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5話 金切り声が聞こえないスローライフを送りたいです

顔面偏差値の高いお茶会で話すこと数十分。なんだか、目が慣れてきて、さほど緊張しなくなってきました。慣れって怖いな。

そんなことを考えていると、どこからか怒鳴り声が聞こえた。

「ねぇ!お兄様はどこにいるの?ほら、早く案内しましなさいよ!」

まだ、幼い少女の声だ。キャンキャンと喚くようなそれは金切り声で、酷く耳につく。

「どなたでしょうか?」

私がそう呟くと、オースティンと、ヒューゴはロイの方を見る。二人ともじとりとした目で、ロイを見つめているので、ロイは居心地が悪そうだ。

ヒューゴは溜息をつき、

「ロイの双子の妹のイラーリですよ。兄のロイが大好きなんです。」

「あぁ。ブラコンか。」

「ぶらこん?」

「いえ、なんでもありませんわ。」

私はひとつ咳払いをすると、笑顔で答えた。この世界にブラコンという言葉があるかわからないし、あったとしても、教えてあまりいいことは無いだろう。

「ロイを探しているようですが、行かなくてもよろしいのですか?」

私は、ロイに尋ねる。するとロイはふるふると首を横に振った。かわいいな。

「イラーリは、今家庭教師のいる時間でしょう。遊んでいる場合じゃありません。」

「そうなんですか。」

それじゃあ、いずれ部屋に連れ帰られるだろう。私は優雅にお茶を1口含んだ。

「お兄様!!!」

危うく噎せそうになるほど勢いよく開け放たれた温室の扉には、ロイに似たアクアブルーの髪と瞳を持つ女の子が立っていた。

きっと、もう、お気付きだろう。ロイに似ているという時点で、私の可愛いセンサーにどストライクなのだ。

「可愛い。」

私がそう呟くと、イラーリはこちらを向いて、

「誰ですの?」

と訝しげな顔をした。私は王女に挨拶をしていなかったことに慌てて淑女の礼をしながら、

「エラ・フォーサイスでございます。」

と言った。すると、イラーリはその可愛い顔を最大限に歪めて、こう、言い放った。

「私、あなた嫌いですわ。」

「エラになんてこと言うんだ?!お前はいつもいつも……エラ?!大丈夫か?」

「エラ嬢が固まってるぞ。」

そう。私はショックだった。初対面でどストライクの少女に嫌いと言い放たれ、ショックじゃない者がいるだろうか?いや、いない。

至近距離でロイに肩を揺すられ、その顔で癒しを補給出来なければ、暫くこのままだっただろう。

「はっ!」

そう言って私は正気に戻ると、イラーリの方を見た。彼女は未だ私を睨みつけている。

なんて、可愛い顔で私を睨みつけてくるんだこの子は。

「なんで、私を嫌っていらっしゃるのか教えて頂けますか?」

「だって、お兄様を取るんですもの。前までは私のことを第一に考えてくださったのに、最近はエラが、エラと、エラに、なんて、顔を緩ませて話すばっかり。私が何を言っても上の空だし、何かしようと誘っても、エラとの約束があるから、なんて言うんですのよ?私、あなたなんて大嫌いですわ!」

わぁ。美少女が怒ってる。めっちゃ可愛いよ?しかも、内容が嫉妬とか可愛いしかないよ?


(内心はどうであったにせよ)ポーカーフェイスの私に、イラーリは顔を真っ赤にして更に怒り、手近にあった紅茶の入ったカップを掴んだ。

私は目をつぶる。熱い紅茶がかかるものだと思って、身を固くしたが、いつまで経っても紅茶はかかってこない。目をうっすら開けると、目の前にはウィルがいた。それも、私がかぶるはずの紅茶をかぶって。

「ウィル?!大丈夫ですか?いや、大丈夫なわけありませんね。誰か冷やすものを持ってきてちょうだい。」

私が焦りながら、指示を出す。

ウィルは

「大丈夫ですよ。これが、俺の仕事ですから。」

と言った。でも、王宮が出す紅茶がぬるい訳ない。きっと、火傷してしまっただろう。

「ごめんなさい。私のせいで、こんなことになってしまって。」

「エラ様のせいじゃありませんって。」

私は、ウィルに怪我を負わせてしまったことに酷く動揺していた。

すると、少女の声が聞こえる。

「その女が悪いんですわ。私のお兄様を取るから!」

金切り声が耳に障る。

ウィルの元に氷が届けられ、替えの服を用意したからそちらに着替えるようにと王宮付きのメイドに言われる。熱い紅茶がかかった服は替えた方がいいに決まっている。しかし、ウィルは、主人を残すのはと、行くのを躊躇っていた。私は、王宮の護衛もいるし、ウィルは着替えなさい、と言う。私のせいでウィルが怪我をした。護衛というものはそういうものだと頭では知っていても割り切れない部分がある。泣きそうな顔でお願い、というと、ウィルは渋々と言ったように失礼します、と言いながら下がった。

すると、金切り声が響く。

「私、悪くありませんもの!」

まだ、耳に障る。あぁ。五月蝿いわね。

「その、耳に障る金切り声をやめて下さる?」

私はこの体になって初めてと思うほど冷たい声を出した。

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