わたしは、ビーグル姉妹と密談する
近衛騎士団第二団長、カテリナ・ビーグルも、こうして夜、こっそりと妹とともに尋ねてきた今は、さすがに騎士団の正装はしていなかった。
馬上では後ろで縛っていた赤く長い髪も、今は留めずに下ろしている。
こちらも、当然といえば当然かもしれないが、馬上の謹厳な師団長とはずいぶんと雰囲気が違っていた。
アーダと並んで立つと、二人は確かに姉妹だと思わされる。
大きな目、美しい顔立ちもよく似ている。
「わたしも、加わっていいだろうか」
私服のカテリナ団長は、遠慮がちに言った。
「もちろんですよ、どうぞ…」
ユウが答え、間髪を入れず、セバスチャン執事がするすると近寄ってくると
「お部屋を用意いたしました。こちらへどうぞ」
わたしたちが案内されたのは、おそらく重要な商談などに使うと思われる奥まった部屋だった。
「さすがだ、セバスチャンさん…まったく抜かりがない」
ユウが感心している。
わたしたちが席に着くやいなや、いつ用意したのか、湯気を立ててお茶が運ばれてきた。
「それでは、ごゆっくり。この部屋にはだれも近づけませんので、ご安心下さい」
そう言い残して、セバスチャン執事は部屋をでた。
「それで、相談事というのは…」
すこし間を置いて、ユウが尋ねる。
「それは」
アーダが口をひらきかけたが
「わたしから言おう」
カテリナ団長が、それをさえぎって、話し始めた。
「アーダからあなたたちのことを聞いた。
妹を、危険から護ってくれてありがとう」
頭を下げる。そして、真剣な顔で
「あなたがたが、信頼できる方々だとみこんで、頼みがある。
…母を救ってほしい」
「お二人のお母様って、たしか…」
「そうだ。わたしたちの母、マリア・ビーグル王立古代遺跡院院長のことだ」
「救うとは、これはまた大仰なお話ですね」
「そう聞こえるのは承知だ。しかし、じっさい、そうとしかいいようがない」
「なるほど…詳しくお聞かせ下さい」
うなずき、カテリナ団長がはじめたのは、とんでもない話だった。
…知っての通り、王立古代遺跡院は、この世界にかつて存在した超古代文明の遺産を収集・研究する、女王陛下直属の機関だ。
超古代文明は、われわれの魔法文明とは違う原理で成り立っていた。
そのため、発見された遺物の多くは、現代の知識では理解できない。
そして、その遺物のなかには、おどろくべきことに現在でもまだ稼働するものがあるのだ。
それらは使い方さえ分かれば、原理などまったくわからなくても、使えてしまう。
日常のちいさな道具もあれば、破壊的な古代兵器も見つかっている。
だが、原理もろくに分からない、恐るべき威力の兵器など、今のわれわれにとって、あまりに危険すぎる。
悪用されたらとんでもないことになるのは明らかだ。
権力をほしがるものが、自らのためにそれを使う誘惑にかられる可能性も、決して無視できない。
そのため、王立古代遺跡院は、はるか以前、当時の賢王の指示を受けて以来、古代遺物の厳重な管理を行い、どのような批判をうけようと危険な武器は封印してきた。
しかし、今、王立古代遺跡院ではおかしな事が起こっている。
古代武器の紛失が続いているのだ。
ラマノスという職員は失踪したために調査されたが、あれだけではなかった。
ほかにもなくなっている武器があり、しかしもそれはラマノスだけの仕業とは思われない。
もっと以前から巧妙に行われていた形跡がある。
むしろ、ラマノスは、目の前の遺物に目がくらんで衝動的に盗みをはたらいた小物でしかなく、ラマノスとは別個に、大がかりな犯罪がおこなわれていたのではないかと思う。
組織的に、古代兵器を手に入れ、力を手に入れようとする陰謀が企まれていると考えられる。
女王陛下の命をうけ、われわれ騎士団はひそかに調査をおこなってきたのだが…
「このことを、マリア院長はご存じなのですか?」
ユウが尋ねる。
「おそらく…立場上、直接問いただすことはわたしにはできない。だが、これだけのことに、あの聡明で有能な母が気づかないことは、ありえないと思う。そして、気づいているとしたら、あまりに無策にすぎる」
