失恋した令嬢 レイラ・ボールドウィン
もう、ロイのことは諦める。
むしろ前世の私は喜んでいた。この、乙女ゲームを生で見られるという状況に。
でも、やっぱり、《レイラ》もいるのだ。15年も付き合ってきたこの体と考え方が、ロイのことを諦めるのを拒否する。
でも、敵わない相手にどうやって?
ロイは絶対に私に振り向いてくれないのに?
混乱していた。私が、《レイラ》なのか、《前世の私》なのかわからなかった。
でも、《レイラ》の折れかかっていた希望と、《前世の私》の純粋な欲では、どちらが勝つかなんて一目瞭然だ。
私は《前世の私》として、乙女ゲームの悪役令嬢として、動いていた。
そんなある日、エラにお泊まり会に誘われる。
どちらの私も混乱しまくりだった。
とりあえず、おやつ用に作っていたどら焼きを手土産に持って行った。
すると、ひょんなことから、エラが転生者だと知る。しかも、日本からの。そして、私の和菓子を買いに来てくれていた人だと。
前世営んでいた和菓子屋で、はじめてできた常連さん。
彼女はいつも真剣な瞳で和菓子を選んでいた。とても嬉しかった。
でも、彼女には何処か寂しそうな雰囲気を感じた。
そんな人が、エラ・フォーサイスなのか。
情報過多で、頭はショート寸前だった。
エラは公爵令嬢としても、次期王妃としても模範生で、乙女ゲームのヒロインとしても、模範生になった。
私はロイとのスチルを喜ぶと共に、内心どこかほっとしていた。
ああ。本当に本当に、この子にはかなわない。
《レイラ》としての希望が完全に打ち砕かれた。
私はずっと、失恋したかったのかもしれない。きっぱりと、振られたかったんだ。
そう思うと、すっきりした。
入学パーティーから帰ると、清々しい気持ちが私を満たしていた。
でも、オースティンの「エラはつまらない」という言葉が棘のように刺さったままだった。




