神様
「レイラ?レイラ、どこなの?」
私は木々が鬱蒼と茂る中を彷徨っていた。レイラは時折先の方で姿を見せるが、一向に追いつけない。
私に視線を移すこともあるが、全く足を止める気がないようだ。
ふと、木々が途切れ、開けた場所に出た。
目の前には美しい、海だ。
「海?」
私が声を上げると、いつの間にかレイラが目の前まで来ていた。そして、美しい淑女の礼をする。美しく、人の完成度を超えているような、そんな礼だった。
「ごきげんよう。エラ・フォーサイス。」
そう言うと、レイラは口角を上げる。美しい笑みだが、『レイラじゃない』と、私は瞬時に悟った。レイラはこんなふうに笑わない。もっと暖かい笑みを浮かべる。
「貴方は誰なの?」
私は尋ねる。
「嗚呼、面白い。本当に面白いな、エラは。」
そう、彼女は微笑んだ。この世のものとは思えない、ぞっとするほど美しい笑みだった。レイラの姿でこんな顔をされるのはとても不愉快で。
すると、とても小さい、小人に羽がついたような可愛い生き物達が私の周りを飛びながら現れた。
「ねぇ、エラ!ぼくたちとあそんでよ!」
「わたし、あなたとずっとあいたかったのよ!」
「でも、セリーヌがだめっていうのよ!」
「そうそう。セリーヌったらひどいんだ。」
もしかしたら、
「貴方達は妖精?」
「うん。ひとはそうよぶよね。」
「ええ。だって、わたしたちになまえをつけないと」
「ふべんだってー」
「なんでだろうね?」
やっぱり、妖精だ。海の妖精。
妖精は愛し子にしか姿を見せないと聞く。
「なんで、私の前に姿を現してくれたの?」
「だって、エラのことすきだもん。」
「わたしもー」
「たましいがきれいなのー」
「うまれたときからずっとみてたんだよ?」
ふふっとみんな顔を見合わせたように笑う。
10以上の妖精が笑う姿はとても微笑ましい。
「セリーヌはいじわるだから。」
「そう!なんでセリーヌだめっていうの?ってきいたら」
「いまはそのときじゃない、ってー」
「やっとそのときがきたんだよ!」
さっきから出ている名はセリーヌ。
「セリーヌって?」
「めのまえにいるでしょー?」
「そうそう。」
「なんでセリーヌそんなかっこうしてるの?」
「おもしろーい!」
けらけらと妖精達は笑いだした。
さっきから微笑を称え、こちらを見ている彼女が、セリーヌ?
「貴方は、セリーヌと言うの?」
「そう、呼んだ人が昔いたんだ。ひとりだけね。」
ふっと微笑むと、セリーヌは姿を変えた。
「この姿に見覚えはあるだろう。」
透けるような虹色の髪。水晶のように透明な瞳。白い肌に、美しい衣。
「大抵の人は、私のことを、」
そう、私は知っている。
こんな姿をしたものが、私の知っているもの以外に居たりする訳がない。
だって、貴方は。
「神と呼ぶ。」
神様なのだから。




