新学期の空気
今日は、二学期の初登校日。昨日までのどんよりとした残暑とは打って変わって、秋を感じさせる緊張感のある空気が感じられる様に思う。一学期の終業式の時と、何一つ変わってないはずなのに、何かが変わっているような錯覚を加藤静波は覚える。
担任の長川先生は登校時、学校の正門から教室まで坂を上ってやってくるという噂を過去に何度も耳にした。むろん多くの生徒達は坂など使わずに、階段を上って教室に来る。坂というのは、ほぼ自然の状態に近いものなのだ。学校の敷地内の裏側にそれはある。静波も坂から登校してみたいと思う。もしかしたら自分にもそれが出来るのではないかと思う。しかし、実際にその坂の方に行ってみると、愕然とする。一見して無理だと脳は判断する。何しろ人口のものではなく自然のものと言えるのだ。普通の身体能力の学生は難しいだろう。何か筋力をアップさせる訓練などが必要なのではないかと思う。長川先生にもそれを聞いてみたいと感じる。
ふと見るとそこには長川先生の姿がある。今まさに坂を上り始めている。後ろから坂を上ろうかと思案する。しかし、先生にどの様にそのやり方を聞くのかを考えるだけで、その壁は厚いと感じ取れる。とりあえず、自分には難しいと直感するのだった。静波は今、あなたは一学期の時から何も変わっていないと言われているようなピリリとした緊張した空気と、何か新しく変わっていくかもしれないという秋に移ろっていく優しい空気の両面を感じ取る。時と共に確実に何かは変わっていくだろう。何か自分に出来る様になったり変化していったりということを期待してしまう自分がそこにはいる。