傷
2人だけの部屋。
今までロイと二人きりになったことなんてなかったかもしれない。
私にはウィルがいつもついていて、ロイには精鋭の護衛がいた。侍女や執事もたくさん周りにいて、本当の二人きりは初めてかもしれない。
この世界で貴族の子息と子女が二人になるなんて滅相もない、なんて雰囲気だから。
これからも、二人きりになる機会なんて滅多にないんだろうな。
そう思うと、色々なことを話すのは今しかない気がしてきた。
「私はね。前世の記憶を持ってるの。」
ロイは、急に語りだした私に、少し驚いた表情をしながらも、うん、と頷いた。
「前世では、私には私として生きることを望まれていなかったから。今世でも、そうなんじゃないかって。私として生きるなんて、迷惑なんじゃないかって。」
ふっと笑う。自分が考えすぎなのはわかってる。わかってるけど。
「私は私に自信が無い。どうしても、私として生きることが贅沢なんじゃないかって思えてくる。人は1人では生きられないでしょう?それって、生きてるだけで少しずつでも人に迷惑をかけるってことだと思う。人を傷つけるってことだと思う。」
前世からずっとずっと考えていたんだ。
「だから、人との関わりがない世界に行きたかった。だから、今世でも、前世でも、私の夢はスローライフを送ること。」
「スローライフ?」
ロイが首を傾げる。そう、この世界にはない言葉。
「ゆっくりした暮らしってこと。私は時間に囚われずに、自分一人で人生を形成したかった。」
「そう。」
ロイはゆっくり頷く。
「私は人に傷つけられるのも、人を傷つけるのも、とてもとても怖いんだ。」
私は微笑む。そうしないと、また涙が止まらなくなりそうだ。だって、今、この瞬間も、怖い。私はとても、臆病だから。
前世でも今世でも、誰にも言えなかった。
でも、それでも、私をつくる、大切な考え。
いや、寧ろ私の根幹にあったから、どうしても人に話して否定されるのが怖かったんだ。




