コン!
UFO呼ぶことはよくありますが、その後どうするかって考えませんよね
えー、只今の状況をお送りします。
俺たちの隣にいたはずの【人間】は、今や猿の【獣人】になっております。
これなんてアンビリーバボー。
「………これ、戻るのか?」
「ウッキー?」
「童心に帰るのはいいけど、類人猿に還っちゃダメでしょ」
「誰が祖先だ!」
意外と厄介なスキルかもしれない。
大地のスキルは二つ。【言語共有】と【擬態】だ。
石を見せてもらった。もしかしたら、先ほどの会話の中に発動条件があったかもしれない。
《名前》
九重 大地(ここのえ だいち)
《性別》
男
《年齢》
18歳
《種族》
異人
《スキル》
【擬態】【言語共有】
《効果》
【擬態】アクティブ
【言語共有】パッシブ
《発動条件》
【擬態】イヤッフー!
【言語共有】オーマイガッ!
「「………あちゃー」」
「え、さっきのテンション↑がキッカケって事なのか!?」
「そうなるね〜」
「誰か予想できた者がいただろうか、いやいない (反語)」
いきなり猿になる、なんて体験はしたことがない。
本当にこの世界はファンタジーだ。あり得ないと思っていたことが、あり得てしまうんだ。悪魔も天使も、勇者も魔王もいるんだろうけど。
人に聞くのが一番なんだろうけど、夜も遅いし。それに、これはスキル効果。
だったら早い話。
「寝るに限る。おやすみ」
「おい!?寝るなよ!おれが猿のままで良いのかよ!」
「明日には治るって」
「そうそう。ただのスキルだろ?」
「……それもそうか」
納得したみたい。
いや〜。猿の隣に寝るなんて、貴重な体験をさせていただきました。
朝起きたら、やっぱり治ってた。
まあ、そうだよな。それが王道とか言うもんだろうし。
着替えが終わった時、ノックがしてアライグマ夫人が入ってきた。
「何かありましたか?」
「¥Em#&☆。%D¥$C々★+K*」
「おれたちに客だって」
「どうぞー」
夫人の背後から現れたのは、青いライオンの獣人さんだった。つくづく俺たちの常識が壊されるし、二人並ぶと捕食シーンにも見える。
名前はラパン。族長の使いとして来たらしい。
「S○#°€$*♤M~≦℃」
それだけ言って去って行った。
簡潔で良いな。校長先生とは大違い。
「後で族長の家に来てほしいって。なんか話があるみたいだなー」
「長くないといいなぁ。僕寝ちゃいそうなんだけど」
「寝るなよ。多分、俺たちの処遇についてじゃないか?」
「悪いようにならないといいけどな…」
「後で考えようよ。それよりご飯!」
朝食を済ませて、村長、またの名を族長の家に行く。
獣人たちが住む街の隣にある、オレンジ色の森。入って少し歩いたところに、小さな小屋がある。そこが族長の家。
族長さんはスカンクの獣人だった。ライオンかと思ってたわ。
「こんにちは!」
「どうも」
「突然すみません」
「◎*+N#/。L/=E%#€€×★£」
「実は…」
何て言ったの?
やっぱり俺と十哉はまだ理解出来ない。
説明は全て大地に任せた。言葉が通じるのがこいつしかいない。これは猛勉強しなきゃなんないな。大学受験以来だが、本気を出さねば。
「A#K/℃$!W*§~£€&S⌘」
「『教えてやるけど、いざという時に此処を護ると約束してくれるか』って」
「どういうこと?」
どうやら、この世界はやはりRPGの王道パターンだったようだ。
数ヶ月前、人間が住む大陸の方で地震があったらしい。俺たちからすればいつもの事だが、この世界では数十年ぶりだったそうだ。
そして、俺たちが白と灰色の街に行っていた時。空が珍しく金色になったらしい。この世界の夕焼けは翠色だから、それが異常現象だとすぐに知れたと。
空が金色になるのは、【勇者】が現れた予兆だそうだ。そして世界に災厄が齎される凶兆でもある。
「俺たちが召喚されたんじゃないかと思ったんだってさ」
「なるほどな。だからあんなに焦っていたのか」
生物はいつだって欲深い。俺たちが見ているのはほんの一部で、他の大陸に行けば戦争はいつだってしているらしい。
そして、最近は【エルフ】と【亜竜人】が縄張り争いしているらしい。それぞれの上位存在の【竜族】と【霊族】は我関せずだから、そこまで激しくないみたいだが。
「その災禍がここまで来るんじゃないかって恐れているんだ。僕たちは他の大陸にも移動できるしね」
「怖いっちゃあ怖いよな」
元々、俺たちはただの興味本位で街の人たちが勝手に呼んだらしい。オカルト研究部がよくやるUFOを呼ぶアレだ。本当に来るとは思っていなかったと。
警戒してしていたが、攻撃的でもないし、【検査】で体力面もスキルも見たが、杞憂だと察したらしい。
