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突撃

ロザリアは爆発の光を見た。

ルナシャークの爆発か、クラブの爆発か。確かなのはそこで戦闘中という事だけだ。

「戦況を出します」

アビゲイルが告げスクリーンにコンピュータ処理された戦場が映し出された。

ホッパー隊はまだアクティブに電波発信していない。カメラの捉えた光学情報を処理している。ロザリアは識別されたクラブの動きを観察した。

シャーク隊は上手くやっている。

戦術を変えた事はすぐに分かった。敵の目を上空に向けさせるという点ではリスボンの策でも同じだ。しかしあれでは損耗が大きいだろう。ロザリアはそう感じていたが、口出しはできなかった。命令の一言で押し切れる力関係とは言えない。規律だけでは人は動かない。

ジーンの戦術は確かだ。空は任せられる。

次は自分だ。

ライドスレーブ隊を放出するタイミングを図った。残りの距離と敵の動きを見た。

シャーク隊の二次攻撃がまもなくやって来る。

クラブはそれを迎え撃つ構えだ。

敵を示すアイコンが規則的に組まれつつあった。

アイコンの一部が軌道を変えた。

来る。

距離はどうか。

頃合いとロザリアは判断した。

「ライドスレーブ放出用意!」

デッキの兵は移動時用の固定具を外した。

「ライドモード変形!」

小隊長の指令が飛んだ。

可変機動装甲走行機が兵装としての名称だが、兵士達はそれをライドスレーブと呼んでいた。二輪モーターサイクルの基本フレームから多くのバリエーションが作られている。

ルナシャークにもサバイバルパックに組み込まれて搭載されている。軽武装で高速移動に向いた仕様にされている。

機動部隊は重武装だ。全面装甲とビームランチャー二本とマイクロミサイルパックを持つ。ランチャーの内の一本は他の兵装に持ち替える者もいる。二本のFDランチャーは各小隊で必ず持たなくてはならない。ロケットランチャーやバズーカなどの実体弾を好む者もいる。高出力型ジェネレータは少し大きく重いが、それによって標準ランチャーは弾切れの心配がなかった。

ロザリアはホッパーのキャノピーの天井ハッチを開けた。ヘルメットに専用光学双眼鏡を取り付けて覗いた。

スクリーンのアイコンではなく、その目で敵を見たかった。

クラブ。

ズームイン。

生物を思わせるその外観は何度も画像で見ている。今それを肉眼で見つめている。改めて強く意識した。先程の迎撃が初めての交戦だった事を。

徹底して行ったVRシミュレーションで、初体験感は薄れてしまっているがあれが初めてだったのだ。

これが敵だ。

その姿を目に焼き付けてロザリアは指揮デッキに降りた。

「通信開け!やるぞ!ぶちかますぞ!放出!」

雄叫びをあげる者。ただ飛び出す者。祈りを捧げてからいく者。

ライドスレーブ達は月面すれすれに飛び出した。

「ミサイル全弾用意」

「ミサイル全弾、用意良し」

「上昇、高度200、全速前進」

隊列を組んだライドスレーブ達の前に出たホッパーが高度を上げてクラブに向かった。

敵も先陣を切るロザリアの乗機に矛先を向けた。

「ミサイルの射程に入ります」

アビゲイルが告げたがロザリアは動かない。

アビゲイルにも操縦士達にも焦りは無かった。

クラブが先に発砲した。

ビームが掠める。

身体が熱い。ロザリアは火照りを覚える。興奮が全身を走った。

「ミサイル全弾発射」

その声はあくまでクールだ。

「発射」

高機動ミサイルが飛ぶ。

「ホッパーをオートドライブに切替」

「切り替えます」

敵のビームがキャノピーに触れた。穴が開いたがそれだけだ。高機動ミサイルが複雑な軌跡を描き飛んで行く。

航法スクリーンがオートに切り替わった事を告げた。

「行け」

操縦担当の二人に告げる。キャノピーの後部ドアが開いた。スプリング仕掛けの押し出しで二人のライドスレーブが後方に排出された。

「出るぞ」

アビゲイルは既にライドスレーブに跨り準備している。長居は無用。ロザリアは作戦開始後に初めてライドスレーブに跨った。ずっと立つかデッキに座り込むかしていたのだ。

準備完了。アビゲイルにサインを送ると即座に排出。ロザリアも続いた。

ライドスレーブが少し後方回転して星空が見えた。火星で見る星空と何も変わらない。

その星空をビームが切り裂いた。

モードチェンジ。

二輪走行形態からパワードスーツ形態へ。

ホッパーはまだ飛んでいる。自動操縦はビームを躱していた。ライドスレーブの空中機動性能は高いとはいえない。地表付近でこそ機動性を発揮できる。ロザリアは急降下した。アビゲイルは先行している。「なんでもできる子」といつもの様に感心した。