とカテリナ団長は、つらそうに言う。
「故に、考えたくはないが、母がこの陰謀に加担している可能性も排除できない…」
「そんな!」
ジーナが言った。
「そんなことして、なんの得があるの?」
「お母様は、なんだか変わってしまったのです」
と言ったのは、アーダだ。
「最近のお母様はおかしい。前は、わたしたちに、古代文明の驚異について、楽しそうにいろいろ教えてくれて、研究が進んだらこんなことができるようになるかもしれない、そうしたら、みんながもっと幸せに暮らすことができるようになる、そんなことを嬉しそうに語っていたのですが、あるときを境に、それをふっつりやめてしまわれた」
「うむ、そうだ。母は、わたしに対しても、ひどく距離を置くようになり、たまに家に帰っても、会ってもくれなくなってしまった…」
とカテリナ団長。
「そしてついには、わたしは無理やり、神官見習いとして、修行に出されてしまったのです」
とアーダ。
「そうか、それでアーダは神官の…」
ジーナが納得したように言う。
「でも、アーダ、あんたは実は神官の力があるんだよ、知ってた?」
「えっ?」
「ユウの、アンバランサーの徴に気がついたでしょ。あれは、視る力のあるものにしか、わからないんだって。大司教さまがおっしゃってたよ」
「あっ、あれですか…」
アーダは顔を赤くして、
「すみません、ユウさん。あんなこといって」
と小さくなった。
「いやー、あのときのアーダはかっこよかったなあ。錫杖をつきつけて、『あなたには邪教のにおいがする!』なんて言ってさあ」
ジーナが、嬉しそうに、さらに語り、
「ほんとうに、すみません…」
アーダはさらに身を縮めるのだった。
「大司教さまにお目にかかったと?」
カテリナ団長が驚いていった。
「ええ、今日大聖堂を拝観しましたので、その時に」
「そうなのか…なかなか、かんたんにはお目にかかれる方ではないのだが…」
「そうなんだ…でも、大司教さま」
ジーナが無邪気に
「ミネーヴァさまに、『アウグストゥス、いいでしょう』とか呼びすてにされてたけどね。
そのあとでも、尖塔の上からミネーヴァさまに呼ばれて、手を振ってたよ」
「「ええっ?! ちょっと待って!!」」
ビーグル姉妹は、声をそろえて、叫んだ。
「「ミネーヴァさまって!!」」
「うん、女神ミネーヴァさまだよ。ミネーヴァさまと、あたしたち、お庭でお茶しちゃった」
「「ええええーっ?!」」
再び、そろっての驚愕の叫び。
「はあ…なるほど、そんなことが…ミネーヴァさまの…あの伝説の庭…神酒茶…」
昼間の出来事(ただし、禍つ神のくだりはのぞく)を聞かされて、カテリナ団長は
「はああ…やっぱり、アンバランサーはとんでもない存在…」
ため息をついて
「なんだか、わたし、どっと、疲れちゃった…」
口調まで、変わってしまった。
「でも、わたしは、これで確信しました。あなたたちになら、お母様を助けてもらえる。
おねがいします、みなさん」
「お願いします」
アーダも言った。
「なにが、お母様をかえてしまったのかわからないけれど、もとのお母様に…」
「わかりました。ぼくたちのできるかぎりのことをしますよ」
それは奇しくも、昼間の、女神ミネーヴァさまとの約束と同じ言葉なのだった。
「さて、それではどうやって調べてみるかだけれど」
とユウが言うと、
「それについては、わたしとアーダで考えた案があります」
とカテリナ団長。
「もうじき、古代遺跡の発掘調査が予定されています。お母様が調査隊を率いるのですが、発掘調査には、護衛が同行することになっています。『雷の女帝のしもべ』のみなさんがその中に紛れこむというのはどうでしょうか?」
かくしてわたしたちは、王立古代遺跡院の古代遺跡発掘調査に同行することになったのです。
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カテリナ団長:いいなあ、わたしもミネーヴァさまとお茶したいなあ…。