あの宴の時ですか。寝ている間に服を剥かれた訳じゃないらしいが、見られるとか恥ずかしいな。
俺の体育の成績2なのに。
この運動神経で旅をするとか、無謀だと思う。でも決めたことだ。
「よし、大地。族長さんに伝えてくれ。『俺たち三人は、力の限り此処を護ると誓う。恩返しと、仁義を護るために』」
「仁義って、極道かよ」
「カッコいいだろ」
「お願いだから桜吹雪の刺青とか入れないでよ?」
「それ職業ちがくね?」
口約束もなんだから、持ってきたレポート用紙に記入して血判を押した。指の腹が痛いです。
「¥$%&/#GT〃÷#」
「え?それはただのレポート用紙…じゃ通じないか。えーと、おれたちの世界では一般的に流通している用紙です」
なんかいきなり紙に興味持ちだした。
どうした族長さん。もしかして、羊皮紙しかない世界なのか。
レポート用紙全部あげてしまった。ってか買い取ってくれた。マジかよ。あんな紙二十枚が売れるとは。
あ、この世界での通貨は【G】だ。
銭貨(小さい灰色のコイン)=一円
銅貨(十円玉サイズのコイン)=十円
銀貨(縦長で3cmのコイン)=百円
白金貨(楕円形で5cmのコイン)=千円
小金貨(小判サイズ)=一万円
大金貨(大判サイズ)=十万円
紙幣(一種類しかない)=百万円
以上がこの世界の貨幣。日本円はだいたいの計算だから、あまり意味はない。
貰ったのは白金貨二百枚。小金貨よりも他の大陸で買い物しやすいだろうから、そうしてもらった。旅の資金にしよう。
族長さんにお礼を言って、教えてくれた家に向かう。
そこにスキル伝授をしている獣人がいるそうだ。戦う術を教えてもらうと言っても、才能とか関係しそうだけど。
簡単な護身術くらいは身につけたい。
これまた予想外。
「日本家屋!?」
「と、とりあえず入ろうよ。中はウッドデッキみたいなのかもだし」
「そうだな。ごめんくださーい!」
声に反応するのか。木造の扉は自動ドアだった。
道場みたいな所だ。完璧な木造建築だよ。もしかしたら昔、俺たちみたいに日本人が訪れたのかもしれない。
中に入ると、綺麗な菊の花畑が広がっていた。紅葉まであるって、秋だな。
「ウッドデッキ(日本家屋)だな」
「とっても和の心を感じるな」
石庭まであるんだけど。
池に小さな橋が架かっていても驚かない。むしろ知ってたって言う。
奥からパタパタという足音が聞こえてきた。お弟子さんか?
「*$%°#N##=○*B?」
狐の獣人さんが現れた。
「和服!?」
「着物!?」
「お面の意味あるのか?」
「八樹の注目箇所おかしいよ!?」
狐さんは紅葉が描かれた臙脂色の着物を着込んでいた。そして狐面。
意味、ないよな?
ニッコリと笑う狐さん。圧力がございますな。隈取りが特に。
狐さんは首に下げている石を握って、俺に近寄って頭に触れてきた。狐になでなでされるとかレアだな。
「コン!」
まさかの鳴き声!
目を見開いた狐さんは迫力が倍増。
あ、眼は狐目だった。
何をしているのか分からないが、狐さんの眼がいろんな色に変色しているのが不思議でたまらない。
もしかして、ただコレだけの効果?
「°F"×¥$%O&/#K~X*」
「ついて来いって…」
「え、さっきのなに?」
「¿D$//*L♦︎#$M&?」
「S&$°*☆々%N。∂%°O±¢€\V、C○3*♪▼$€#_J」
よく話せるなー…。
何度聴いても何て言っているのか分からないし、文字も多分見たことがないものだろう。ヒエログリフみたいな、何かに似せたものだったら分かりそうだけど。漢字は絶対無いな。
「さっきのは【覗憶】っていう記憶を見るスキルだって。手っ取り早いからそうしたってさー」
「なるほど。俺たちが説明するとなると、すごい手間が掛かるもんな」
「そういうスキルもあるんだ〜」
便利なもんだ。
狐ってことは、まさか【擬態】とか【幻惑】とかあんのかも。
狐さんに連れられて向かった先には、やけにふさっとした毛玉らしきものが、縁側から紅葉をつまみに酒を呑んでいた。徳利だ!?
なんの【獣人】だろう。
毛玉がゆったりと振り返った。ふさっ!というより、ぼわっ!って感じの髪は、毛先が尖っている。
そう、ハリネズミの【獣人】だった。
ゴリラみたいにマッチョな、白いハリネズミさん。
「M≪x%#3e$□*×¥♪!」
「俺たちのことは聞いてるって」
「O△々°%##//L♦︎&/ωU:~*」
「これからビシバシ鍛えてやるって…おれは平気だけど」
「おぉう…俺体力ないのに…」
「僕も…」
「ま、まあこの世界で生きるためには必要だろ!」
そうだけど。そうだけど!
おれはもう既に、この世界で生きていける自信が無くなってきた。