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1話 私の夢はスローライフを送ることです

初めてで拙い文章ですが暖かく見守って頂けたら幸いです

カップの落ちた音が響いた。


「エラ、大丈夫なの?」

お母様の心配そうな声が聞こえる。


「お嬢様!」

侍女のミアは、泣きそうな顔でこちらを見る。


「フォーサイス嬢。怪我はないか?」

シアーズおじ様は、私を見ておろおろとしている。


「エラ?」

ロイは、不安そうな顔で首を傾げる。


私は我に返り、微笑んだ。

「大丈夫ですわ。手が滑ってしまったの。」


すると、皆一様にほっとした表情をする。


「お嬢様。火傷はなさっていないようですがお召し物が汚れてしまっています。替えのものを今準備致しますね。」

ミアは私にそう告げると、足早にクローゼットに向かっていった。


私は、

「少し失礼致しますわ。」

と淑女の礼をして、お茶会の場を去っていく。




私がカップを落としてしまったのには理由があった。


私は前世の記憶を思い出したのだ。そして、その時の夢も。


私の夢はスローライフを送ることだった。

自分の目覚めた時間に起きて、お腹がすいたらご飯を食べ、本を読み、少し体を動かして、眠たくなったら眠りにつく。

そんな生活を送りたかった。


そのため、前世の私は、学生の頃から学業に精を出し、部活も滞りなく行い、

友人関係も良好にして過ごした。そして、一流企業に就職し、お金を稼ぎ、そろそろ死ぬまでのスローライフ貯金が貯まる、と思った矢先、交通事故にあってしまったのだ。


私は、記憶を整理しながら部屋に戻る。そして、扉の前で、ある決意をした。

「今世では絶対に、スローライフを送ってやる!」

という決意を。





部屋にノックの音が響く。

私のスローライフへと続く輝かしい人生はもう始まっている。私は内心ワクワクしながら、どうぞ、と告げる。


すると、ミアが扉を開け、中に入ってきた。

「お嬢様。こちらのドレスはいかがでしょう?」


ミアがもってきたのは水色の美しいドレスだった。

「素敵ね。有難う。」

私がふわりと微笑むと、ミアは嬉しそうに笑った。







「大変失礼致しましたわ。」

私がそう言いながらお茶会へ戻ると、シアーズおじ様は

「大丈夫。素敵なドレスだね」

と言って微笑んでくださった。


「有難うございます。ミアが選んでくれましたの。」

私がミアを見て微笑すると

「お嬢様のプラチナブロンドの髪によくお似合いでしたので。」

とミアも微笑む。


そんな、小さな娘と侍女の微笑ましい様子を見て、お母様は

「本当にエラとミアは仲がいいのね。」

と言った。


私は胸を張ってこう答える。

「私、ミアのことが大好きですもの。」

と。最近の私のマイブームは、『好きなものを好きだと言う』ことである。そうすると、周りの大人が喜んでくれるのだ。


すると、ロイが、いつもなら輝きに満ちた瞳を、不安そうに伏せた。しかし、意を決したかのように、こちらを見るとこう尋ねた。

「エラ、僕のことは好き?」

と。不安そうに瞳を潤ませて言うロイはとても可愛くて、咄嗟に

「ロイのことも大好きですわ」

と言ってしまった。しかし、すぐそこで自分の失態に気づく。


やってしまった。


「あらあら、エラったら。ロイ様とも仲良しなのね。」

そう微笑むお母様。

「ロイはフォーサイス嬢のことが大好きだもんなぁ。」

そう言って顔をほころばせるシアーズおじ様。


もう、これは駄目なやつだ。


そう内心項垂れる私に追い討ちをかけるかのように、シアーズおじ様とお母様の声が重なった。


「じゃあ、もう、婚約するしかないよね。」

「じゃあ、もう、婚約するしかないわね。」


二人とも、声が重なったことに驚いたのか顔を見合わせ、そして微笑んだ。





「はぁぁぁぁぁあ。」

私はシアーズおじ様とロイを見送ってから、自室へ戻ると盛大な溜息をつく。

婚約させられてしまった。

記憶が戻ってからスローライフの夢に浮かれていた。もっと気を付けるべきだった。今日は私の夢において、とても危険な日だったのだから。



私はエラ・フォーサイス。この国一の権力を誇る公爵家の令嬢。今は7歳だが、プラチナブロンドの髪に深いブルーの瞳。前世に憧れた外人の姿形をしているが、その中でも一際美しい美貌を既に持っている。これはきっと美人になる。 そう確信せざるを得ない。


そして、婚約者のロイ・シアーズ。彼はこの国の王子。王家の象徴である、アクアブルーの髪と瞳を持つ美少年だ。とてつもなく可愛い。


私とロイは何度かうちや、王宮でお茶をしたり遊んだりしていた。

兄弟のいないロイの遊び相手に丁度よく、教養もあり、位も相応しい同年代の子息や、令嬢は限られてしまう。私はその条件全てを見事にパスし、ロイの友人になれた。そこまでは良かったのだ。そこから、私は、ロイがよく懐く弟のように見え、可愛がってしまった。それを見た私とロイの両親は今日、二人の意思を確認し、もし、二人とも異存がなければ婚約させようと目論んだ。


シアーズおじ様がうちに来ているのだからもっと警戒するべきだったのだ。


シアーズおじ様は言うまでもなくロイの父親。つまりこの国の王。そんな人がうちに来るなんて、よっぽどの事がなければ有り得ない。


今の私の夢はスローライフ。目立たず、密かに貯蓄をし、いつの間にか社交界から身を引く。そして、静かなおうちで、穏やかなスローライフを送る。そんな、理想を描いていた。なのに、王妃になるなんて真逆を行くようなものでは無いか。


何としてでも、ロイとの婚約を破棄しなければいけない。

私は心に誓った。

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