昔話 9
ルーシーの白い顔には薄く化粧が施されていた。
頬は薄紅に染まっている。
私は、ルーシーの頬に手を添えた。
「ねぇ、ルーシー?最後に、笑って別れたなら良かったね。ごめんね。私があんなことを言ったばかりに。拗ねて海岸へ行かなくなったばかりに。」
私は心からの謝罪をした。
そして、微笑む。
「ルーシー。有難う。私に愛を教えてくれて有難う。楽しさを教えてくれて有難う。幸福を教えてくれて有難う。」
感謝が、とめどなく溢れてくる。
瞳から流れ落ちるのは、ただ、彼女の為に。
神々の涙は、滅多に流れない。その涙は一滴毎にこの世界を清める。
「有難う、有難う……」
いくらしても足りない感謝の言葉。
「君にもう一度出会えたら、」
涙を拭い、
「私は再び君とともに生きたい。」
ルーシーにキスをした。
最期の別れも済んだ。もう、ここにいる理由はない。
私がこの部屋を出ようとすると、王は、私の前まで来て言った。
「叔母からの伝言です。
『もしかしたら、とても不思議な人が、私に会いに来てくれるかもしれない。そうしたら、伝えておいてくれないかしら。あなたと出会えて幸せでした、と。』」
ルーシーは、なんてことをしてくれるんだ。
私の退屈な日々を。
明るく、楽しく、幸せなものにしてくれた。
私は君に貰ってばかりで。
「有難う。」
私は、彼に、心からの感謝を伝える。
王は騎士の礼をした。
「この国に、幸あらんことを。」
祝福の言葉を述べる。
「貴方は、もしかして…」
私は微笑む。
「ただのセリーヌさ。」




