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アンバランサー・ユウと世界の均衡  〜唯一無二の属性<アンバランサー>を持つ少年が世界を救う!  作者: かつエッグ
第一編 「エルフの禁呪」

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その人は、「雷の女帝のしもべ」となった。

「さて、どれにしようか」

「うーん?」


 わたしたち三人は、冒険者ギルドのホールにいた。

 ホールの壁に取り付けられた、黒い大きな石板の前に立っていた。

 この掲示板には、白い蝋石で、いくつものクエストが書かれている。

 現在募集中のものだ。

 冒険者は、そのなかから、これはというものを選び、受付にそのクエストを受注することを申し出る。

 ギルド職員が申し出を吟味し、認可すると、掲示板のそのクエストには<遂行中>の印が付けられ、達成されるのを待つことになる。

 クエストにはそれぞれ、その難易度のランク、成功した場合の報酬など、いくつかの情報が記されている。冒険者は、その情報を頼りに、請け負うクエストを決めていくわけだ。

 なかには実力不相応なクエストに挑もうとする冒険者もいるため、そのあたりの判断をギルド職員がおこない、受注を認めない場合ももちろんある。

 特に、駆け出しの冒険者は、自分の実力を客観的に見られず、往々にして自信過剰の傾向があるために、無謀なクエストを希望してしまうことがよくある。

 それで初心者はしばしば命を落とす。

 ベテランほど死ななくなるのだ。

 まあ、本人が実力不足で死ぬのは、それは自己責任だから仕方ないといえば言えるのだが、それだけでは済まなくて、失敗したあげくに状況をこじらせ、被害をさらに拡大してしまうことも稀ではない。

 その後始末をしなければならない立場の人間にしてみれば、大迷惑だ。

 だから、ギルドも、判断を慎重にせざるをえないのだ。


「なんで、ダメなんだよ?! アンデッドを始末するだけのクエストだろ」


 今も、いかにもな感じの、ひと組のパーティが、受付でもめていた。

 男三人と、女一人のパーティだ。


「ですから、なんども言っているじゃないですか。あなたたちのパーティに、浄化魔法を使える人は、ひとりでもいるのですか? アンデッドに立ち向かうのに、浄化魔法は必須ですよ」


 そう答えているのは、アリシアさんだった。

 頭に血を昇らせてまくしたてる、乱暴そうな男にも、きぜんとした態度で応対している。

 さすが有能なギルド職員アリシアさんだ。

 男はそれでも、なかなか、ひきさがらない。


「そんな魔法なくても、アンデッドぐらいなんとでもなるんだよ!」


「あなた、アンデッドのこと、わかってますか? とにかく、だめなものは、だめです」


「なにおぅ?」


 怒鳴り声をあげて、男が、剣の柄を受付の机にたたきつけた。


「なるほど、お前たちの自信のほどは、よおーくわかった…」


 ドスの効いた声がした。

 ぬうっと、サバンさんのたくましい体が、後ろから現れた。

 元狂戦士の鋭い眼光に射竦められ、


「ひぇっ」


 男は情けない声をあげ、一歩下がった。


「お前たちが、アンデッドを始末できるかどうか、念のため、いまから俺が確かめてやるよ。あくまで、念のためだけどな。さあ、こっちにこい!」


 そういうサバンさんに、がしっと肩を掴まれ、抵抗もできず、男は、扉の奥に引き摺られていったのだった。


「バカだなあ…」


 ジーナがつぶやいた。


「バカだね…」


 わたしも言った。


「わたしたちは、ちゃんとやろう」


 なにしろ、今日、これからのクエストは、わたしたち三人がパーティを組んで初めての、記念すべきクエストなのだ。きっと、あとあとまでわたしたちの記憶にのこるのだから、それにふさわしい仕事で、きっちりと達成しないといけないと思うんだ。


