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その人は、お土産を用意した。

 わたしたち三人は、家に向かっているところだった。

 わたしとジーナが先導し、ユウは後をついてくる。

 そのあたりでは、街道は両側を小さな森に挟まれていた。


「ちぇっ、明日かあ…」


 と、ジーナは悔しそうにいった。


 ジーナがいうのは、もちろん、当てにしていた盗賊の報償金のことだ。


(ジーナ、ちょっと、ちょっと)


 わたしはそう思うのだ。

 よく考えると、いや、考えるまでもなく、盗賊を退治したのはユウなのだから、その報奨金は、当然、ユウのものなので、そのあたり、なにかジーナは大きな勘違いをしている気がする。

 ジーナのそんな発言をきいて、ユウが気分を悪くしないか、わたしはヒヤヒヤしていた。


「それにしても、あいつら二十四人もいたとはね」


 ユウは、気を悪くするようなそぶりもなく、別のことをいった。


 わたしは、おどろいて、きいた。


「相手の人数しらないで、魔法かけたの?」


「うん。二人がひどいめにあって頭に来てたし、敵意を感じたあたりを、だいたいでやった」


「そうなんだ…」


 わたしはあきれた。


(そもそも、だいたいで、あんなことできちゃうんだ…)


「だから、もし気配を消したやつが、いちばん遠くの方にいたとしたら、サバンさんが言ってたように、力の範囲外になってたかもしれないな…内にいたら、どんなことをしても、あれから逃れようがないはずなんだ。重力は、万物に働くのだから」


「うう…報奨金…」


「ジーナ、いいかげんにやめなよ」


 わたしは、ユウを気にしながら、小声でジーナをたしなめた。


「だってさあ…」


 ジーナも小声でボヤいた。


「もらえてたら肉とか買えたんだよ。せっかく、ユウさんが来てくれるんだから、歓迎したいじゃん」


「それは、そうだけど…」


 正直言って、わたしたちの孤児院は貧乏だ。

 肉なんて、めったに食べられないのだ。

 歓迎するから来てくださいなんて言ったけど、確かに、ユウに来てもらっても、ろくな歓迎はできそうにない、ということに改めて気がついてしまった。


(うーん、どうしよう…)


 ユウは、そんなわたしたちの会話が聞こえていたのか、いないのか、とつぜん


「そうだ!」


 と声を上げた。


「えっ?」


 わたしとジーナがふりかえると、ユウはにこっと笑って


「ね、きみたちの家にお邪魔するんだから、ぼくは、お土産、持ってかないといけないね?」


 と言ったのだ。


「ジーナ、手伝ってくれるかな、きみは感覚がするどいよね?」


「えっ? ま、まあ、そうだけど」


「獲物の臭いとか気配とかわかる?」


「んー分かるかな? 分かるかも?」


「だいたいの方向がわかればそれでいいよ」


「たぶん…近くにいればなんとかなるかも…臭いが強いヤツなら…」


 ジーナは自信なさげだ。


「よーし、じゃあ、さっそく、やってみようよ」


 そう言うと、ユウは、道を外れて、森の中へ入っていく。

 わたしとジーナも、おくれないように、あわててついていく。

 

 森に少し入ったところで、ユウは立ち止まった。

 そこは、木立や茂みがちょっと開けた場所だった。

 ちらちらする木漏れ日が、その場所を照らしていたが、注意してみると、何本かの獣道が一点で交差する、そんな場所のようだ。


「さあ、ジーナ、やってみて」


 ユウにうながされて、ジーナは真剣な顔になった。


「う、うん、じゃあ、やるよ…!」


 ジーナは、じっと目を閉じて、感覚を研ぎすましていった。

 わたしとユウはかたずをのんで、そんなジーナを見ていた。

 森は静かで。

 どこかで鳥が鳴き。

 ジーナは、眉間にしわをよせ、獣人の鼻をヒクヒク動かし、ゆっくり息を吐きながら…


 やがて、


「分かった…たぶん、あっち」


 一本の獣道の先を指さす。


「あれは、草豚の臭いだと思う…自信ないけど」


「了解だ、ジーナ」


 ユウは、ジーナの示した方向に、すっと手のひらを向けた。

 すると、


 ぶぉぉぉぉ…!


