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アンバランサー・ユウと世界の均衡  〜唯一無二の属性<アンバランサー>を持つ少年が世界を救う!  作者: かつエッグ
第二編 「星の船」

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わたしは、女神とお茶をする。

 ミネーヴァさまは、大聖堂のファサードへと、わたしたちを導いて行く。

 聖堂正面には、両側に見上げるばかりの尖塔がそびえ、中央正面にならぶ三つの扉の上には、精巧をきわめた彫刻にかざられた青いバラ窓があり、さらにその上には流麗なアーチがある。

 建物の外壁は、輝くばかりに白い。


「すごいねー!」


 ジーナが感嘆の声を上げる。


「シンドゥーのはキンキラキンで圧倒されたけど、こっちは真っ白で(おごそ)かだねえ」

「ふふふ」


 ミネーヴァさまは笑った。


「ガネーシャさんのところね。南国の、まぶしい太陽のもとで、あれは映えるわね」

「ガネーシャ様のこと、ご存じなんですね」

「ヴリトラさんもね。この前の、あなたたちの活躍も、映像を送っていただいたわ。良かったわー、なんども観たわよ」

「「えっ!」」


(「ええーっ、ここでも? もうやめてー!」という悲鳴が、遠くのほうで聞こえた気がします。気のせいでしょうか。「うむ、喜んでもらえて何よりだ、編集をがんばった甲斐があったというものだ。励みになるね」という声が、また別の遠くのほうで聞こえた気もします。気のせいでしょうか)


「ふふっ、わたしたちは、これでも、けっこうやりとりしているのよ」

「ははは、まるで神さまたちの()()()()()()()ですね」


 と、ユウは例によってよくわからないことをいう。


「でも、いいな」


 と、ミネーヴァさまは、急に、幼い子の口調になって言った。


「シンドゥーには、神様がたくさんいて」


 その口調は、こころなしか寂しげだった。


「わたしは、この地にひとりきり。

 ガネーシャさんとヴリトラさんの、仲のいい掛け合いを聞いていると、羨ましくなるわね…」


(あの神様たち、だれあいてでもあの調子なんだ…)