 ーーどんなクエストがいいかなあ。


 そう思って、石板のクエストを真剣に吟味していると、


 ガラーン


 ゆっくりと、ギルドの扉が開いた。

 振り返ると、そこには、小さな男の子が立っていた。

 冒険者ギルドとはあまりに場違いなその姿に、冒険者たちが思わず話をとめ、注目していると、男の子は、とことこと石板の前までやってきた。

 そして、置いてあった蝋石を手にし、石板の一番下、空白があるところに何か書き込み始めた。

 のぞいてみると、


 ねずみ、たいじしてください

 ちかしつにでます  たべものやられています

 お()がいします


 と、つたない字で書いているのだった。


「おいおい、どうすんだよ、これ」

「ぼうず、かってにかいたらダメだろうが」


 と、それをみた冒険者たちから声がかかり、アリシアさんが受付からやってきた。

 子どもは、アリシアさんに


「ここで、こうやって頼みごとを書いたら、冒険者さんがなんとかしてくれるって。そう聞いたんだ」


 迷いのない顔で言った。


「うーん…、基本的にはまちがってはいないんだけど…」


 アリシアさんはつぶやいた。

 アリシアさんは、しゃがみこんで、視線を男の子にあわせて


「こまってるんだね。それで、この依頼は、だれの依頼なのかな? 家の人に言われてきたの?」


「んーん、お母さんはそんな余裕ない。妹とぼくで考えたんだよ」


「そうなのかあ、よく思いついたねえ。だけど…こうやって、ギルドで依頼をするには、報酬をはらわないといけないんだよ」


「ほうしゅう?」


「お礼のお金のこと」


「そうなんだ…」


 こどもは、それをきいて、しょんぼりした。


「ぼく、お金なんか、ないよ」


 うなだれてしまう。


「ねえ、君」


 そこへ、ユウが声をかけた。


「なにか、お金じゃなくてもいいから、お礼になりそうなものはないかな…」


「うーん…」


「君が、これならお礼にふさわしいって思うものだよ」


 こどもは考え込んで


「そうだ! お母さんのクッキー? とてもおいしいよ」


「いいじゃない、クッキー、おいしそうじゃない?」


 ジーナが言い、アリシアさんがほっとしたようにうなずき、「受注、認可します!」とその場でいい、なんだかよくわからないけど、きっとたぶんこれは、ギルドの正式なクエストではないのかもしれないのだけど、わたしたちパーティの栄えある初クエストは、男の子の家の、地下室のねずみ退治にきまったのだった。


