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完遂

ライドスレーブ隊の攻撃をジーンは見守っていた。伏せていたクラブに全く気付かなかった事が悔やまれたが、混戦状態の地表に援護射撃もできない。するわけにもいかない。ライドスレーブは戦えている。クラブの数が多過ぎる。

作戦のフェーズを進めるべきだ。

次の攻撃部隊に目標を指示した。

「高度変更、月面から500、攻撃目標は敵リレー基地電磁ネットアンテナ。S2Aマニューヴァでランチャーをぶちかませ。ミサイルを残しているなら全部撃て。ありったけをぶつけろ」

S2Aマニューヴァは僅かな降下軌道で地上の目標をリニアランチャーで攻撃。ホーミングビームの射程に入ったら緩やかに上昇しながら射撃を続けて飛び抜ける。

ソアレス隊が攻撃を開始した。、

リニアランチャーの光弾がリレー基地に放たれたがアンテナまで届かない。地上のクラブが舞い上がり自らを盾として光弾を受けたのだ。その行動がクラブの自発的なのかリレー基地側で操ったのか、それは分からない。降り注ぐ光弾。舞い上がるクラブ。

「届かんか」

ソアレスは攻撃がもれなく防がれて歯ぎしりした。上空を守るクラブの攻撃から無防備になっている僚機が次々と攻撃に晒され落ちていく。空中戦をしたい。このまま撃ち続けたい。惑う気持ちを抑えて隊を指揮する。

「アルファ小隊、機首上げ」

真っ直ぐリレー基地に向いていたルナシャークの機首が星空を向いた。

ホーミングビームの攻撃に切り替え。

ロザリアは自分に迫っていたクラブが矛先を変えたその刹那に状況を把握した。

上は自分達を見てくれている。

「全体集結!」

伏兵の攻撃に乱れた体制を整えなくてはならない。ロザリアは足を止めた。すぐにアビゲイルが側に来た。

もう二人来た。それだけだ。指揮管理モニターでも残りの兵のビーコンが確認できなかった。

「次にシャークが来たら行くぞ」

どれ程兵が減ろうとも進むしかないのだ。

ジーンも編隊の再編を続けていた。既に機体の半数以上を失いS2Aマニューヴァはさらに損耗を増やすだろう。

ソアレス隊の折り返しを早めてロビン隊に合流させるべく指示をする。

視界の隅にホーミングビームに貫かれるクラブが映るが意識には上らない。戦術コンピュータの提案から最善の手を選び続けた。

「ローエル!」

ジャスミンの声にはさすがに目を上げた。錐揉みしながら降下するローエル機から射出されるパイロットが見えた。クラブは墜落したパイロットといえど何の遠慮も無く殺しに来る。射出シートは折り畳まれたライドスレーブと一体化されている。降着する事ができたなら、直ちにライドスレーブを装着して地上部隊の支援に回る事になっている。

ローエルの無事を願うしか無かった。

「高度を上げる」

ジーンは指揮を続けるしかなかった。

ジリジリ前進していたロザリアはシャークの突入を待っていた。

「シャーク隊が来ます」

周囲のクラブの半数が上昇を始めた。

「行くぞ」

ロザリアは先陣を切った。スーツのバーニアを吹かして上昇するクラブに混じって飛び、高さを稼いだ。

アンテナに向けて発砲。ロザリアの火線に続いて何本ものビームが撃ち込まれていった。

アンテナに近付いたビームが拡散してしまう。強力な電磁場を放射しているのだ。予想通りだ。撃ちまくる。

グレネードも撃ち込まれたが届かない。アンテナの手前で流される様に軌道を変えさせられてしまう。それも電磁場の影響だ。アンテナは自らが発する電磁場でも守られているのだ。

