昔話 1
ロイ達が見えなくなってから、私はセリーヌから離れた。
「それで、どこへ連れていくの?」
私は、いらだちを隠さずに尋ねた。
「ふふっ。エラは賢いし、面白いね。」
セリーヌが笑う。
「今のところ、海の祠にいくつもりだよ。君は海が好きだから。」
私は今まで、セリーヌに『海が好き』なんて、言ったことは無い。
「それは、エラのこと?それとも貴方の愛しい人?」
あくまで、別人であると強調する。
「両方だね。」
どこか遠くを見つめるように、目を細めたセリーヌは、なんとも切なげだった。
「その人は、どんな人だったの?」
思わず、尋ねていた。
「そうだね。君は何も知らない。話してあげよう。愛しい彼女のことを。」
セリーヌが語り出すのを、私は黙って見守る。
「そんなに緊張しなくていいのに。」
セリーヌが微笑み、空気が変わった。
この空間だけ、周りから断絶されたのだ。
ここが、海の祠なのかもしれない。
「長い、長い話だよ?」
セリーヌが語ったのは、とてもとても、信じられそうにない物語だった。
昔、私は創ったばかりだったその世界を眺めるのにすら飽きていた。
そして、暇つぶしに、下界へ降りていったのが始まりだったんだ。
私が降りたのは、その世界で初めてできた国の、初めて女王となった少女のところだった。
私は、それまでその少女になんの関心も抱いていなかった。だって、人間は愚かで、身勝手な生き物だったから。
そのとき彼女は海の音を聞きに行っていた。今程、王の護衛はいなかったから、1人でふらりと出てきた女王になんて、着いて来るものはいなかった。今では考えられないだろう?王は片時も自由にはなれない、そんなこと当たり前の今では考えられないだろう?
一方、私がそこに降り立ったのは偶然だった。下界のどこへ降りるかなんて決めていなかったから、そこに降りたのは本当に小さな小さな確率だったんだよ。




