4話 イケメンはいらないのでスローライフを送りたいです
「ご機嫌よう。ロイ。」
私は王宮の広間で出迎えてくれたロイに微笑みながら淑女の礼をする。
「こんにちはエラ。」
ロイはそれに応えるかのように満面の笑みで出迎える。あぁ。かわいいなぁ。
でも、ロイは私の後ろに立つ少年を見て、眉を顰める。まぁ、7歳児の美少年が眉を顰めたって可愛いに違いないのだが。
「誰ですか?」
もちろん、ウィルの事だ。
「お初にお目にかかります。エラ様の専属の護衛となりました、ウィリアム・ウォードと申します。これからよろしくお願いします。」
そう言いながら、ウィルはお辞儀をする。いちいちの動作が騎士っぽいんだよなぁ。
「ウィルはとっても強くて優しいんですよ。きっとロイも気に入りますわ。」
「ウィル……?」
「ええ。ウィリアムの愛称ですわ。そう呼ばせて貰ってますの。」
近くにいる人達の名前が短いから愛称で呼ぶ必要無かったんだよなぁ。ロイとかエラとか2文字だし。
「へぇー……そうなんですか。愛称で呼ぶ程仲がよろしいんですね」
ロイが笑ってるのを見ていたら、急に寒気がした。なんでだろう?
「ロイ、ここ寒くありません?温室に行きましょうよ。」
ロイはそうですね、と頷いた。
温室に入ると、中に居た少年がこちらに振り向いた。だれだろう?
「よぉ。ロイ。そこの嬢がお前の姫さんか?」
見知らぬ少年がロイに親しげに話しかけてきた。艶やかな黒髪に、どこまでも黒い瞳。かなりの美形だ。
「なんで、お前がいる?」
あれぇ?ロイって、こんな口調だったっけ?心無しか空気がピリピリしている気がする。
「いやぁ。ロイが自慢してくるくせに、全く会わせてくれないから、もう自分から会いに行こうと思って。」
「ちっ。」
今ロイ君舌打ちしました?なにこれ。怖いんだけど。
「あの、ロイ。どちら様でしょうか?」
「あぁ。エラ。気にしなくていいよ。ここには、変な虫がいるから、庭に行こうか?」
ロイは私の言葉を完全にスルーしようとしている。
「はじめまして。エラ嬢。私はオースティン・ロックウェル。ロイの友人だよ。よろしくね。」
そう言ってオースティンは私の手の甲にキスをした。
「なにやってんだ?」
ロイが私の肩を掴み、引き寄せる。
「なにって、挨拶だよ。」
へぇ。この世界ではこんな挨拶もあるのね。
「よろしくお願いします。オースティン様。」
私が微笑むとロイが溜息をつき、オースティンは笑った。ウィルは相も変わらず無表情だ。
「なぁ、エラ嬢。こいつっていつも、どんな感じなんだ?」
なんだろう、既視感。
あ、三者面談のとき、「うちの子学校でどんな風ですか?」って聞く親だ!
私は微笑みながら、
「とっても優しいですわ。いつも私のことを考えて、エスコートして下さいますし、私のことをいつも気遣って下さるんです。」
と応える。
するとオースティンはお腹を抱えて笑いだした。
「お前が優しいとかっ……」
なんて言ってる。
「オースティン様といらっしゃるときは違うんですか?」
私の素朴な疑問に
「いつもはなぁ、「エラ。こいつは放っておいて、お茶にしましょう。」おいっ」
ロイは私の腕を引っ張って、テーブルのところまで歩いていく。それにオースティンが呆れたようについてくる。ロイの違う面とか、可愛いに違いないから聞きたかったのになぁ。
私たちが席に着くと、思い出したようにオースティンは呟いた。
「あ、ロイ。あいつも呼んじゃった。」
と。あいつとは誰だろう。私が頭にはてなマークを浮かべていると、ロイがわかりやすく顔を歪める。ロイには分かるみたいだ。
私がロイを見つめていると、温室のドアが静かに開いた。
「ロイ?オースティン?」
ロイの溜息が聞こえる。私がドアの方に顔を向けると、これまた綺麗な顔があった。色素の薄い水色の髪に、鳶色の瞳。オースティンは、男の子っぽい顔立ちだけど、ドアの近くに立つ男の子は中性的な顔立ちだ。女装しても似合いそう。
そんなことを考えていると、その男の子が微笑んだ。
「ご機嫌よう。エラ嬢ですか?私はヒューゴ・トレス。ロイ殿下の腹心です。以後、お見知り置きを。」
そう言うと、ヒューゴはさも、当然と言った様子で席に着く。
なんか増えたなぁ。
そう思いつつ辺りを見回すと、私はひとつの事実に気がつく。
この空間には美形しかいない!
前世では滅多に出会うことが出来なかったような国宝級イケメンに囲まれていることに気が付き、エラはいたたまれなさを感じた。