問題①
「永倉さんって美術部だよな?」
「そだよ。自称美術部の次期エース!」
文化部にもエースはあるのか。吹奏楽部でソロパートをやる、みたいな?
いや、彼女が言うのだから嘘だろう。
「選択科目も?」
「私は書道だよ」
趣味と特技は別、みたいなことか。
いや、もしかして――
「水墨画、なんてオチはないよな?」
「書の道なめんなよ」
へらへらした表情のまま怒られた。本当に怒ったわけではいないだろうが。
達筆過ぎると上手いか下手か分からないように、書道家の極めた文字は、それはそれである意味水墨画みたいなものだと思うがそんなものは偏見でしかないので口に出したりはしない。
むしろ、邪推で物を言ったことを普通に謝った。
「やだなー、ただの冗談じゃん。謝らないでよ」
「……」
未だに彼女のキャラは掴めない。掴み所がない、というより掴み所ばかりでどれが彼女かわからないという感覚。
だからこそ、言動には気をつけようと思っている。うっかり地雷を踏んで残り半年を気まずく過ごしたくない。
「私に聞きたいことはそれだけ?」
「いや、今の質問はただの導入」
「プロローグみたいな?」
「まあ、そんな感じ」
こうして壮大な冒険の幕が開けた、と茶化す永倉さんをスルーする。
一挙手一投足にツッコミどころのある彼女を相手にするのに多少のスルースキル行使は致し方がない。
「最近美術部で何かあった?」
その質問の意図を探るように、永倉さんは真っ直ぐこちらに視線を送ってきた。
思い出しているというより、考えているような少しの時間をあけて言う。
「何かって? 大会とか? 打ち上げとか?」
ああ、これは知ってて誤魔化している。
「そういうイベント的なやつじゃなくてアクシデント的な」
「そういえば、ひとり部活をやめた」
それはアクシデントか?
「いや、ごめん、厳密には美術室で何かあったか聞きたかった」
部活というより活動場所に重きを置いて欲しかった。
「美術室? あー、ゆーくんは美術選択だったっけ?」
何がおかしいのか、ケタケタ笑いだした。
「授業の時、猪塚先生になんか言われたんでしょ?」
「まあ、そうなんだけどさ」
それは事実だが、真意ではない。理由は別にあるが、教えてほしいことに変わりはなかった。
「あったよ、アクシデント。あー、いや、インシデントかな?」
「作品が壊されたとか?」
「さすが、ゆーくん! 聡いなあ」
そう言って、先週美術室で起きた事件について話し始めた。
予め断っておくが、先生になにか言われたからといってその理由を追求するような趣味はない。
むしろ、言われたらそのとおり、特に反発することなく従うだろう。
そんな俺がこうして探りを入れているのは他ならぬあの人のためだ。
前言撤回。
誰かのため、というと少し恩着せがましく大仰に聞こえてしまうし、これは、単純に自分がしたいことをしているだけに過ぎない。
自分のしたいことが偶然にも他人の役に立っている。
それくらいの解釈が最も適切だろう。
それくらいが最適だ。
あくまで、自分のためなのだから変に気負う必要はない。
無駄な使命感やプレッシャーから解放されたクリアな思考で物事に当たることができる。




