空っぽ
「お帰りなさいませ。」
玄関で、メイド達が出迎えてくれる。
「ただ今帰りました。」
そう言いながら微笑む。
これすらも、あやつり人形なのかしら。
「今日は疲れてしまったから、少し眠るわ。夕食の時間になったら起こして頂戴。」
そう言うと、侍女のミアが、わかりました。と答える。
自室まで向かっていると、後ろからウィルが着いてくる。
彼は私の護衛なのだから当たり前ではある。でも、それすら今は鬱陶しい。早く1人になりたい。
「エラお嬢様。どうなさいましたか。」
ウィルが尋ねてくる。
「なんでもないわ。」
そう答えるしかないでしょう?
それ以外になんと言えて?
『私は貴方達の望むように動いていて、今迄の私は貴方達に操られていただけなの。』
『それに気付かされて、とても辛いのよ。』
とでも?
有り得ない。
「そうですか。」
学園で教師をしてるのに、なんでこんなに早く帰れるのよ。もう、八つ当たりしちゃいそうだわ。
自室でネグリジェに着替えると、ベッドに倒れ込む。
自然に涙が出てくる。
前世の記憶が戻ってからは、ロイ達が笑って欲しいと言ったから、自然に笑うようにしていた。
レイラと話してからは、乙女ゲームの中で『みんなが好きな私』になりきった。
今更、《誰か》以外になるなんて、どうすればいい?
記憶の戻る前の私は、完璧な公爵令嬢を演じていたんだ。
もう、《誰か》にならなかった時が思い出せない。もしかしたら、私は《誰か》になったことはあっても《私》になったことは無いのではないか?
更に涙が溢れる。
そうか、私はいつでも、空っぽなんだ。




