お触り禁止だよ
主人公は変わっている(褒め言葉)
「もう一回するわ」
「「もういいよ!」」
「『もう、ダメかもしれない』」
ホワイトアウト。
なるほど。あれは俺が【転移】を使ったから起きた現象か。
で、お次はこちら。
「わぁお」
灰色です。
全てが灰色の廃墟です。街の跡だと思われる。だいぶ朽ち果てているから、何十年も前に滅んだのかもしれない。
「うわ、枝が白い」
「白カビかもな。それに地面も白…いや、灰色?」
「空の色も灰色だね」
そう。見えている範囲全てが灰色みたいになっている。色が抜け落ちている。空は曇りっていうわけじゃなくて、青い部分が灰色だ。雲は白い。
不思議なことに、空の遠くには蒼空が見え隠れしている。ここら一帯だけ灰色。
「【転移】って移動先はランダムなのかもな」
「それに付き合わされるおれたちのことも考えてくれよ」
「そうだよ。もしも剣山とか火山口だったらどうするの」
「ごめんなさい。そこまで考えてませんでした」
右も左も分からない世界では軽率だった。どこに何がいるのかも知れないのに、ポンポン移動したらマズイ。
結局、ここでは誰も見つからなかった。やっぱり滅んだ街なのか。盗賊とかが住み着きそうなんだけど。
そろそろ戻った方がいい。獣人さん達に何も言わずに来ちまったし。
「おーい。帰るぞー」
「ウィッス」
大地って本当に気が抜ける。さっきまで警戒心バリバリで探索していたくせに。
まあ、海外がそれほど危険ってことだったんだろうけど。
十哉が少し遠くから走ってきた。走り方は男らしいんだよなー。顔以外。え、すっごい泣き顔なんだけど。お前そんなに怖がりだっけ?
萌えもしない光景を見ていると、その向こうに何かが凄まじい勢いで走ってくるのが見えた。
泣き顔の原因はアレか!
「後ろのなんだよっ!?」
「十哉!早く来い!」
後ろのが徐々に見えてきた。
虫…か?1mくらいの、ナメクジにクモの足が生えたような化物が、ダカダカダカと十哉を追いかけている。
可愛いのに、そんなに怖いのか。
『ギュヤッ!』
「ひっ!?」
ナメクモ(仮)が小さいクモを吐き出した。ちっちゃくて可愛い。
チビグモも意外と速い。一瞬だけゴキ○リに見えた。アレは日本のは可愛いんだよ。外国のはグロいけど綺麗。
チビグモが一匹、十哉の脚に引っ付いた。よーく見たらチビグモも親に似てるわ。親子だ親子。
「お、お触り禁止だよ!」
ーーーバシィーンッ!
「うおっ!?」
「え、なにあれ花火?」
十哉がいつもの如く言っているセリフを言った途端、脚に引っ付いていたクモが弾かれた。次いで引っ付こうとする奴らも弾かれた。壁にぶつかったみたいに。
もしかして。
「…なあ、あれってスキルなんじゃないか?」
「【障壁】か!だから壁にぶつかったみたいに弾かれてんのか。納得」
大地は頭は悪くないんだが、いかんせん回転が遅い。ここでも発揮された。
事態に戸惑いながら、十哉がここまで辿りついた。石を確認するよう促してみる。多分増えていると思う。
《名前》
人吉 十哉(ひとよし とおや)
《性別》
男の娘
《年齢》
18歳
《種族》
異人
《所持金》
67円
《スキル》
【二枚舌】【障壁】
《発動条件》
【二枚舌】????
