無視スルナ!
ファンタジーって頭が痛くなるものがありますよね。
拝啓。
遠い世界にいる父さん、母さん。
そちらは今どのような状況でしょうか。
お二人の愚息は今、鼻に花を詰めながら頑張っております。
「ぐぁああああああ!イッテェええええええええ!」
「鼻血が出たらガーゼでしょ?」
「これ意外と吸血力バツグンだなー」
「確かにガーゼだけども!」
【獣人】にとってのガーゼは【人間】のものとは違う。
ガーゼと称して鼻に詰められたソレは、モクットンという花。日本で言うところの木綿だ。この世界のガーゼの原材料になるらしい。
絆創膏もあった。中のガーゼが花びらでビックリした。包帯にも花びらの一部が混ざっているのが見えた。
モクットンの肌触りはガッサガサ。
ちなみに、花からは血液に反応して、止血作用の液体が出てくる。花びらのままであれば、半永久的に出てくるらしい。
ソレがめっちゃ沁みる。
「鼻がー!鼻がぁあああああ!」
「目がーryみたいに言うなよ」
「おま、お前らなぁ!」
「だってあんなに運動オンチだとは思わなかったんだよ」
俺のステータスはほぼ脳にいったらしい。運動なんて最近は神社の階段を上るくらいしかしていない。
ああ、あと全員【翻訳】のスキルはゲットした。ただひたすら翻訳をするだけの簡単な修行。2日で習得したわ。
ただし、俺と十哉はまだレベルが低いから、カタコトと一部の言語しか聞き取れない。【獣人】の文字は読めるんだけど。
そこは英語と同じく、聴いて覚えよう。
「で、二人は何のスキルを習得しようと思ってるの?」
「俺は【発火】にしようかと」
「おれは【察知】だなー」
「僕は【幻惑】かな。まさか八樹がそれを選ぶとは…」
「焚き火が楽になるだろ?」
「「それもそうだ」」
俺が選んだ【発火】は、【属性魔法】シリーズの一つ。
属性は【発火】【放水】【突風】【土竜】【雷撃】【陰陽】の6つのこと。他は漢字で察せるだろうから説明を省くとして、【陰陽】は光と闇のこと。これは【混血児】だけが使えるスキルで、クォーター以降は不可能らしい。
「俺は図書館的な所に行くけど、お前らはどうするんだ?」
「おれはまだ残る。目隠しして見ろって言われてたし」
それは透視じゃないだろうか。
「僕も残るよ。『狐狼人餐RPG』するから」
「ライアーって嘘つきだっけか」
「そうだよ。僕達の世界のマフィアゲームみたいなのらしいよ」
「「ああ〜…」」
こいつなら勝てそう。嘘が得意だし。
ぼっち状態で町の中心部へ向かう。
近付くにつれて【獣人】以外の種族も増えた。この町の人たち以外が、俺を見てヒソヒソ話している。
やっぱり【異人】は珍しいのか。
「……【人間】……?」
「…ゼ……ニ?」
「……?あrえ……がnいン……?」
「
中心部には【ギルド】がある。この人たちは最近来たのだろう。あまり詳しくは聞いていないけど、この近くの光る森は強い魔物が多いらしい。ある程度退治しなければならないから、その為に来ている人たちなのだろう。
「うわ〜お、やっぱ見られているな」
あちらこちらの人たちが俺をチラ見してくる。気分がいいものではない。
エルフ耳な種族が何人かいる。獣人さんたちは見れば種族が分かるらしいけど、俺たちは判断出来ない。それ用のスキルはあるらしい。
「オイ」
あと、俺たちが【人間】じゃないのは丸分かりだそうだ。この国にいる時点で、もうすでに別の何かだって。
「オイ、オ前」
でも【人間】が神様の加護の代償で大陸外に出られないんだったら、俺たち【異人】は加護無しってことじゃねーか。
加護っていうのがどんなものかは分からないが、それがないってのは絶対に不利だよな。
「無視スルナ!」
「うおっ!?…え、俺?」
「オ前ダ!」
肌が浅黒く、翠色の髪のエルフ耳男に声を掛けられた。おお、金目だ。
そしてカタコトだけど言葉が通じている!!
ずっと呼びかけられていたようだが、俺だとは思わなくて。掴まれている腕が痛いです…。
ってかこの人、すっごい不審者を見る目をしているんだけど。俺、そんなに怪しいのか?
