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泡沫政党より当選す!

 人間に生まれてよかった、と春風祐樹(はるかぜゆうき)が実感できる瞬間とは、即ち、希望を見つけることができたとき、だ。

 2020年にもなって、多くの国民は希望を見失っているけれど、オリンピックの時にはあれだけボロボロな大会でありながらみんな感動を味わった。ポンコツ競技場で熱中症で死者が出るような体制であっても、よく頑張った選手の姿に「人間という存在への希望」を味わった国民も多かったのではないだろうか?

 そして、今、祐樹は人生最大の希望を手に入れたのである。








「半世紀ぶりの平日投票となった今回の総選挙、開票速報では国民党の圧勝ということになっています!」

 2020年12月21日月曜日、大安の日に投開票となった衆議院議員選挙、結果は与党・国民党が単独で三分の二を超える議席を獲得するという大圧勝、となった。

「単独で四分の三を超える可能性もありますね。」

 選挙速報の番組で、テレビでアナウンサーが質問する。

「もしも、国民党が単独で四分の三の議席を獲得するとどうなるのでしょうか?」

「四分の三、すなわち75%ということになりますと、中国共産党の全人代での議席占有率が72%ですからそれを上回る議席占有率ということになりますね。しかし、日本は中国とは異なって民主主義国家ですから、民主国家の議会でそれだけの大圧勝をするというのは、それだけ今の稲峰(いなみね)政権への期待が高い、ということではないでしょうか?」

「はい、今回は日本初の女性総理である稲峰春香(はるか)総理が就任してから最初の総選挙ということで、その結果が注目されておりました。今回の選挙結果は、稲峰政権への信任と受け止めてよろしいのでしょうか?」

「ええ、国民の圧倒的多数が稲峰政権を信任した結果だと思いますねぇ。」

 このように「与党圧勝」が大きく報じられる中、一つだけ、毛並みの違う選挙区があった。

「ええと、今回はですね、諸派新人の候補に小選挙区で異例の当確が出たということで、白鳳第二選挙区の方につなげますね。」


「バンザ―――――――――――――――イ!バンザ―――――――――――――――イ!」

「こちら、広島優花(ゆか)候補の陣営です!まさかの当確にお祭り状態です!」

 複数のテレビ局が、白鳳県第二選挙区で泡沫政党とされていた政治団体「青年の志士」代表の広島の選挙事務所を生中継していた。


「社長、良かったですね。広島さんが当選して。」

「ああ、まさか、当選できるとはな。」

 今、春風祐樹が話しているのは秘書の増田だ。春風自身は政治家ではなく経営者だが、政治団体「青年の志士」の副代表をしていた。それでも、まさか、選挙に出て当選する人間が出るとは、思っていなかったが。

 青年の志士がここまで伸びたのは、地元の有名企業である春風ホールディングスの社長である春風祐樹が副代表として全面的に協力したからだ。

 今回の選挙は、表向きは国民党の大圧勝となっているが、それは真冬の平日投票にしたからである。国民党の支持基盤は高齢化が進んでいる。平日投票にすると投票に来た人たちは、既に定年退職を終えた年金生活者の割合が多くなる。国民党に有利な日程なわけだ。

 選挙の投票率は著しく低下している。今回の選挙では遂に投票率が半数を切った。そのような状況での「国民党、優勢」であるから、ちょっとしたきっかけでそれを崩すことができる。――それを狙ったのが、青年の志士であった。

 青年の志士は、今回の選挙のためになりふりかまわず、の手段をとった。容姿端麗を理由に広島優花を代表にして出馬させた。金があることを理由に春風祐樹を副代表にした。どうしてそこまでして当選者を出したいのか、というと、腐敗しきった既成政党ではできない改革を実現させるためである。春風祐樹もその理念に共感したからこそ、カネも出したしそれ以外の面でもあらゆる支援を行った。

 その結果が、他の多くの選挙区では国民党が圧勝している中での、白鳳県第二選挙区における「青年の志士」公認・広島優花候補の当選という結果を生んだ。決め手となったのが広島の容姿であったとか、春風財閥の資金力であったとか、そんなことは関係ない。既成政党とは全く毛並みの異なる候補が当選した、という事実が重要なのだ。

 それは、既成政党の政治に絶望する人たちにとって、一筋の希望の光となるはずだ。


「本当にありがとうございました。」

 深夜、開票結果も確定したころに広島から祐樹に電話が来た。

「ああ、そのことは別にいいよ。君とは高校時代からの同級生だし、君の旦那さんにはビジネスでもお世話になっているし。」

「これからもよろしくお願いします。」

「もちろん、お互い、青年の志士の政策を実現するために頑張っていこう!」

「ありがとうございます。」

「もう、広島さんじゃなくて、広島先生になるんだよね。」

「そうですね。どうです?春風君も、次の参院選に出馬して『春風先生』になられては?」

「いやいや、、議員先生になっちゃうとビジネスができなくなるから嫌だなぁ。」

「春風君は相変わらずですね。それで本当に改革ができるのか、心配だなぁ。」

「何を言ってるんだ、改革をするのは君だよ?広島先生。」

「そうですね。ではでは。」


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