発射したミサイルは一発も当たらなかった。ホッパーは敵のビームで蜂の巣になった。小さな爆発。残っていた推進剤が飛び散ったのだ。

軌道を変えたクラブの一体が自分に向って来る。ロザリアは姿勢を整えてランチャーを構えた。

いや。敵の狙いはアビゲイルだった。アビゲイルは降下姿勢を崩す事なくランチャーを構えている。

ロザリアは発砲した。

まだ遠いが撃った。収束力を失ったランチャーのビームはクラブのシールドであっさり拡散してしまう。クラブはアビゲイルに向かって進むがビーム攻撃はしなかった。クラブは人間を捕獲する行動を見せる事がある。これまでの戦闘でも分かっていた行動だ。ロザリアは射撃する事なくアビゲイルに向かうクラブに疑問と違和感と悪寒を感じた。

コイツらは皆殺しにしなくては。

頭に浮かぶ思いは明瞭だ。

ランチャーの有効射程に敵は踏み込みビームはシールドに食い込む気配を見せた。

アビゲイルも射撃を始めた。姿勢を変える事なく撃った。

真っ直ぐアビゲイルに向かうクラブを一本の火線が貫いた。

FDランチャーの攻撃だ。

先に飛び出して降下した兵が月面でランチャーを構えて撃ったのだ。

もう一閃。二丁のFDランチャーの攻撃でクラブはシールドを失った。ロザリアとアビゲイルのビームがクラブの本体表面に届き焼き付かせる。穴が開く。

目の前の敵が攻撃力を失ったのを確信してからやっとアビゲイルは降着姿勢をとった。

ロザリアも姿勢を変えて、ギリギリの高度だと気付いた。ギリギリだが問題ない。

アビゲイルは自分より低かった。自分が正常に着地できる事を確かめて、アビゲイルを見た。降下速度が速過ぎるように見える。

降着は無理か。ここでこんな形で彼女を失うのか。

アビゲイルのライドスレーブが変形した。ライドモード。降下はスレーブモードで行うものだ。そう訓練されている。

アビゲイルはライドモードにチェンジした。

スレーブモードは機動性を高める為にバーニアが三次元軸に振り分けられている。ライドモードでは後方に集中する。

フルバーニアでアビゲイルの軌道は大きくベクトルを変えて月面に水平になった。

なるほどと感心するロザリアだ。確かにあの手は機能的に正しい。それでもそれをやってのけるとは。改めて「何でもできる子」と感心した。

先頭に立つ形になったアビゲイルが叫んだ。

「みんな!続けええ」

またもロザリアは感心するばかりで、ライドモードに変形しアビゲイルに続いたのだ。

上下の攻撃は的を射ていた。

クラブどもは月面から迫るライドスレーブ隊に攻撃しようと高度を下げた。

ルナシャーク隊が迫ると高度を上げた。

その時その時では最適と思われる行動を繰り返して、ライドスレーブ隊の前進を許してしまっている。

敵も味方も数を減らしながら、やがてライドスレーブ隊はリレー基地にあと一歩と迫ったのだ。

ロザリアの小隊も半数を失っていた。

目の前が開けた。近付いてみればリレー基地の巨体を見上げる位置まで進んでいる。

シャーク隊の次の波が来るのだろう。敵は手薄に見えた。

ロザリアは小山のような基地の中腹を指差して振り返った。アビゲイルは当然そこにいる。

「あれか?」

「そうです。あれです」

アビゲイルのライドスレーブには標準武装の他に多機能センサーユニットが装備されていた。電磁ネットを展開する放射アンテナがあるはず。見た目でもそれらしいと分かるが、何しろ敵のテクノロジーには未知の要素が残っている。

既に飛びつける程の距離だが、ライドスレーブの空中機動性能を考えればもっと近付きたい。

ロザリアは地表をつかず離れずの高さで飛んだ。アビゲイルが続く。小隊が続く。他の隊も続いた。

攻撃は無い。

無い。

余りに無さすぎる。

「用心しろ。周囲警戒怠るな」

もう登れるか。

ロザリアが次を考えたその時だ。

「下」

アビゲイルが叫んだがロザリアは跳ね上げられていた。回る世界で見た。

多くの兵が跳ね上げられている。

月面に叩きつけられた者もいる。

激突した者もいる。

ハサミ状のアームに捕らえられた者もいる。

無数と思えるクラブが一面に伏せていた。一斉に脚を伸ばしてアームを振り上げたのだ。

跳ね上げられてしまったものの、ロザリアにダメージは無い。直ちにランチャーを構え直して撃った。

当たった。やれる。地上のクラブはライドスレーブで十分戦える。勝てる。目標を目の前にして足踏みさせられた形だが、ロザリアは手応えを感じていた。

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