王妃
昨日は、泣き腫らしてしまったから、どうしても夕食には出れそうになくて、体調が悪いということにしてしまった。きっと、お兄様やお父様、お母様に心配されてしまったけれど、泣き腫らした顔で家族の前に出たら、色々と追求されるに決まっていた。
一晩考えても、私がこれからどうすればいいのか分からなかった。今迄と同じように、《誰か》を演じていればいいの?それとも《私》になれるように頑張ればいいの?
どちらが正解かもわからなくて。私はどうすればいいのだろう。答えをくれる人は誰もいないのだから、私が答えを出さなければならないと、知ってはいるのだけれど。
今日は休日で、王妃様とイラーリ様とのお茶会に誘われている。
そんな気分でもなかったけれど、これを仮病か何かを理由にして断ってしまえば、もう学園にすら通うことが出来なくなりそうだった。
「お義姉様!お久しぶりですわね!」
イラーリ様が、微笑む。
ウィルに紅茶をかけたお茶会の後、イラーリ様は改心したように勉強に励んだ。
そして、何を思ったのか、イラーリ様はある日突然ウィルと私に謝罪をし、お義姉様と呼びたい、と言ってきた。
彼女に何があったのかは定かでない。
「御機嫌よう。王妃様。イラーリ様。」
私が淑女の礼をすると、王妃様が微笑まれた。
「そんなに固くならなくていいのよ、エラ。それと、お義母さまと呼んで。」
「有難うございます。ですが、本当にそうなる日まで、取っておきたいのです。」
このやり取りはロイと婚約してからずっと行われている。もはや、様式美だ。
「あらそう。残念だわ。」
王妃様が紅茶を口に含まれる。その仕草さえも気品を滲ませるところは流石王族と言ったところか。
「そう言えば、ロイが最近、もしかしたら貴女が僕を意識してるんじゃないかって思う時があるってにやけてたわよ。」
「あの時のお兄様、本当に気持ち悪くって。」
イラーリ様が苦々しげに言う。最近イラーリ様はロイへの当たりが厳しい。ブラコンだったのに。反抗期?
「お義姉様、何かお兄様にやられていない?何かあったら、私に言ってください!お説教致しますわ。」
「そんなことないわ。ロイはいつも紳士よ。」
私が言うと、イラーリ様は本当ですか?と言いながら紅茶を啜る。
「それで、本当なの?エラ。」
王妃様は美しく微笑んだ。
「私は、いつでもロイを慕っています。」
「あら、嘘よ。ふふ。ロイを良いふうに騙したのね。悪い女だわ、貴女。」
王妃様は愉快そうに笑う。
「そんなことありませんわ。」
私も笑う。
「でも、私、貴女は本当に王妃に向いていると思うの。むしろ、あなた以上にこの国の王妃に相応しい人はいないと思うわ。」
王妃様は紅茶を一口含む。
「貴女って、これをやれって言われたら、わかりました、って、なんでもこなしてしまうでしょう?そういう人は少なからずいるわ。でもね、言われたことを全てこなしてしまう人はいても、言われていないことですら、周りの望むことを察して演じてしまう人は早々いないのよ?」
王妃様は微笑む。私の全てを見透かすような笑みだ。きっと、この人は私のことを全て知っている、そう思わせるような笑み。
「貴女は、周りが望む通りに演じてしまう。王族って、そういう人がなるべきだわ。国民の望む通りになれる人が。私は本当は、ロイより貴女を王に推したいくらいなの。」
嗚呼、この人は、本当に。
国のために生きる人が王族だと信じて疑わない。
国のために死ぬ人が王族だと信じて疑わない。
国のために人形になれる人間が王に相応しいと。
私は、この人のようになって行くのだろうか?