 わたしが感心していると、


「ミネーヴァさまは、家族とかいらっしゃらないんですか」


 いきなり、ジーナが聞いた。

 ぶしつけにこんなことを聞くのは、いつものジーナである。

 でも、これは正直、神様にする質問ではないと思う。


「妹がひとり…だけど」


 そう言って、顔を曇らせた。

 その様子に、なにかがあったのだとわたしたちは察した。


「あそこ」


 ミネーヴァ様は、女の子の小さな指で、空を指さした。

 そこには、おりしも下弦の月が空にかかり、昼の日光のもとでも薄く見えている。


「ずっとずっと昔、あそこに行ったきり、音信不通なの…」

「あそこって…月、ですよね」

「そう、妹の名は、アーテミス…」


 ミネーヴァさまは、気を取り直すように、にっこりして


「さあ、中に進みましょう、びっくりするわよ」


 わたしたちは、それ以上聞くことはできず、黙って後に続いたのだった。



「こらこら、その入り口はだめだよ」


 三つあるうちの、真ん中の扉から入ろうとして、ミネーヴァさまは門衛にとめられた。


「その入り口は、高貴な方のための入り口だからね」

「あら、そう」


 ミネーヴァさまは、門衛の言葉を聞き流し、かまわずつっきろうとするので、わたしたちが


「ミネーヴァさま、わたしたちは、こっちの扉で…」

「別に、まんなかでかまわないわよ。わたしが許可します」

「いえ、ぼくら、あまり目立ちたくないし…」

「うーん、そうなの?」

「はい、それでお願いします」

「残念ねえ…わたし、真ん中は高貴な人用なんて、決めた覚えはないんだけどな…」


 ミネーヴァさまは、実は、かなりくだけた方であったのだ。

 わたしたちが日ごろ教えられた堅苦しい教義や、聞かされたお話とはずいぶん違うのだった。

 ガネーシャ様や、性格は少し悪いけどヴリトラ様も、魅力的だったし、神さまって、本当はみんなこんなふうなのかな…

 そう思っていると


「まあ、いろいろね。楽しい神もいれば、偏屈な神もいるし、かなり危険な(まがつ)つ神の(たぐい)もいるし。シンドゥーのあのお二人は、わたしも大好きよ」


 と、すかさず、ミネーヴァさまが答える。

 わたしの思っていることはお見通しだ。

 やはり、神さまはあなどれない。


 大聖堂の中は、光と影に満ちていた。

 入り口から、見上げると首が痛くなるほどの高さを持つ身廊が、ずっと奥までつづいている。

 天井の明り取り窓から光の筋が何本ものびて、荘厳な雰囲気を醸し出す。

 身廊と並行するように、柱にくぎられた側廊も走っている。

 祭壇に焚かれた乳香の香りが、ここまで漂ってくる。

 おおぜいの人々が、感嘆の声をあげながら、行き来している。

 身廊を進んでいくと、やがて両脇からの翼廊と交差する。

 交差する位置の床面には、この世界のシンボルが意匠化されて描かれている。

 ドームのステンドグラスから落ちる光が、そのシンボルを彩る。

 さらに先に進むと、そこには聖域がある。

 聖域の中には、祭壇があり、そして正面に、慈愛に満ちたミネーヴァさまの像が、両腕をひろげたポーズで屹立しているのだった。

 わたしは、壮麗な建築に圧倒されていた。

 ユウは、あたりを見回しながら、


「うん、すばらしいね。()()()()()()にも負けないねえ」


 などとまたよくわからないことをつぶやく。


「うーん、なんだかなあ」


 と不満げなのは、ミネーヴァさまだ。


「なんだか?」


 とジーナが聞くと


「あの、わたしの像がね…」

「えっ、すごくご立派ですよ」

「いっしょうけんめい作ってくれたのはわかるけど、なんていうか、もう少し…」

「だめなんですか」

「もう少し、ゆるい感じが…」


 残念そうな口調が、なんだか、とても微笑ましいのだった。

 

「つぎは、こっちにいくわよ」


 身廊をもどるとミネーヴァさまは、尖塔につづく扉をカチャリとあけた。


「はい、どうぞ」


 その扉は、さっき通り過ぎたときには、厳重に鎖で封鎖されていたはずだが、今は何事もなく普通に開いてしまった。


「いいのかなあ…」

「ここでは、わたしが良いといえば、良いのです」


 扉が閉まると、がちゃりと鎖が音を立て、元通りに封鎖されたようだ。

 ミネーヴァさまが力を使ったのだ。


「おい、どうなってるんだ? 今、そこに、ひとが入っていったぞ!」


 目撃者がいたようだ。なにか、外で騒いでいる声が聞こえた。

 わたしたちは、尖塔の階段を上っていく。

 長い長いらせん階段に、冒険で体力のあるわたしも、だんだん息が切れてくるが、ミネーヴァさまは先頭にたって、軽々とのぼっていく。まるで、重さがないかのようだ。いや、神さまだから、じっさいに重さなんてないのかもしれない。

