痛みを知る令嬢 レイラ・ボールドウィン
「なんの、用ですか?」
ロイは眉をひそめながら尋ねる。
「フォーサイス家の令嬢が、監禁されたと聞きまして。」
ウィリアム先生はとてもにこやかに答える。
内心はきっと違うのだろうが。
「私の婚約者ですよ。護衛ごときが口を挟まないでください。」
ロイは完璧な王子の仮面を外してしまったらしい。もう、猫も被っていない。不機嫌さが出まくりだ。
その時、奥から声が聞こえた。彼らが愛してやまない美しい声音が。
「ウィル、レイラ。帰って。」
「エラ様。どうされましたか。」
「お願いだから。私に少しだけ時間をください。」
いつもは強気な声が今は震えているのに気がついたウィリアム先生は失礼します、と去っていった。
「レイラ嬢も。」
ロイに促され、何も出来ず、
「また今度話しましょう」
そう言って、私はその場を去った。
エラが、あんな声を出すとは思わなかった。
乙女ゲームのエラだったら有り得たか?
いや。それでも、有り得ない。
私達は、初めてエラを知ったんじゃないか?
ふと、そんな思いが浮かんだ。
乙女ゲームのエラはか弱くて優しくて、庇護される対象だった。
この世界でのエラは強気で優しくて、ヒーローみたいだった。
先程聞こえた声音は、そのどちらでもなかった。
ただ、寂しいと、咽び泣く子供のような声音だった。
私は私欲のために、《エラ》を封じ込め、《乙女ゲームのエラ・フォーサイス》を演じさせた。
それは彼女にとって、どんなものだったのだろう。
本当は今日のように、泣きたかったのではないか?
私が無理に彼女を閉じ込めた?
色々なことをぐるぐると考えていると、胸がちりちりと痛んだ。




