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最適解

放課後に先輩と会ってから数日がたった。


いつもなら壮介が結果を聞いてくるのだが、いまのところその様子もない。


消化不良のような違和感に耐え切れず、昼を食べた後の、五限目が始まる直前にそれとなく尋ねてみた。


「いや、なんとなく――」


彼の返事は曖昧模糊だった。


「なんとなく、いい結果じゃなかったっぽいから聞くのも悪いかと思って」


「まあ、そうだな。いい結果ではなかった」


最悪ではないが、劣悪ではあった。


「だから聞かないよ。またなんか進展したら話してもらうから」


「そうか」


なんか申し訳ないな、と言った俺の言葉が壮介に届くことはなかった。


もちろん、彼になにかあったわけではない。


「私には教えてくれないの?」


永倉さんが割り込んできた。


「ゆーくんの失敗談を教えて欲しいんだけど」


昼食を終えた彼女は隣の席に座り、体をこちらに向けて頬杖をついた。


「他人の不幸は蜜の味って言うでしょ?」


「本人の前では普通言わない」


「まあまあ、そう言わず食後のデザートになってよー」


半ば押し切られるような形になってしまったが、実際、永倉さんが話をしてくれなければ本当に見当違いの答えを導いていたかもしれない。


それが悪かったのかと聞かれれば、それでもよかったのではないのかと思うところもないではないが。


「聞かれれば話すけどさ」


話すのか、と壮介にツッコミを入れられた。入学以来数回しかない貴重な体験だ。


「いや、いろいろと助けてもらったのに結果を話さないのも申し訳ないと思っていたからな」


「それなら遠慮なく聞けばよかったよ」


「そーくんは思慮深いなー。そんな遠慮しなくていいのに」


「それは俺のセリフだ」


ちなみに、永倉さんは壮介のことをそーくんと呼んでいる。名前の頭を伸ばすのが彼女のネーミングセンスらしい。


「セリフ取っちゃってごめんね。ここからはゆーくんの独壇場、独り舞台だよ」


独り舞台か。


俺がやったことといえば、いいとこ独り相撲だ。


「そんな大仰なことは何もしてないんだけどな」


それから、先輩に話した内容を繰り返した。できるだけ感情が入り込まないように、淡々と事実だけを述べた。


いや、俺が話した内容は事実ではない。


俺は先輩に嘘をついた。


事実を知ったうえで、それを隠した。


それも話した。


「なるほどね」


「へえー、ふーん」


頷く壮介とニヤつく永倉さん。


二人の反応はまちまちのバラバラだ。


「別に失敗ではないと思うよ?」


先に口を開いたのは壮介だった。


「本当のことを知れば東雲先輩が困ると思ったからそうしたんでしょ?」


まあ、そうだ。


「それでもゆーくんには罪悪感が残ったと」


「…………」


まあ、そうなのだが。


誤った事実ではなく、作られた虚偽を伝えた。


過失ではなく故意だった。


善意をもとに、悪意をもって先輩を騙した。


「ウソついたくらいでそんな凹むなんて、意外とゆーくんってメンタル豆腐だねー」


この状況でその言葉はなかなか突き刺さる。


「んで、本当の犯人は誰なの? っていうかどこからがウソだったの?」


「犯人の名前は知らないし、ほとんど嘘だった」


「んぬ!?」


永倉さんの顎が滑り落ちた。


「何も分かってないじゃん! サトリは? 妖怪サトリはどこ行ったの!?」


「端からそんなものはいない」


「なんと! これが、枯れ尾花というやつ、か」


妙に芝居がかった口調で吐き捨て、彼女は頬杖を直した。


「美咲じゃないけど、悠真、本当に分からなかったの?」


今度は壮介だ。ちなみに、彼は永倉さんを美咲と呼んでいる。


「いや、わかったからこそ嘘をついたんだけどな」


「あ、そっか」


「それに、犯人の名前は知らないが誰かは分かってる」


二人は揃って訝しげな表情になった。


詰問される前に言う。


「真実のほうを話すから、とりあえず聞いてくれ」


視線は永倉さんに向けていたが、彼女は待ってましたと言わんばかりに笑みを浮かべていた。


俺の意思が伝わっていない。


それは、まあ、しょうがないか。


「まず最初に、村上先輩の作品を壊した犯人は美術室から立ち去った人影だ」


「出オチだ!」


「……その人物は美術を選択した一年生でもなければ、美術部でもない――」


永倉さんの笑顔は張り付いたままだ。


「美術部を止めた二年生の先輩だ」

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