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ヒューゴ・トレス

ある日、オースティンに悪戯をしよう、と誘われた。悪戯のターゲットはロイ。僕ははじめ、気が乗らなかった。だが、悪戯の内容を聞いて、その悪戯に加わろうと思った。


その、悪戯とは、ロイの婚約者エラ・フォーサイス嬢とロイのお茶会の邪魔。エラ・フォーサイス嬢は1度父に会ってみないかと言われたこともあった。(婚約者にしないか、と同義である。もちろん断った。)ロイは、その少女にかなり入れ込んでいたので、僕達に会わせず、自慢だけしてくる。そろそろ好奇心が抑えられそうになかった。


彼女は機知に富んだ、美しい少女だった。だが、その様はまるで人形。あまりに隙が無さすぎる。ロイはお人形である彼女をうっとりと見つめているし、オースティンは彼女の隙の無さに、もう飽きてしまっている。


僕は彼女が怖かった。


7歳の時点でこんなにも完璧でいたら、いつか壊れる。僕の兄のように。僕の兄は天才と言われていた。弟の僕にも優しくて、彼女と同等に好きがない人だった。しかし1年前、兄は壊れた。

「もう、疲れた。」と、一言のメモを残し、命を絶ったのだ。


僕は彼女が兄と同じように壊れてしまうのではないか、誰にも辛さを言えず、この世を去ってしまうのではないか。そう考えてしまった。


でも、僕はまだ、彼女をどうやったら助けられるのかを知らない。




「お兄様はどこなの?」

イラーリ王女の声が聞こえる。今まで数回目撃したので、彼女がこれからとる行動は分かっている。

ロイが見つかるまで王宮を歩き回り、見つけたら、来客が居ようが居まいが自分の部屋に連行する。いつものパターンだ。

扉が開け放たれ、イラーリ王女が姿を現す。イラーリ王女は目を輝かせ、ロイは嫌そうな顔をし、オースティンはニヤリと口角を上げている。フォーサイス嬢は、驚いた顔で呆然としている。

そこから、イラーリ王女は目ざとくフォーサイス嬢を見つけ、突如「嫌いだ」と言い放つ。そして、反応がないことに対してイラついたのか、紅茶をかけた。しかし、護衛に庇われ、フォーサイス嬢は無傷。珍しくフォーサイス嬢が狼狽えている。


護衛が席を外すと、「私は悪くない」と喚く王女にフォーサイス嬢は一喝した。余程腹に据えかねていたのだろう。嫌味を彼女の欠点に結びつけ、言いたいことを全て言うと、温室を出ていった。


僕は安心した。彼女がちゃんと自分の感情で怒ったから。


でも、怒っていたのは自分のためではなかった。それが、まだ、怖い。

彼女は自分のことでは心が動かないのか。


とても、怖い。

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