 ようやく、塔のてっぺんにたどりつく。


「すごーい、王都が、ぜんぶ見えちゃう!」


 ジーナが歓声をあげた。

 尖塔からの眺望は素晴らしい。

 城壁にかこまれた王都が一望できる。

 向こうにみえる華やかな王宮。

 あちこちに配置された、たくさんの歴史ある建物、縦横に走る道、走る馬車。歩くおおぜいの人たち。

 城壁の外には、青々とした草原がひろがっている。

 草原に、風が波を作る。


「ね、すてきでしょう」


 とミネーヴァさま。

 わたしたちは、景色に見とれながら、うなずいた。

 すぐ下をみおろすと、大司教さまがおつきのものをしたがえて、執務館の方に歩いていくのもみえた。


「アウグストゥース!」


 ミネーヴァさまは、声を上げて、手を振る。

 大司教さまは、声に気づき、わたしたちを見上げて、礼をした。

 そしてまた歩き出す。

 このいきさつを、おつきのものたちもしっかりみていたわけで、これってあとでまた騒ぎにならないか心配だ。


「あっ、また、カテリナさんだよ」


 ジーナが言い、指さす。


 カテリナ団長ひきいる近衛騎士団が、大聖堂の前の通りを走っていく。


「王宮に向かってますね」


 と、ミネーヴァさま。


「なんか、カテリナさん忙しそうだなあ…」


 ジーナが言うと、ミネーヴァさまは


「騎士団も、今、いろいろとたいへんだから…」


 わたしたちが、景色を堪能するのを待って、ミネーヴァさまは、


「これから、とっておきの場所にいくわね」


 階段をおり始めた。

 細い廊下をとおり、何度も曲がり角を通り、階段を上り下りし、扉をいくつもあけて、たどりついた。

 そこは、秘密の内庭だった。

 大聖堂の奥深く、たぶん、地上より高い場所に、土をいれて庭がしつらえてあり、白く美しい花が咲き乱れている。

 陽ざしがやわらかくそそぎ、四方を囲まれた場所のはずなのに、やさしい風が吹いている。

 風に乗り、馥郁たる花の香りがただよう。

 白い花びらが、ひとひら、ふたひらと風に流される。


「とても、すてきな場所ですね」


 ユウが言う。


「この場所を知るものは少ないわ。ごくごく、限られた人だけ。神に招待されたものだけが入れるのよ」


 ジーナが驚いていった。


「いいんですか、ミネーヴァさま。あたしらなんかが入って」

「もちろんよ、大事なお客様なんですもの」


 ミネーヴァさまがそういって、手を振ると、そこには丸いテーブルと椅子があらわれた。

 テーブルの上には、青い飲み物のはいったグラスがのっている。

 飲み物はよく冷えているのだろう、グラスは汗をかいている。


「さあ、お茶をいただきながら、お話をしましょう。どうぞ」


 わたしたちは、その飲み物に口をつけた。

 その飲み物は、甘く、しかし体の疲れや、頭の熱がすうっと晴れるような清涼感があって


神酒茶(ネクター・ティー)よ。お気に召したかしら」

「えっ、あたし、そんな神様の飲み物、飲んじゃっていいのかなあ…」


 ミネーヴァさまは微笑んで


「それでね」


 と、続ける。


「聞かせてくださらない? あなたたちの冒険を」

「あたしたちの?」

「そう」


 目を輝かせて


「楽しみにしてたのよ。お願い、さいしょから、これまでのことをずっと…」


 というわけで、わたしたちは、ユウと出会った時からのこれまでを、ミネーヴァさまに語ることになったのでした。

 ミネーヴァさまは、最初から最後まで、身を乗り出すようにして、楽しそうに話をきいていた。

 話がようやくおわると


「すてきね。とてもとても、面白かったわ」


 満足げな顔をしたあとで、あらたまった顔になり


「アンバランサー・ユウ、ひとつ気になるんだけど」

「はい」

「あなたを殺しかけた、あの、たいへん危険な存在。あいつはもう、この世界に現れる心配はないのかしらね?」

「そうですね…」


 ユウは考え込む。


「ふつうなら、こちらの世界をみつけることはできないと思いますが、しかし」

「しかし?」

「こちらの世界から、サインを送ってしまうと見つかる可能性があると思います」

「サインとはどんなものでしょう」

「ふつう起こりえないような異変をおこすことです、たとえば、時空連続体に大きな穴をあけてしまうとか…」

「あっ、この前のギルドの!」


 ジーナが大声をあげた。


「あれくらいなら、まあ大丈夫と思うけど、あれをもっと大規模に、長時間続けてしまうとまずいと思う。閉じればまだいいが、開けっ放しは最高に危険だな」

「そうですか…」


 ミネーヴァさまは、眉をひそめていった。


「ひょっとしたら、アンバランサー・ユウ、あなたにまた戦ってもらわないとならなくなるかもしれませんね。わたしはそれを危惧しています」


いつも読んでくださってありがとうございます。だんだん不穏な空気がただよってまいりました。


面白いぞ、次を早く、そう思われた方は、応援お願いします。


ミネーヴァ:はー面白かった。わたしも冒険したいなあ。

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