初めての海
レイラが何かしら話しに来ると思っていたのに、全く私に関わろうとしなかった。寧ろ、私が話そうとすると避けてしまう。私はなにかしてしまったのだろうか?そう思うととても不安になる。
そんな日々が続き、海へ行く日になってしまった。
水の妖精がいる海はとても美しいと聞く。
不安と楽しみが入り混ざった気持ちのまま、海へ向かう。
「エラ、どうぞ。」
ロイが馬車の外から手を差し出す。
令嬢は馬車で、子息は馬で、海へと向かったのだ。
「有難う。」
私は微笑みながらその手をとる。辺りを見回しても、レイラは見当たらない。こんなシーン、レイラなら必ず見に来ると思ったのに。
「何か気になることでも?」
ロイが尋ねる。私はいいえ、と頭を振った。ロイには何も言ってないから。
「皆さん降りましたね。ここからは、歩きで行きます。すぐ着くので、足元に気をつけて歩いてください。」
ウィルが、言う。令嬢には道の悪い所で歩いたことが無いような人もいる。ここは少し海の砂が飛んできたりして、足場が滑りやすくなっているのだ。
私はロイのエスコートとともに歩くので、心配は無い。
「エラは海なんて、初めてでしょう?」
「ええ。楽しみなのよ。」
うきうきしているのは否めない。だって、今世で初めての海だ。ましてや、妖精がいるなんて。
「見えてきましたよ。」
ロイが見る方向に視線を移すと、前世でも見たことがないくらい青く美しい海が見えた。
「まぁ!」
つい声を漏らす。ロイが微笑んだ。
「近くに行くと更にその美しさがわかりますよ。」
「楽しみだわ。」
その時、レイラらしき人を見つけた。やたらと暗い背中で、木々の近くを歩いている。
「ロイ、ごめんなさい。私、行かなければならないわ。」
今はレイラを追いかけるべきだ。
「エラ?!」
私は、ロイの呼びかけを後にして、レイラを追った。