「オ前…ナゼ【人間】ノ容姿ヲシテイル?」
「なぜって…生まれつきコレだし」
「ソノ【魔力】ノ色は【人間】ジャナイ。ソレドコロカ、コノ世界ノ者ジャナイナ」
「ん?ああ。俺は【異人】だからな」
「【異人】?」
まさか知らないのか。もしかしたら前例が無いのか、古すぎて伝わっていないのかもしれない。
あ、分かりやすい言い方をすればいいのか。
「別名【宇宙人】とも言うらしいな」
「【宇宙人】!?本当ニイタノカ!?イヤ、ソレヨリナゼコノ世界ニ…?」
「いるんだなーこれが。俺も【異人】以外は初めてだから楽しいよ。この世界には偶然だけど、帰る前に観光をしようと思ってだな」
「……本当ノヨウダナ」
え?
何?なんだよ。
スルッと腕を放された。一体何だったんですかね?
チラッと男を見ると、眼の色が金から透明になっていた。初めて見る色だ。
「失礼シタ。マサカ【異人】ニ逢エルトハ思ハナクテナ」
「いや、気にしていない。【人間】が大陸外にいたらビックリするもんな」
「アー…マァ、ソレモアルガ…」
強力なスキルを持つ【人間】がいたら怖いもんな。歩く兵器ってことだろう。
ミサイルみたいなスキルもあるんだろうか。あったらあったで怖い。
「ン…ゴホン。オレノ名ハ海磨・シルファー。【魔族】ダ」
「俺は天城八樹。よろしく」
握手かと思ったら左手の拳を出された。上から、下から、最後に正面から軽くぶつける。
これが【魔族】の挨拶らしい。俺も握手を教えておいた。
図書館まで案内してもらうついでに、先程の魔力の色について訊いてみた。
魔力には種族によって色が異なるらしい。とは言っても、見えるのは【召喚】スキルで【霊族】と契約しているとか、特殊な者にしか見えないようだ。
【魔族】・・・紫
【獣人】・・・橙色
【人間】・・・白
【エルフ】・・・緑
【ドワーフ】・・・黄色
【魚人】・・・青
【亜竜人】・・・薄紅色
【霊族】・・・銀色
【竜族】・・・紅色
【神族】・・・金色
っていうのが普通らしい。【混血児】だとマーブルになる。
で、俺のは無色。それは無いってことなのでは。
と思ったけど、違うみたいだ。若干ではあるが、キラキラと砂金が混ざっている感じらしい。わかりづらっ!
この後も色々聞いておいた。
光る森には死霊がいるらしいから、二度と近付かないと決めた。
図書館の名前は【大図書展覧】という。
…本が展示されているだけでなく、読めるから勘違いしないように!
ガラスみたいな透明な板の向こうに、ギッシリと並べられた本たち。こうやって保護しているのか。
受付の人はトキの獣人だった。絶滅危惧種のようだけど、数は【獣人】の中で6番目に多いからそうでもない。
本は持ち出し禁止だって。大学でも赤シールが貼られている本はダメだったな。懐かしい。
とりあえず基本的なものを読み進めていく。コピー機はないから、ポケットのメモ帳に書いていった。地図は…誰かから貰うか、買おう。
今度はスキルについての本。大量にあるところから探していると。
「……ん?」
いかにも、怪しげな本たちを見つけた。
赤黒い表紙で、鍵付きの本たち。
白い表紙で、訳が分からないお札が貼られた本たち。
黒い表紙で、包帯が巻かれた本たち。
青緑色の表紙で、全体に変な文字が書かれた本たち。
怪しい。
怪しすぎる。
トキの【獣人】であるトリアさんに訊いてみたら、
「こreは【魔導書】toいu本です。moち出しは勿論kiんshiで、読むsaiには私に言ってiただければ、hu印を解いてさしageます」
「封印?そんなにヤバい本なんですか?」
「eeeと、まず【魔導書】についてseつめiさせteいただきます」
【魔導書】とはスキルについて書かれた本たちを指す。
中には読むだけで習得出来るスキルもあるから、その保護のために封印しているらしい。
封印を解けるのはトリアさんと他3人だけ。
俺のスキルのことは初日に知っているからと、あっさり許可された。
それでいいのか。
「……おっふ」
まあ、読んでみたんですけども。
読めない文字がある。多種多様の文字が混ざっているのは、一部だけ漢字が見つかった。
正直、すごく感動した。
この世界に来てからというもの、日本語は大地と十哉としか話せないし、周囲の言語は難しくて聞き取れないし、文字は見覚えのないものしかないし。
まあ、すぐに感動は空へ還ったけど。
「隠界?…破滅……呪怨…神殺……自戒、深淵、混沌、終末…」
中学二年生が書いたのか?
あまり参考にならなさそうだ。勇者召喚とかアレだろ。ゲームかよ。
これは保留だな。他人の黒歴史には興味がある。
この後、めちゃくちゃ本を読んだ。
うっ…頭がッ!
漢字をカタカナ読みはよくあること。