 何も見えないが、その方向から、小さく吠える声が聞こえた。


 ぴぎぃいいいい!


 声は悲鳴のように変わり


 やがて、バキバキ、という枝が折れる音や、どすんどすんという何かが暴れるような音が聞こえ、それがだんだん大きくなり、こちらに近づいてくる。


「えっ、なに?」

「これ、だいじょうぶなの?」


 あわてるわたしたちをしりめに、ユウは落ち着いた声で指示した。


「よし、ジーナ、剣をかまえて!」

「は、はいっ!」


 ジーナが両手で剣を構える。


「来るぞー」


 次の瞬間、向こうの茂みが、はじけるように吹き飛んだ。


「うわっ、大きい!」


 獣道の向こうから、茂みを吹き飛ばしながら、草豚の、緑色の大きな体が現れた。

 わたしたちの体の三倍は、ゆうにあるだろう。

 その巨体が、枝や草や、石ころを吹き飛ばしながら、どんどん近づいてくる。

 近づいては来るのだが…


「「なんで転がってくるの?!」」


 わたしとジーナは、思わず声をあげてしまった。

 突進してくるなら分かる。

 走ってくるなら分かる。

 ちがうのだ。

 草豚の巨体は、走ってない。

 まるで、坂道を転がり落ちているように、ごろごろ回転しながら、近づいてくるのだ。

 それは草豚にとっても考えられない事態のようで、悲鳴をあげて、体をよじり、じたばた暴れているが、どうにもならないようだ。

 障害物を吹き飛ばしながら、ぐるんぐるん回り、傷だらけになり、こちらに転がりおちてきているとしか、いいようがない。

 ここは、ぜんぜん、坂道なんかじゃないんだけど。


ぴぎぃーーーー!

ずうん!


 わたしたちの近くまできた草豚は、悲痛な叫び声を上げながら、地面でいったん跳ね上がり、待ち構えるジーナの目の前に、叩きつけられるように落ちてきた。


「今だ、ジーナ!」

「えいっ! えぃっ!」


 ジーナが剣をふるい、草豚は抵抗する間もなく、あっけなく息絶えた。

 もっともその前に、すでに息も絶え絶えの状態だったけど。


「ふうー…やった!」


 ジーナが、ほうっと息を吐いた。


「やったね!」


 ユウはそういうと、草豚の前で、不思議なことをした。

 両手の手のひらを、胸の前でをあわせて、目をつぶり、頭を下げる。


「「?」」


 わたしとジーナがいぶかしげな顔をしたのに気がついて、ユウは言った。


「あ、これ? 草豚に、感謝の気持ちをあらわしたんだ。ぼくの育ったところでは、こうするんだよ」


「ふうん?」


 よくわからないが、わたしとジーナも真似をして、三人で手を合わせた。


「ね、ユウさん」


 わたしは疑問に思ったことを聞いてみた。


「これ、どうなってるの? 草豚、走ってなかったよね。走ってないのに、近づいてきたよね。なんだか、わたしには、急な坂道を転がり落ちているみたいに見えたんだけど…」


「うん」


ユウはうなずいた。


「その通りだよ。草豚は、最初にいた場所から、ここまで、落ちてきたの」


「それって…」


 わたしは、はっと思いついた。


「例の、重力ってやつ」


「そうだよ。すごいね、ライラ。正解だ。ぼくは、重力の方向を操作して、向こうが上、こっちが下になるようにしたんだ。だから、草豚は、あそこからまっすぐにここまで、崖を落ちるようにころがり落ちてきたってわけさ。びっくりしただろうねえ、いきなり、立っている場所が崖になっちゃうんだから」


(重力操作って、いったい…)


「ねえ、それよりもさあ」


 ジーナが、心配そうな声で言った。


「こんな大きなの、いったいどうやって家まで運ぶつもり? 三人じゃどうしようもないよ」


「だいじょうぶ」


 ユウが、にっこり笑った。


いつも読んで下さってありがとうございます。なかなか、ライラ&ジーナの孤児院にたどりつけませんね。

続きが読みたいぞ、草豚はどんな味がするんだ、そう思われた人は、ホシをポチッとお願いします。

なんとか、週2回は更新したいものです。

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