昔話 10
それから、幾許の年月が過ぎ去った。
彼の王は死に、私を知る者、見た者は誰一人としていなくなった。
しかし、私が地上へ降り立ったあの日々。私を描いた者が一人居た。
彼はその後に高名な画家となり、私の姿は世に広まった。
私はそれをただぼんやりと眺めていた。
きっと、あの世界には、私の知らないようなことが沢山ある。降りてみれば夢中になるのだろう。
でも、そんな気にはなれなくて。
人にとっては膨大な年月。私にとっては、神にとっては欠伸をしていれば過ぎ去る時。
私はただぼんやりと眺めていた。
「セリーヌ……だっけ?」
ある日、私の空間を訪れる者がいた。
彼も、彼の創った世界に降り立った。神々の中でも奇特なやつだ、と近付く者はいない。しかし、彼は私の数少ない友人だった。
「どうした?」
「君を、セリーヌと呼んだ彼女の魂が、僕の世界に来ているんだよ。」
私はその時とても間抜けな顔をしていたんだと思う。彼はとても驚いて、慌て出す。
「ルーシーが、ルーシーが、いるのか?」
「ルーシー?分からないけれど、君が教えてくれた魂だよ。」
「私に見せてはくれまいか?」
私は乞う。彼は微笑む。
「もちろん。大切な友人の頼みを無下になんてしないよ。」
ふ、と空気が変わる。彼の空間に移動したのだ。
「あれだよ。」
彼が指さしたのは美しい黒髪を持つ、エラ。貴方の前世だった。




