昔話 8
「ここは、王宮だぞ?!お前は誰だ!どうやって入った?」
兵士が私を見て、驚き声を上げる。
嗚呼、五月蝿いな。
私はそれを無視し、ただ、目的の場所へ歩を進める。
「聞いているのか?!待て!」
兵士が私に剣を向ける。
嗚呼、面倒だ。
私は兵士を眼力で硬直させた。暫くは動けまい。
王宮の廊下はただ、沈黙を守り、重々しく暗い雰囲気を漂わせている。
美しく磨かれた床、整えられた花、芸術的な絵画。
それらの全てが、この廊下を哀しく見せていた。
私の足音だけが、響く。
目当ての部屋の前。兵士が先程までの比にならないくらいの数である。
部屋の中からは、ただ、ただ、啜り泣く声が聞こえた。
兵士はきっと、この国の精鋭なのだろう。
物音ひとつ立てずに、私のことを取り抑えようとしているのが伺える。
きっと、中にいる誰かの哀しみに水を差さないように。
私は彼等の意志を汲み取り、音も立たせないまま、彼等を眠らせた。
静かに扉を開けると、中には大きなベッドと、その傍らに座る青年がいた。
青年は私の気配に気が付きこちらを向く。
矢張り、彼か。
彼は、先程の新聞に載っていた。女王崩御のあとの国王だ。
私は彼からベッドへと、視線を移す。
そのままベッドに近づき、青年を押し退けて彼女の傍らに行く。
手を握る。顔を見る。笑って、みる。
雪のように白い手に温度は無く、その美しい顔には笑顔が無い。
私は今、笑えているだろうか?
彼女────ルーシーがいないこの世界で。