 男の子――ジンタに案内されて、わたしたちはジンタの家まで歩いて行った。

 道々、ジンタは状況を説明してくれる。

 ジンタは、街はずれでお母さんと暮らしている。

 家には食べ物などを貯蔵する地下室があるのだけれど、ここ半年ほど、地下室があらされるのだそうだ。

 野菜がかじられる。小麦の袋がやぶられる。

 そんな被害が続いているのだそうだ。

 夜になって、みんなが寝静まると、がたがたと地下で音がするようだ。

 家には、お母さんと、ジンタ、そして妹のユーリしかいない。


「ユーリは、ここのところずっと、体の調子がよくないんだ」


 ジンタが悲しそうに言う。


「昼間も、寝てることが多いんだよ」


 お母さんといっしょに、ジンタも地下室を調べてみたが、ねずみの侵入場所さえ、見つけられなかったようだ。



 ジンタの家は、町をぐるっと囲む城壁の、すぐ内側にあった。城壁の向こうに、高く茂った森の樹々がみえている。

 壁にそって並んだ石造りの長屋のような建物の、端にある、ひと間だった。


「お母さん、冒険者さんをつれてきたよー」


 ジンタが叫んで、家に飛び込んだ。


「えっ、ジンタ、どういうこと?」


 家から、ジンタに手をひかれて、エプロンをつけたやさしそうな女性が出てきた。疲れているのだろうか、顔色はあまりよくなく、髪もすこし、ほつれていた。


「あ、はじめまして」


 びっくりする女性に、わたしたちはあいさつする。


「わたしたち、ジンタ君に依頼されてきました、冒険者パーティ…」


 わたしはそこまで言って、三人のパーティ名をまだ決めていなかったことに気がついた。

 パーティ名…パーティ名…

 冒険者といって頭に浮かんだのは、ギルド副マスターのサバンさんで、サバンさんがルシア先生に「お仰せのままに!」と言って…。そんなことが頭をよぎったせいか。

 とっさに思いついて名のった。


「…『(いかづちの)の女帝のしもべ』です」


「ええっ? それ初耳っていうか」


「なんだい、それ…」


 ジーナはあぜんとし、ユウは苦笑した。

 しかたないよ。

 そんなかんたんには思いつかないんだよ。

 ぱっと浮かんだのがこれだったんだもん。


「きっと、今ごろ、ルシアさんはくしゃみをしているな…」


 ユウがつぶやいたが、なんのことだか、わたしにはわからない。


「えっと? それで、その冒険者様が…?」


 ジンタのお母さんは、話がわからないという顔だ。


「ねずみだよ、地下室のねずみ! ぼくが、ギルドまでいって、退治してくれるようにたのんだんだ」


 ジンタは得意気にいった。


「まあ!」


 お母さんはおどろき、そして困った顔をした。


「あの…息子が、迷惑をかけてしまって…もうしわけありません。でも、そもそも、冒険者さまに依頼するような内容じゃないし、それに…情けないですがうちは貧乏で、報酬なんかとても…」


「大丈夫です、お母さん!」


 とジーナが力強くいった。


「これは、わたしたち『雷の女帝のしもべ』の記念すべき初仕事です! 初回限定特別サービスで、報酬は、おいしいお母さんのクッキーを、たらふくいただくことになっています!」


「えっ?」


 いや、ジーナ、どこからつっこんでいいのか、もはやよくわからないが、あなたのセリフは、いろいろとだめだと思う。ちゃっかり『雷の女帝のしもべ』っていってるし。「たらふく」って、ただのあなたの願望だし…。


「お母さんのクッキーおいしいよ!」


 ジンタが、また得意気な顔で言った。


「まあ、とにかく、お困りなのでしょう? ご期待にそえるかはわかりませんが、よろしければ、ぼくたち『雷の女帝のしもべ』におまかせください」


 ユウが、さらりと言った。

 …わたしたちのパーティ名は『雷の女帝のしもべ』に決定したようだ。


「あまり、きれいでなくて恥ずかしいのですが…」


 そういいながら、お母さんは、わたしたちを家に入れてくれた。

 そんなことはない。

 部屋は決して広くはないが、こぎれいに片付いている。

 わたしたちが入っていくと、奥の部屋、たぶん寝室、のドアが遠慮がちに開いて、そこから小さな女の子が顔をのぞかせた。かわいらしい顔立ちだが、顔色は青白く、やつれているために、目の大きさがさらに目立っていた。

 この子が、ジンタの妹、ユーリなのだろう。


「お客さん?」


 と、か細い声で言った。


「ユーリ、無理しなくていいから、寝てなさいね」


 お母さんが、やさしくいった。

 ユウはその姿をじっと見つめ、なにかを考えるようだった。


「お母さん、ユーリさんの調子が悪くなったのって、いつぐらいからですか」


「そう…半年くらい前からかしら。からだがだるいっていうようになって…」


「台所で、ねずみがではじめたのは?」


「それも…同じくらいかもしれません。でも、それが、なにか?」


「もう一つ…この建物ぜんたいで、ほかに調子の悪い人いませんか?」


 お母さんは眉をひそめた。


「上の階の、マイルさんに、二軒隣のサモンさんもそうですね…ここはたしかに、環境があまりいいとは言えないので、たぶん、病人も…」


「なるほど…あなたも、あまり調子はよくなさそうだし…」


 ユウは考え込んでいる。



「ここが、その、地下室の入り口です」


 と、お母さんが、台所の床を示した。

 一角に、木の扉がしつらえてあった。

 そして、その扉を持ち上げて開けた瞬間、


「ん?」


 わたしたち三人ともが、妙な違和感を感じたのだった。



いつも読んで下さり、ありがとうございます。三人は、とりあえず、地道にクエストをこなすつもりのようですが…


続きが読みたい、どんどん先にすすめ! そう思った方は応援のポチを。

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