焦れるが撃ち続けるロザリアにアビゲイルが呼び掛けた。

「大佐。あそこは行けそうです」

外からアンテナを撃っても攻撃は届かないだろうという事は予測されていた。リレー基地内に入る事が出来れば、その方が破壊の難度は下がる。侵入が可能ならばの話だ。

アビゲイルはランチャーを撃ちながら侵入路を探していた。

あと何度アビゲイルの出来に感心する事になるのか。ロザリアはこんな事態というのに苦笑いしてしまった。

二人はアビゲイルが見つけたブラインド状のパネルに取り付いた。

確かに奥に入って行けそうに見えた。

「キャグニー!」

ロザリアの呼び掛けにライドスレーブの一体がアンテナから目を下げた。

「バズーカはあるか」

「大佐の為にとってあります」

「では、頼む。ここを吹き飛ばせ!」

ロザリアとアビゲイルが離れるやいやなキャグニーのバズーカが火を吹いた。

命中。パネルは吹き飛びこそしなかったが歪んで凹みができていた。

「もう二発か」

キャグニーは呟いてトリガーを二回引いた。

「入ります」

そう言い残してアビゲイルは飛び込んだ。ロザリアも続く。キャグニーが続いた。

すぐに空間が開けた。

周囲を見回すアビゲイルの隣でロザリアはその空間を見た。少なくとも目の前は全くの空っぽだ。この空間にギッシリとクラブが詰め込まれていたのだろうか。

リレー基地と呼んでいるがこれは宇宙船としてマザーシップと共に飛来した物だ。これが生活空間なのだろうか。

今通ってきた道筋もあらためて気に掛かった。どのような役目があるのか分からないが人類の作り出したモノと大差ないようにも思える。一方で目の前の大空間は理解し難い。

しかしそれに構っている場合ではなかった。

見上げた先に電磁ネットアンテナに続くであろうチューブの束が見えた。アンテナの基部と思われる構造も見えた。

「キャグニー、やれ」

ロザリアは指し示した。どこでも構わないが一点集中で破壊する。キャグニーは撃った。

撃ち尽くして目標を見た。

まだ動作し続けているように見えた。

キャグニーにバズーカを捨ててランチャーを、連射した。

アビゲイルもロザリアも撃つ。

突然辺りが静まった。

もちろん音が聞こえるわけではない。リレー基地全体の振動が止まったのだ。はっきりと意識していなかったが基地は振動していた。止まって気付いたのだ。

「止まりました」

アビゲイルが告げる。上空の偵察機からの通信だ。

「出よう」

ガルベットとはナニモノなのか。

ロザリアは膨れ上がる疑問を抑えてその場を離れたのだ。


アンテナを破壊すれば後は一方的な殲滅戦になるだろうとの予測は正しかった。空中のクラブは漂う風船より容易く落とせた。距離保って動き回るライドスレーブを追い切れない地上のクラブはランチャーの餌食になった。シャークの数機が地上部隊の支援に回された。低空を微速で移動しながら地上攻撃する。クラブのビームの反撃はあったが動きに鋭さは欠けらも無い。僅かな機動で躱してホーミングビームを放つ。

やがて動くクラブはいなくなった。

「迎えを呼ぼう」

ロザリアは告げた。

勝利の高揚感は掃討戦で失っていた。クラブの数は多く、味方は減っていた。単純労働のような掃討に疲れ切った。

ライドスレーブを脱ぎたくなっていた。

月の裏側に待機する艦隊を呼び寄せるのだ。

偵察機を移動させ中継させなくては通信はできない。

指示を出したロザリアの意識が戦場を離れた。

そんな油断を感じたのだろうか。

彼女の背後でクラブのハサミが振り上げられた。アビゲイルもランチャーを腰に戻している。

ロザリアにハサミが迫り、アビゲイルはまだランチャーを構えられていない。

ハサミはロザリアを殺しに迫ったのか、それとも例の捕獲行動だったのか。

ホーミングビームがハサミを引き裂くように貫いた。連射された光弾がハサミをアームを胴体を貫いて沈黙させた。

ロザリアは見上げてルナシャークを見た。ハートと涙の図柄のパーソナルマークがある。

「アルマン大佐、ご無事ですか」

ジーンが通話してきた。

「ありがとう。危ないところだった」

「大佐はもう少し離れた所へ移動して下さい。コイツら生きているのか死んでいるのか、どうにもはっきりしない」

「了解だ。そうしよう。ジーン中尉」

移動しながらロザリアは呼び掛けた。

「ジャスミン・ティア少尉、助かった。ありがとう」

突然名前を呼ばれてジャスミンは戸惑った。作戦司令官とはいえ特に面識があるわけではない。親しげな声に戸惑った。

「は、あ、いえ、礼など無用であります」

「そんな事は無い。助かった。ありがとう。よく気付いてくれた」

ジャスミンは振り返った。

なぜ気付けたのだろうか。

見えていたわけではない。

見られている。

そんな感覚を覚えて見回した目に動き出したクラブが見えたのだ。

嫌な視線。身体の芯に悪寒を感じる視線。あれがガルベットなのだろうか。

「嫌なやつら。絶対、皆殺しにしてやる」

地球。

あの青い空でガルベットを撃墜する。ジャスミンはすでに次の作戦に思いを馳せていた。

静かな嵐作戦は火星派遣軍の勝利で幕を閉じたのである。


おわり

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