりというべきか彼女だった。

 飛び抜けた容姿を持つらしい私から見ても、とても可愛らしい少女だ。

 女の子らしい髪はシルクのような手触りでいて、几帳面に整えられていた。

 イカの墨、もといセピアカラーのイカした髪色をしている。

 ん? イカの墨とかセピアカラーってなんだっけ?


「ああ、アミルちゃん」


 そんな彼女は、私の姿を認めると、途端に表情を綻ばせて微笑みかけてきた。


「いらっしゃい」


 私が出迎えると、間もなく胸に飛び込んできた。

 いきなりのことに、なんだなんだと、抱きとめる。

 とてもいい匂いがした。

 せっかくだから抱きしめて――、

 思わずトリップしかけた私に、喜声が掛かる。


「バステトに選ばれたみたいじゃないの! すごいわ!!」


 私にぎゅっと抱き着いてきて喜ぶ彼女は、ポーラ・シンガーという。

 私の幼馴染みであり、よく私の元に遊びに来る。


「さすが私のアミルちゃん〜♡ もう本当にすごすぎるのよ♡ 愛してるわ〜♡」


 ちゅ、ちゅ、ちゅと頬にキスをしてきたポーラは、そのまま甘えるかのようにむぎゅ〜と胸に顔を埋めてきた。


「ポーラって油断も隙もないよね……」


「好きはあるわよ〜♡」


 さらに力強く抱き締められる。


「はいはい」


 髪を撫でてあげると、ポーラは嬉しそうに喉を鳴らした。

 かわいいから愛でてあげることに。




 ぷはっと顔を出し、「ごちそうさまでした♡」賢者タイムになったポーラがいよいよ気付いたらしく、


「ん?」


 と、身体を密着させたまま、私の肩越しに後方を見る。


「お父様も来ているの?」


 そう訪ねられた。気配を察知したとかそういうんじゃなくて、話し声が聞こえたから気付いたのだろう。

 というか、耳に息がかかってくすぐったい。

 話しづらいから、ポーラの肩を押し、そっと離す。

 ポーラはちょっと名残惜しそうにしていた。


「神父様ならそこに来てるよ。なんか試練? とかいうものの話をしにきたらしくて……」


 言っていて、あまりしっくりこなかった。

 当事者なのにどうにも実感がない。バステトに選ばれたのも今日であるし、頭の中では、まだまだ整理しきれていなかった。


「試練……?」


 ポーラもピンとこなかったらしく、きょとんと首を傾げている。


「バステトに選ばれたことと関係あるのかしらね?」


「そうらしいけど……」


 試練に対してあんまり自信がなかった。

 果たして私は、試練を無事に攻略することが出来るのだろうか?

 出来なかったらという、もしものことも考えてしまっていて不安になってしまう。


「うん?」


 ポーラは私の表情から何かを感じ取ったのか。

 そっと肩に手を乗せて、


「心配しないで、アミルちゃんならきっと試練なんか目じゃないわ。それに私だって付いてるのよ」


 優しい声で告げたのだった。


「ありがとう」


 そう言ってもらえて嬉しかったから素直に頷いた。


「じゃあ」


 ポーラはぱっと身を翻した。


「ん?」


 手を引かれている。


「二人で行きましょう。父上たちに勘付かれる前に」


 私はポーラに連れられて、即時出発することに――、


「ポーラちゃん、いくらなんでも二人きりで行くのは許可できないよ。相手は幽霊、遊びじゃないんだ」


 ――とはならなかった。

 大人二人の登場である。


「そりゃそうなるよね」


「せっかく二人で行けると思ったのに。ひどいわ」


 がっかりするポーラに、


「いい加減にしなさいポーラ。アミルさんにそれ以上、ご迷惑をお掛けするのは止めるのです」


 神父様がそう忠告する。

 対して、唇を尖らせるポーラ。


「そういうこと言う父様、嫌いよ」


 神父様は、しれっと私の背後に陣取り威嚇するポーラに、畳み掛けるように言った。


「先日のこと、もう忘れたんですか?」


 ポーラが迷宮に行こうとか言い出して、森奥の迷宮に連れ出されたやつか。あれはきつかった。


「あまり虐めないでほしいわ。あのときのことは十分に反省していますわ」


 そうやって言い逃れようとするポーラを、


「反省が足りないと言っているんですよ。アミルさんは今では、この村どころか獣人族の希望となられた御方なのです。いくら仲が良いとはいえ、遊び半分で連れ回すのは、お止しなさい」


 もっと強い口調で咎めた。

 意外と頑固なところがあり、聞く耳を持つつもりのないポーラは人の尻尾で遊んでいる。こそばゆい。


「そんなに言ってやらんでも。ただポーラちゃんはアミルのことが大好きなんだよ。良いことじゃないか」


 そうやってお父さんまでもがポーラを庇う。


「さすがお義父様、話が分かっていますわ」


 そんなポーラを見て、神父様は疲れ切った表情をした。


「……どこで育て方を間違えたのでしょうか。アミルさんのこととなると貴方は……。もはや、何を言っても聞かないのでしょう。試練に付いていくのは勝手ですが、決してアミルさんの邪魔はしてはいけませんからね」


「そんなことは百も承知ですわ」


 ポーラが任せておけと言わんばかりに、胸を張り、


「というわけで、アミルちゃん、よろしくお願いするわね」


 こうして私はまた一人、試練への同行者を得たのだった。

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