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薬草採取


「この国も楽しめましたね」


「え!? もう出国しちゃうの!?」


 隣のレストランで朝食を食べながら。

 締めの一言に入ったイツキに、エルは驚きを隠せない。

 てっきり一ヶ月ほど滞在すると思い込んでいたが、別れはあまりにも早くやって来る。


 予想よりも何倍も早く、一週間もしないうちにこの国を出ることになった。


「もうちょっとゆっくりするのかと思ってた。この国には飽きちゃったの?」


「そういうことではありませんが、もっと他の国に行ってみたいというのが大きいですね」


 ついつい質問してしまったエルに、イツキは正直に答える。

 そこ答えは、イツキが旅を始めたきっかけであり目的でもあった。


「人間の寿命とか移動時間とかを考えたら、意外と国にいられる時間って少ないんですよね。ですから、ちょっとせっかちになっているのかもしれません」


「寿命……エルはどれくらいなんだろ」


 エルは不安そうに悩む。

 魔王と人間では、間違いなく寿命に違いはあるだろう。

 そもそも、そんなことを考えるには、まだ早すぎる年齢かもしれない。


「エルは……お父さんと一緒がいい」


「……それなら、長生きしないといけませんね」


「約束だよ、お父さん」

 

 何を想像したのか。

 泣きそうな顔になっているエルの頭を、イツキはポンポンと撫でる。

 しばらくすると落ち着いたようで、最後に鼻を力強く啜ってイツキの顔を見た。


「それじゃあ行きましょうか。エルちゃんは小さい国と大きい国なら、どっちが好きですか?」


「んーっと……分かんない!」


 何気なく聞いた質問だったが、この返答は予想外だ。

 ここまでハッキリ言われてしまうと、逆に正解だと言えるのかもしれない。


「次は小さな国らしいので、この国のように歩き回るということはなさそうです」


「そうなんだー!」


 歩き回らなくてもいい――という言葉にエルは嬉しそうに反応した。

 やはり今回は疲れていたらしい。

 イツキもエルも、感覚は同じようだ。


「あと、次の国で資金を確保するために、薬草などを採取して行きたいのですが、手伝ってくれませんか?」


「うん!」


 元気の良い返事で、エルは出国の準備を始めた。



***************



「お父さん、これって薬草?」


「あぁ、これは似てるけど違いますね。食べれないことはないんですけど、今回の目的ではありませんから、見送ることにしましょう」


「お父さんは何でも知ってるねー」


 エルが発見したのは、惜しくも薬草ではなくただの野草だった。

 薬草が密集している地帯を見つけることができたら一獲千金なのだが、如何せんそれは見つからない。


 エルが似たような野草を見つける度に、イツキがその野草の解説を始める。

 既に薬草採取ではなく、野草解説の時間になっていた。


「これも違う?」


「あっ、それには触らないで! 毒がある物ですから気を付けてください」


「わっ!」


 エルが野草に触れようとした瞬間。

 イツキがその手をガッシリと掴んだ。

 いきなりであったため驚いたのか、エルはビクッと体全体を震わせる。


 魔王に毒が効くのかは分からないが、もう少し遅れていたら毒におかされていたかもしれない。


「この辺りはハズレしかないですね。少し場所を変えましょうか」


「うん」


 健闘虚しく、いくら探しても薬草は見つからない。

 これ以上探しても埒が明かないと判断したイツキは、早々に場所を移動した。

 判断力のあるイツキだ。


「……ん? お父さーん、変なキノコが生えてる」



「……どれど――!? エルちゃん! お手柄ですよ!」


「へ?」


 エルに呼ばれてイツキが確認に向かうと、そこには予想もしていなかった食材があった。


「これは幻茸といって、かなり高価で売れるんです。しかも何本もありますね。エルちゃんが見つけてくれなかったら、見逃してましたよ」


「いやいやっ! お父さんが場所を変えようって言ったから……」


「謙遜なんてしなくて大丈夫ですよ。間違いなくエルちゃんのお手柄です。よしよし」


「え、えへへ……」


 あまりに興奮したイツキは、感情に身を任せてエルの頭を撫でる。

 そこにある幻茸は、ざっと確認しても二十本は下らない。

そこまで考えると、言葉以上の大手柄だ。


「それじゃあ採取しちゃいましょうか。えっと……一旦エルちゃんのリュックに入れても大丈夫ですか?」


「うん、いいよ――はい!」



 イツキは手際よく幻茸を採取する。

 エルも不器用ながら、後に続くように幻茸を採取した。


「…………」


 黙々と集中して採取しているため、その場は沈黙に包まれる。

 採取する時に傷付けてしまっては、売値が下がってしまうということもあって、イツキも必死だった。


「……ふ、ふふふ夫婦みたい、だね」


「……ん? エルちゃん、何か言いました?」


「な、なんでもない!!」


 採取に集中していたイツキは、ついついエルの発言を聞き逃してしまう。

 イツキが慌てて聞き返すことになったが、エルがそれに答えることはなかった。


 勇気を出して呟いたセリフは、もう一度となるとあまりにも恥ずかしい。

 今はまだ、誤魔化すことで精一杯だ。


「よし、全部取れましたね。エルちゃんには何でも買ってあげますよ」


「ほ、ほんと!?」


 トラブルなく全ての幻茸を回収し終わる。

 上機嫌なイツキとエルは、軽い足取りで次の国へと向かっていた。



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