拝まれる令嬢 レイラ・ボールドウィン
エラ様は前世を語り始めた。
「そんなに面白い話じゃないんですよ?
私は出版社に勤めていて、毎日は大体、家と会社の往復でした。スローライフはその頃からの夢だったんです。むしろその為だけに生きていました。色々と人間関係が面倒な人生だったので、人里離れたところで1人ゆっくり暮らしていたかったんです。それで、やっとスローライフ資金がたまったと思ったら……死んだんです!」
エラ様が拳で机を叩く。怖っ。よっぽど悔しかったんだな。
「1週間の楽しみは近くの和菓子屋さんで買う和菓子でした。私、すごく甘党なので、前世の記憶を思い出した時、1番悲しかったのはこの世界のお菓子のなさ!
だから、もう、食べていいですか?」
エラ様がどら焼きを指さす。確かに目の前に置いてそのまんまだったな。
「どうぞ。」
私は微笑みながら言った。
「有難うございます!」
エラ様は、どら焼きを食べ始めた。1口含むと、とても幸せそうな顔をなさる。可愛い。
すると、何かに気がついたように、ハッとこちらを向いた。
「私が毎週行っていた和菓子屋さんのと同じ味です!!もしかして、幸餡堂で働いていましたか?!?」
私は前世、幸餡堂で、和菓子を作っていた。食べたら幸せになれる餡子を作ろう、というコンセプトで、お店を開いたのだ。
「はい。週に一回通ってくださってた?
ああ!黒髪ロングのカッコイイ美人さん!
バイトの子からも、すごく噂されてましたよ!
美人さんがうちのお菓子を毎回悩みに悩んで買ってくださっていて、とても目の保養だし可愛かったって!」
エラ様は恥ずかしそうに顔を赤らめる。
「ふふ。前世では常連さんだったんですね!」
「でも、今世でもこの味に出会えるとは……!
有難うございます!一生ついて行きます!」
エラ様が拝み始めた。やばい。
「エラって呼んでもいいですか?」
「もちろんです!私も、レイラって呼びます!!」
話の展開を変えるため必死だった私は間違いに気が付かなかった。




