獣人視点での三人
モブのちょっとした才能が見えます
これで無自覚チートが出来る!
《ライオンの【獣人】エインズの場合》
きっかけは誰かが言った一言だった。
「【宇宙人】って本当にいるのかな?」
【宇宙人】ーーーそれは遥か昔、異世界から来たという【人間】に似た種族。【異人】とも呼ばれている。
恐れを知らず、言葉が通じず、自然の脅威を知っていて、あらゆるスキルを習得でき、他の大陸でも生きられるらしい。昔、魔王を倒した勇者とその仲間も【宇宙人】だったそうだ。
他にもいろいろと偉業を成し遂げたそうだが、ここは省く。
「話せるかな?」
「どんなの食べるんだろう?」
「強いかな?」
会ってみたい。見てみたい。話してみたい。
それは俺も例外じゃなかった。すっごいワクワクした。【人間】は本の中でしか見たことがなかったから。
仲間を集めて、円を描いて、グルグル回って、呪文を唱えて。
「オーマイガッ!」
本当に来るとは思っていなかったんだ。
現れたのは二人の雄と一人の雌………ん?雌……か?雄みたいな匂いが…。
まあ、いいか。
三人とも調べてみたが、敵意のある様子もないし、危険なスキルも持っていなかった。
でも三人ともスゴイな。
【転移】なんてレア中のレアだぞ。それは【陰陽】が使える魔族のほんの一部だけが習得できるのに。それ以外の種族が使ったら、一部欠損とかするのに。あれ使って五体満足ってあり得ない。
【錬金術】もレアだな。あれは【ドワーフ】だけが習得できるもんじゃねーか。異人だな。
【擬態】もスゲーよ。あれって擬態する相手の精神にも擬態しちまうから、自我を失う危険性があるのに。それを使えるって精神が強い。
【言語共有】も5つは言語を習得しないと覚えられねースキルだし。
【二枚舌】は大したことねーけど、【障壁】ってパッシブじゃなかったか?あれって確か自分以外の全てを弾くもので、精神状態が異常な奴が他人を拒絶するためのスキルだ。それをアクティブって、精神をすぐに切り替えているってことかよ。
それにしても、一番はこれだよな。
【運命神の加護】
説明:運命神に与えられた加護
効果:絶対の運命に介入することができる
【モブの特権】
説明:モブ中のモブに与えられる特権
効果:どんな場所にいてもトラブルに巻き込まれない
俺と数人の高レベルな【鑑定】持ちにしか見えなかったものだ。
運命神なんて聞いたことねーから、多分彼等がいた世界の神なんだろう。どちらも強力なスキルだろうが、効果が分かりにくいもんだ。
攻撃系がねーのが心配だけどよ。
こいつらの図太い神経なら、やっていけそーな気がするわ。
*****
《ハクチョウの【獣人】コレーの場合》
まさか私のお店に来てくれるとは思っていなかったわ。
「石を鑑定してほしいのね?」
「はい、お願いします」
礼儀正しくていい人たちね。
鑑定したけど、そこまで情報は開示されなかったわ。それでもいいって、スキルを使ってお礼を言われるなんて初めてだったわ。
うん。あんな素直な【人間】なら、この世界でも大丈夫じゃないかしら。
そう思っていた時期がありました。
「大変だ!空が!」
「ヒッ!なんなのこれぇ!」
空が金色になっていたの。
朝は白、昼は青、夕方は緑、夜は黒だから、異常だって分かったわ。
後で聞いたんだけど、どうやらどこかで勇者召喚が行われたみたいよ。戦争の始まりの予兆ともされるわけね。最近では種族間の争いが絶えないもの。いい加減決着をつけようってことかしら。
「【宇宙人】の三人がいない!」
この一言にみんな恐怖したわ。
あんなにみんなと打ち解けて宴会をしたのに、一気に敵になるかもしれないの。しかも、他の大陸にも行けるし、ある種族にしか使えないスキルを習得できる。
とても脅威だわ。
念の為に客人として扱うことで敵意を向けないでもらおうってなったけど。こちらの勝手で召喚しちゃったんだもの。殺すなんて出来ないわ。
しばらく経って、みんなで作ったサークルの中心に三人が戻ってきた。
なんか疲れている感じがするけど。
真っ白な街にいた………って。
それって【色抜けた街】のこと!?
あそこはこの大陸の端よ!?ここから馬車で二週間はかかるくらい遠いのに!
しかもナメクジに蜘蛛の脚、ってE級の魔物じゃない!10階級で5番目の強さを誇る【ナメクモ】でしょう!?戦闘スキルもないのに生還!?
逃げてきたって…。
ちょっとお姉さん分かんないわ。
*****
《スカンクの【獣人】プークの場合》
勝手に召喚を、それも【宇宙人】を呼ぶとは…馬鹿か。
サークルを作っていた中には馬の獣人も、鹿の獣人もいたようじゃが。
どうやら三人は勇者召喚されたのではないらしい。
それは良かった。同じ姿をしている【人間】に唆されて、この大陸に戦争を持ち込まれたら堪らん。
過去にも何人もの【宇宙人】が唆された。中には違うものもいたようじゃが、その後はよく分かっておらん。いつ起きるか分からない魔王とやらを恐れ、勇者を召喚する奴らは、教会を除いて不義な扱いをされていたらしい。伝奇では、ある王国が勇者を隷属化していたという話もある。
この三人が召喚されたとしたら、一族の勝手で呼び出された上に奴隷だ。申し訳が立たん。
ついでじゃ。もし勇者なるものが魔物として【獣人】を狩りに来るかもしれん。人間主義の思想があったら可能性はある。
交渉はそこそこじゃった。
「で、どうじゃ。ワシら【獣人】を護り協力することを誓ってはくれんか?」
「あー…、族長さん。その話、受けます。その代わり、滞在中の世話はお願いしますよ。おれ達文無しですから」
「いや、わかっておる。約束しよう」
やけにあっさりしておる。ワシらのために命を賭けろと言っているのに。
よし、何かがあってもこの三人がおる。
言葉が通じない【宇宙人】相手にも、こやつらが交渉してくれよう。
「あと、すっごく古臭い言い方になるんすけど。八樹から」
「ん?」
「俺たち三人は、力の限り此処を護ると誓う。恩返しと、仁義を護るために」
「恩返し?」
「こうして過ごせるのも獣人さんたちのおかげだし、衣食住の恩返しはしたい。それが仁義ってモンだ」
勝手に呼び出されたのに、文句も言わずに過ごし、挙げ句の果てに感謝。
過去にいた【野蛮勇者】の伝説には、勇者は勝手に家宅捜索をし、ジンケンというものを長ったらしく叫び、文句を散らしていた。
どこまで常識外なのだろうか。
証拠のために、と出された紙で更に驚いた。ツルツルだ。
この世界の一般的な紙は【モクットン紙】という木の表面を加工したもの。表面はザラザラとしており、インクが滲みにくいものである。
試しに一枚貰い、インクで書いてみたが。
なんてことじゃ!全く滲まん!しかも書きやすい!
これは大いに研究する必要がある。上手くいけば、ワシらでも生産できるかもしれん。
彼らへの投資の意味を込めて、それ相応以上の金額で譲ってもらった。
異世界の技術。侮れんもんじゃな。
ワシらの足元を見てくることもない。まだまだ交渉術が甘いが、これから成長するじゃろう。