【障壁】お触り禁止だよ
「…マジで?」
「うわ、男の娘って性別かよ」
「男か女か分かんねーなー」
「そこなの?ねえ、そこ?」
「金って、これは持ってるって言える値段か?」
「失礼ね!」
十哉を散々disった後に、俺がスキルを発動した。
こういうのは、行きたい場所を想像しながらやれば、その場所に行けるっていうのがセオリーだよな。
あの街の名前は分からないから、獣人さん達のことを思い浮かべながらやる。
「『もう、ダメかもしれない』」
ホワイトアウト。
「よっしゃ!成ッ!功ッ!」
「うおー!ちゃんと元の場所だ!」
「よかったぁ…変な場所じゃない…」
ご丁寧に魔法陣の上に転移した。
まあ、特徴的だったから。すぐに浮かんだのがコレっていう。
獣人さん達から怒られた。どうやらずっと探してくれていたらしい。汗だくだわ。
「客人っていう扱いらしいぞ。【宇宙人】さーんって呼ばれた」
「俺たちってどこからどう見ても人間だよな。珍しいって言ってたけど、獣人さんからは何色に見えるんだろ」
「あー。肌色じゃないのかもね」
だからこその珍しさだとすれば納得。
人間を見たことがないってことだよな。別の大陸から出ないらしいし。冒険者とか商人などは、嬉々として別の大陸に行きそうなのに。
俺たちが泊めさせてもらっている宿は、アライグマの獣人夫婦が営んでいる。荷物(ただのレポート用紙の束)を見ておいてくれていたらしい。
その二人に聞いてみた。
曰く、【人間】は隣の隣の大陸にだけ住む種族である。
彼等は神の加護を与えられて、強力な【スキル】を所持しているが、魔力量が少ない者がほとんど。その【スキル】はその大陸内だけでしか発動せず、強力な力の代償として大陸外では生きられない。
まあ、なんというか。
「不便だな」
「世はグローバル化しているのにね」
「だからおれたちは『宇宙人』か」
別の大陸で生きているもんな。【人間】ではないと思ってもおかしくない。
俺たちの力は見ての通りだから、危険視はされていないようだ。それも不思議だが、見世物にするということもされないのも不思議。
まあ、されないならいいか。
「で、どうするよ?」
「現実を叩きつけられたもんなー」
「楽しかったのに…」
俺たちは重要なことを話し合わなければならない。
この世界の文字とか、言語とか、宗教とか、あの化物とかもあるけど。
それよりも重要なことだ。
「でもこれは惜しいよな」
「それな。俺たちにとって良い機会だ」
「チャンスだよね」
俺たちは大変なことを忘れていた。
別にこれからの食事などの生活面とか、戦闘とか常識とかじゃない。
俺たちに絶望を与える存在。
「レポートをやらなくてもよくなるもんね!」
そう。
学生にとっては最大の敵であろう存在。
俺たちに絶望を与え、俺に【転移】を使わせた存在。
締切が近づいてきているというのに、題材さえ見つかっていなかった。「私たちは〜」さえも書いていなかった。
それが!
俺たちがいるのは異世界!つまり大学に行かなくていい!そしてレポートの課題なんてチャラ!
「俺たち全く完成してなかったしな」
「出せないから仕方ねーよなー」
「じゃあ、急いで帰る必要はないってことで」
「「さんせー!」」
俺のスキルで帰れるかもしれない、ということは分かった。
が!なぜ!すぐに帰らねばならないのか!冒険の匂いがするってのに!
まあ、一番の理由はレポートなんだけども。
俺たちだって男の子だ。少年の心は、冒険に敏感だ。
「よし」
「どーした?八樹」
「なんか思いついた?」
「そうだ、旅しよう」
「「『そうだ、コンビニ行こう』みたいに言うなよ」」
不安要素は盛り沢山。
文字、言語、宗教、常識、魔物、種族、戦闘、スキルのこと。
覚えなければならないことは沢山ある。
だが、後の楽しみが懸かっているとなれば話は別だ。
「明日、村長さんに話し合ってみよう」
「修行は誰につけてもらう?」
「んー…ゴリラさんとか猿さんがいたよね?体格的にあの辺じゃない?」
「まあ、それが妥当だな」
「イヤッフー!」
…………………あれ?
「あ、じゃあさ!大地!こっちの言語おし…え……」
「………え?」
「どーした?」
「………お前がどーした」
「え?」
「ハイ、鏡でござーい」
「あ、サンキュ。………………あれ?」
俺たちの方が「あれ?」って感じだわ。
突然隣で寝ていた【人間】の友人が、猿の【獣人】になるなんて思うかよ。
《名前》
九重 大地(ここのえ だいち)
《性別》
男
《年齢》
18歳
《種族》
異人
《スキル》
【擬態】【言語共有】
《効果》
【擬態】アクティブ
【言語共有】パッシブ
《発動条件》
【擬態】イヤッフー!
【言語共有】オーマイガッ!
ファンタジーが分かりません(白目)