永遠の命
私の病さえなければ、その佳き日々は終わりを告げることも無かったのではないだろうか?
不治の病。そんなものこの世界に沢山あって、たとえ一国の王であっても、病魔の例外にはならない。
主治医に、「もう、治ることは無いでしょう。あと、余命は半年もありません。」と、そう言われた時に思い浮かぶのは、セリーヌ。ただあなたの姿だった。
膨大な年月を、たった一人で生きてきたセリーヌをまた、1人にしてしまうのが、心苦しかった。
「他の神様と一緒にいたりしないの?」
「多くの神は、馴れ合いを好まないんだよ。」
そう答えたセリーヌの寂しそうな瞳を私は忘れない。
いつ、セリーヌに伝えようか。そう考えては、言い訳を探していた。
今日はまだ早い。 今日は雨だから。 今日はそんな雰囲気じゃない。
そうやって、後回しにして。
言わなければいけなかったのは分かっている。でも、それを行動に移す勇気がどうしても出なかった。
空が灰色の雲に覆われていた日。私は昼間に海に行った。セリーヌとの約束はいつも夜。その日はたまたま時間が空いて、波の音を聞きに出たんだ。
目を閉じ、波の音に心を任せる。すると、気分が落ち着いて、心がスっと楽になる。
刹那、音が消え、私の周りの空気が変わった。
驚いて目を開けると、そこには黒髪黒目の美しい女性が立っている。彼女は、透けるように白い肌を持ち、どこまでも真っ黒なその瞳で私を見つめ、微笑んでいた。ターコイズブルーのドレスは酷く彼女に似合っている。
「神様が、私になんのご用ですか?」
セリーヌではない。けれど、似た空気感だった。私は彼女がセリーヌと同じような『神様』だと、既に確信していた。
「今日は貴方にお願いがあってきたのよ。」
彼女の微笑みを見ていると、何故だか哀しくなる。まるで、彼女の哀しみが伝わってきたかのようだった。
「セリーヌを、助けて頂戴?」
「ねぇ、ルーシー。君に、永遠の命を与えようか?」
そう、言われた時。私はきっと間抜けな顔をしていたんじゃないかと思う。
だって、彼女に言われたのと、全く同じ口調だった。
私は、彼女に言われた通りに、セリーヌを拒絶する。だって、これしか、セリーヌを助けることが出来なかったから。
永遠の命?
セリーヌと居られるのなら、私は永遠を生きることさえ厭わなかったわ。
でも、彼女は言った。
「魂に干渉することは神々にとって重罪となっているわ。でも、その実を知る者はほとんどいない。何故だか解るかしら?」
私は頭を横に振る。
「私たち神は、孤独であることが存在意義なの。誰かに肩入れせず、ただ黙々と『世界』の管理者であることが。だから、もし魂に干渉したならば、私たちは記憶を消され、新たに作り替えられる。そして、また他の世界の管理者になるのよ。」
瞳を細める。どこか、遠いところを眺めるように。
「私は、自分の世界に降りたことがあった。そして、その時に『愛』を知ることが出来たの。その人には、とても感謝しているわ。でも、私は神の中でも永く生きているの。だから、魂に干渉した時に起こることも知っていた。そして私は、その人を見殺しにした。」
嗚呼、その人を見つめているのね。
「永遠の時を生きるのは辛いことよ。でもね。1度でも愛を知ることが出来たら、幸せだと思うの。だから、セリーヌの記憶を無くさせないで。お願い。」
永遠に生きてきた彼女だから言える言葉。愛を知る一生は確かに幸せなのだろう。少なくとも、孤独しか知らない一生よりかは。
それに、セリーヌと生きられないならば、私が永遠の命を受け取る理由も無い。
ごめんなさい。セリーヌ。貴方と共に生きることが出来なくて。




