ウィリアム・ウォード
「これから、私の娘を護衛して欲しいんだ。」
そう、旦那様から言われた瞬間、俺の主はエラ様になった。
最初の頃は、子供のお守りなんて、と思っていた。
公爵令嬢なんて、甘やかされて育ってきた、甘ったれたお嬢様なんだと密かに考えていた。
でも、それは違った。
確かにエラ様は甘やかされている。でも、それを受け入れず、頑なに拒否していた。ドレスは数着を着回して、専用の侍女もミアという女1人。食事も質素なものだし、部屋に訳の分からない高価な置物を置いたりもしない。
旦那様や奥様は、ドレスを贈りたがり、侍女も沢山雇おうとしていた。でも、エラ様はドレスを贈られると嫌がり、侍女も1人で十分だと言い放った。
何もかもが、俺の想像する貴族のお嬢様とかけ離れていた。
初対面の日、奥様からエラ様に護身術を教えろと言われた時は内心辟易した。
体力もなく根性もなく我儘なお姫さまに、護身術を教えたってすぐに音を上げるに決まっている。
予想に反し、エラ様は、弱音を吐かず、自分で立ち上がり、只管前を向いて稽古に励んだ。影で自主練習までしているらしく、どんどん強くなっていった。
最初はそんなつもりがなかったが、
「エラ様には殺気からどこに刺客がいるかあてられる程度にはなって頂きます。」
と言ってしまったのは余談だ。
護身術だけではなく、他の教科でも努力家で、どれも優秀だと言ったことを聞いた時、令嬢についての考えを改めなくてはいけないと思った。
エラ様は、どこか相手の期待に沿うように行動している節がある。
まるで糸で操られた人形のように。
でも、偶に、自分の本心を見せることもある。それは本を読んでいる時だったり、美味しいお菓子に出会ったときであったりする。そんな時の表情はとても自然で美しく、暖かかった。
しかし、俺以外の誰かがいる時に本心を見せることは無い。
それが俺にとっての微かな自慢だ。