見ていてくれたこと
ロイが、私をちゃんと見ていてくれたことを、知っていた。それでも、尚、知らないふりをした。いつも、私のことを考えてくれたロイを見なかったふりをした。
だって、はじめてだったから。
みんな、何かを私に期待して、私はそれをこなしていた。《私》を見てくれる人なんて、誰もいなかった。
でも、ロイは出会った時から《私》を見てくれたんだ。
王宮の中庭。スターチスが美しく咲いていた。
「エラ・フォーサイスです。」
「ロイ・シアーズです。よろしくね。」
それがきっと、はじめてロイにあった時。
ロイは青い瞳を輝かせて微笑んだ。
私は同年代の子に会うのははじめてじゃなかったけれど、ロイははじめてだというから、少しだけ、最初の友達が私でいいのか、と心配に思っていた。
人の希望通りに動くのは自分に自信が無いから。そのままの自分が人に愛されるとは思っていなかった。
「僕、こんな綺麗な子初めて見たよ?だから、笑って。」
そう言われた時、びっくりした。
だって、私はその時微笑んでいたから。
「それは、ほんとうに、笑ってるんじゃないでしょ?」
この子は私を見てくれている。
嬉しかった。嬉しかった。
はじめてちゃんと笑えた日だった。
「ロイ。ごめんなさい。」
そう言って泣きじゃくった。小さい子供みたいに。
でも、「大丈夫だよ」って、背中をさすってくれるロイの手が優しくて。私は大丈夫だと思えた。
ドンドンドンドンドン
突如聞こえた音にびくりと肩を震わせた。
「きっと、エラのナイトだね。レイラ嬢が着いてきていたから、彼女がウィリアム先生に伝えたんだろう。どうする?」
「いや。まだ、ここにいさせて。ロイが近くにいて。」
こんな顔で、レイラやウィルの前になんて出られるわけない。1人にもなれない。きっと、今の私はとても、弱い。
「わかった。」
そう頷くと、ロイはドアの方へ向かった。




